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はるのるはかえるのる
以前読んだ詩に、「るるるるる……」とばかり書かれたものがあった。教授に話したら、「それは草野心平という人の書いたものだね」という答えが返ってきた。
「この人が、最初に文壇に、宮沢賢治を紹介したんだ。『自分がはるかに及ばない詩人が岩手にいる』ってね」
キャンパスのカフェで、教授が座った椅子のテーブル越しに、「へえ」と私と友人のクロエはいった。
学生が群れる神田の古本屋に行く。すると夢枕獏の詩集があった。文学少女というよりは歴女のクロエは、この作家のヒット作『陰陽師』から、初期の作品を読んでいた。
「夢枕獏ってね、もともと詩人になりたかったんだけど、生活するため作家になったんだって聞いたことがある。そういえば、『上弦の月を食べる獅子』に宮沢賢治が登場していたなあ」
草野心平の作品をオマージュ? したように、その本にも「るるる……」ばかりだ。
夢枕獏の頭の中では、宮沢賢治と草野心平の間には、るるる、でつながっている様子。蛙の卵が糸蒟蒻のように連なって「るるるる」。それで『春』というわけだ。
冬眠する蛙 ●
卵 るるる……