プロローグ
例えば、ここにリンゴ一つあるとしよう。
赤々としたそれは、私に食べられるのを今か今かと待ちわびていることだろう。
だが、私は意地悪にもそれを食べてやらないとする。お前の思い通りにさせるものかと、にやけながら観察し続けてやろう。
するとどうだろう。
それは拗ねたのか怒ったのか、徐々に機嫌を損ねはじめ美しい外見を崩していく。
それでも、私は放置する。花を愛でるかのようにその過程を見守っていこう。
何時間、何日、何ヵ月と放置されたそれはやがて、美しく可憐な表情を完全になくし、腐敗し、朽ちていくだろう。
まあ、私はそんな鬼畜な真似はしない。なぜなら、リンゴを愛しているからだ。愛しているものを弄ぶ趣味など、私にはない。
今話したことは、すべて仮定の話だと思っていてほしい。
さて、私が何を言いたいのかということだが。
あなたにはわかるだろうか?このリンゴが腐り、朽ちていくまでの過程、時間そのすべてを。
先ほど話したように、長い時間をかけ観察し続けていれば、いつかはわかることだろう。
だが、私は未来ではなく現在のあなたに聞いているのだ。
わかるわけない。
その通りだ。湿度、気温、保存状況、その他多くの環境によりそれは異なるだろう。
だが、もしそれら環境がどんなものであれ現在のあなたにわかるのだとしたら?リンゴがどのように腐り朽ちていく過程そのすべてを理解できるのだとしたら?
あなたはあり得ないと鼻で笑うだろう。
大丈夫だ。私はそれくらいで気を悪くしたりはしない。慣れているからな。
正解は、32日と4時間25分13秒だ。
当てずっぽうだ、適当だ。
確かにその通りかもしれないな。
だが、これだけは覚えておいてほしい。あなたに理解できないことなどこの世に星の数ほどあるということを。
さて、私はそろそろ失礼する。こう見えても忙しいんだ。
あなたに幸多き未来が訪れることを願っているよ。
では、また会おう。




