名探偵
つまりだよ、君、なぜ、このようになったか仔細を説明する必要が生じたようだからいわせてもらうよ。私は先日免許をとり、つつまやしかな自家用車を手に入れた。買い物や駅送迎をサポートするとの条件で、わが親もそこそこの援助をしてくれた。
教習所に通っていたとき、親爺がいったものだよ。
「うまい運転というのは、サーキットみたいなテクニックじゃない。助手席に乗った人が怖がらないように車を走らせることなんだ」
「なるほどだね、ポワロ」
助手席に座るヘイスティングズ中尉がいった。
私はキーをまわし、エンジンをかけた。
新車ラパンが車庫をでる。
十字路の信号機が赤になったので、思い切りブレーキを踏む。
右折車が飛びだしてきたのだが、かろうじて、寸前で停止できた。
――私たちはなんて「幸運」なんだ!
私の運転はガサツで、中尉を苦しめていたはずだ。いま彼は、シートベルトに上体がかろうじて支えられ、がくんとなって首をおかしくした様子だ。親友である彼はとてもいい奴だ。免許とりたてである私の助手席に座って文句ひとついわない。恐らくはタフなんだろうな。
「こないだの件だけどね、君。ありがたく申し出を受けさせて戴くことにした」
「そ、それじゃ!」
「そういうことだ」
中尉が私の首筋にキスをした。
そういうわけで結婚を承知したという次第だ。私は白のウェデングドレスで身を包み、新郎である君・ヘイスティングス中尉にエスコートされて、バージンロードを進んでゆき、壇上に立つ教会・神父の前で永遠の愛を誓う。
鐘が鳴りだした。
参列者の祝辞と歓声。
さて、ここで謎解きをしておかねばなるまい。なんで私がポワロを気取っているかっていうことだ。正解は大学ミステリー愛好会OB。だから、浮気をして証拠隠滅をはかっても無駄だよ、君。なにしろ私は名探偵なんだからね。
END