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第5章 それぞれの決意 ~その4~

 洗顔をしてシャキッとし、鏡の前で笑顔の練習をする。

「よし!」

 気合を入れて、檜山は更衣室を出た。

 さすがに出入口の正面で待つ勇気はなかったのか、一条は少し離れた場所で窓の外を眺めていた。

「一条くん、お待たせ」

 つい今しがた練習したばかりの笑顔を作り、和馬の横に並ぶ。まだ腕を組むのは、どうしても遠慮してしまう。

 それでも、一緒に歩いていると居心地が良かった。


 ずっと、こんな時間が続けばいい。

 もっと、緩やかに時間が流れればいい。


 檜山は心の奥底で願った。

 しかし、その願いは叶わなかった。

 何の予告も、前置きも、前触れも無く、宇宙怪獣の襲来を告げる緊急警報が都市全体に鳴り響いたのである。

 まるで最後の鐘のように。

 そして砂時計は、終末に向かって急激に加速していく……。




 作戦会議は、当たり前だが生徒会室で行われる。

 約1名を除いて全ての生徒会役員および斑鳩のパイロット、そして全学年のクラス委員の全員が集まっていた。

「現状を報告します」

 書記の朱宮がひな壇に上がり、状況説明を始めた。

「宇宙怪獣が襲来し、新葉市に4つある東西南北のメインゲート全てに進撃中です。その総数は100体……」

 モニターにその様子が映し出された途端、誰もが戦慄した。事前にこの事態を察知していたマリアと新刻、そして和馬でさえ目じりにしわが寄る。

「北ゲートに40体、他のゲートに20体ずつの宇宙怪獣が向かっていることから、北ゲート付近の40体が主力と予想されます」

 朱宮は声を震わせながらも報告を続けた。

 新葉市には大小様々な通用門があるが、その中でも人や物の流れが多いのは、東西南北の正確な方位に設置されている門だ。

 それらの門をメインゲートと呼んでいる。

 宇宙怪獣がその4つのメインゲートを同時に目指しているということは、つまり……。

「新葉市は、完全に包囲された状況下にある」

 朱宮に代わり、今度は新刻がひな壇に上がった。

 どんな窮状であっても冷静に判断し、決断を下さなければならない立場にいる。その責任の重さたるや、和馬には想像さえ出来ない。

「最後に作戦概要を説明する」

 新刻の発案した作戦自体は、時間が無いこともありいたってシンプルだ。

 まず東ゲートに迫る宇宙怪獣20体を有人式斑鳩30機をもって殲滅する。手すきの生徒会役員と斑鳩のパイロットが30人なのだ。

 その後、新葉市を俯瞰すると時計回りに南ゲート、西ゲートと順に退治していく。そして最後に北ゲートの40体と雌雄を決する戦いを挑む。

 有人式斑鳩が辿り着くまで各ゲートの守りは無人式斑鳩と、それ以外の防衛戦力で耐え凌ぐこととなる。

 各個撃破は戦術の基本であるし、様々な制約のある中ではベストの選択に思える。

 ただ、こちらの練度が低いため、北ゲートに一体どれだけの有人式斑鳩が辿り着けるか未知数だが……。

 ともあれスピードが勝敗を分けることになりそうだ。有人式斑鳩部隊が殲滅するのが速いか、宇宙怪獣に防衛線を突破されてしまうのが先か。

「では、諸君の健闘を祈る!」

 新刻が説明を終えると、我先にと斑鳩のパイロットが生徒会室を飛び出していく。

 だが、和馬はほのぼのと檜山の弁当に手を付けていた。

「一条、なぜ出撃しない?」

 こんな窮地でもくつろいで弁当にハシをつけている和馬が滑稽に見えたのか、マリアの目が笑っていた。

「腹が減っては戦が出来ぬ、って言うだろ? 長丁場になりそうだからだよ」

「なるほどな。あとで私も何か腹に入れておくか」

 和馬の言を素直に聞き入れ、マリアは残った生徒達のもとへ向かった。2年生と3年生のクラス委員は他に指示があるようだ。

 1年生のクラス委員は教室で待機なのだが、檜山は和馬の隣に座って紅茶を注いでいた。そして先ほどのマリアの態度を見て、つぶらな瞳をさらに丸くしていた。

「檜山さん、ありがとう。美味しかったよ」

