いつもそばにおいてね、吸血鬼だけど
ファーストキスは十三歳のときだった。
「あなたの青い瞳は素敵、高い鼻も、金色の巻き髪も。好き好き、大好き!」
「カミーラ、キスのおねだりかな?」
「そうよ。健康そうな唇が大好きなの」
はじめておつきあいした彼とのキス。正直にいおう。このとき、私の頭のなかに、血をすすりたい、という欲望がわいていた。
彼の手が腰にまわる。
「カミーラ、愛してる」
たぶん、私は微笑んでいたのだろう。
彼は唇をよせてきた。
レアステーキ、あるいは生ハム、いやいや、お寿司のネタのような、それを求める欲望が私にわいた。もやもやとする感覚。
短く髪を切りそろえてきた彼。アスリートのように手足が長い。ちょっとニキビがあるのが残念だけれど、やっぱりいい。
「痛っ!」
彼が目を閉じた。
私は、「ごめん」という代わりに舌先で滲みだした血を舐めた。
「カミーラ、僕に近づいたのは、こ、これが目的だったの?」
私は目をそむけ、コクンとうななずく。
以来、キスはさせてもらえなくなり、けっきょくのところ、彼とは別れた。
大学卒業後、夫となったのは、同じ「愛好者」だった。しかし三十歳を前に、二人の間に子供ができてところで、素敵な習慣を彼はやめてしまった。煙草をやめるみたいに。
いま、フェイスブックで「献血協力者」を募集し、「そこ」に招いては呑ませていただいている。消毒した針を肩に刺し、そこから、にじみでてきた血をすするのだ。
ニューヨークのオフィスビルのワンルームを借りて、そこで私は念願の診察医療所を開業した。
「――カミーラ先生。そこそこ、痛い。で、でも、あっ、あああっ、気持ちいい」
暗黒街のダディー・六十五歳、常連患者様。……とても肩こりがひどいの。悪い血めっ、私が針でチクチクお仕置き。たっぷり吸いとっちゃうぞ!
ドクター・カミーラ・クリニックは本日も大盛況。
END