 ほどほどにお腹を満たし、和馬は戦いに赴く。

「また、お弁当作るから、必ず……」

「それ言ったらダメだ!」

「え?」

「よく知らないが、二階堂が言う所の死亡フラグが立つ? とかいうのになりそうだから」

「ぷ! なにそれ?」

 檜山は上戸が止まらなかった。和馬がそんなことを言うのもおかしかったし、こんなときに笑えるのもおかしかった。

「じゃ、いってくる」

 さらりとした挨拶をし、和馬は手を振る。

「いってらっしゃい」

 檜山も軽い返事で送り出した。胸の裡の不安を押し隠して。




「2人一組で担当地域を回るように!」

 そう言うマリアは1人で担当地域を受け持つ。

 新葉市を幾つかの地域に区切り、逃げ遅れた人がいないか巡回するのだ。これは2年と3年のクラス委員の男女どちらかが行う。

 各クラスには無人式の斑鳩が1体割り当てられていた。この無人式斑鳩はリモコン操縦だ。無人式斑鳩はあくまでサポートのために存在する。遠隔操作ではスムーズに動かせないからだ。

 そもそも無人式斑鳩だけで対処出来れば、有人式斑鳩などは存在しない。

 無人式斑鳩の指揮はクラス委員が執る。ただクラスによって男子の委員が指揮したり、女子の委員が指揮したりとマチマチだ。

 多分にクラスごとの男女のパワーバランスが関係していた。そして指揮を執らない方が新葉市の巡回を行うこととなる。

 マリアは生徒会の副会長として、巡回の責任者を任されていた。

「少しでも危険を感じたら、すぐに学園まで戻るか、付近のシェルターへ避難するように! 以上」

 その掛け声で解散となり、巡回に出る生徒は、地図を片手に各々が指定されたエリアを目指す。

 固形のバランス栄養食をかじりながら、マリアも地図に目を落とした。

「あ、あの……。マリア先輩は1人で見回りに行くんですか?」

 一条が弁当を食べている横で、檜山はマリアの差配をつぶさに観察していたのだ。

「そうだが?」

「でしたら、わたしが一緒に行きます!」

 自分が思っている以上に、檜山は力強く言葉を発していた。

「……1年生は教室で待機、と言っても聞きそうにないな。うん、では私のバックアップを頼む」

 マリアは口元を少し緩めながら、自分の持っていた地図を檜山に手渡した。

「マリア先輩、変わりましたね。規則、規則と厳しかったのに。それって、やっぱり……?」

「ああ、一条のせいだ。アイツのおかげで、私まで規則を破るようになってしまった」

 苦笑いを浮かべるが、どことなくマリアは楽しそうだ。


 アイツ、って呼ぶんだ……。


 2人の関係が気になり、檜山の胸が痛む。

「やっぱり、一条くんのことを?」

 気が付いたら檜山は聞いてしまっていた。

 しまった!

 と思ったが、後の祭りだった。

「なんだ、それが聞きたかったのか」

 マリアはやおら相好を崩した。

「はい……」

「気にならない、と言えば嘘になる。今後そういう関係にならない、と言い切ることも出来ない。ただ……」

「ただ?」

 今までの人生でこんなに緊張したことはない、というほど檜山は胸が苦しかった。

「私はまだ、以前付き合っていた恋人のことを愛している。その人は死んでしまったのに、いつまでも忘れることが出来ない。そんな女々しい女なんだよ」

 ふっとマリアは淋しげに、どこか遠くへ想いを馳せる面持ちをしてみせた。

「ご、ごめんなさい。わたし……」

 なんだかとても聞いてはいけないことを、檜山は無理に聞き出してしまった気がした。

「いや、別に構わないさ。私だって好きな男が別の女とキスをしていたら、気が気ではないからな」

 生徒会室でマリアと一条がキスしていたのを、新葉学園で知らぬ者はいない。

「一条や檜山さんが羨ましい。私にも、それくらいの積極性があればな」

 結果は変わらないが、もう少し後悔せずに済んだのかもしれない。そんな考えても詮無いことを、マリアは考えてしまう。

「まあ、キスしたのはお遊びだ。私には今のところ、誰とも付き合う気はない」

「そう、ですか」

 納得出来たような、うまくはぐらかされたような。檜山の返事は曖昧なものとなる。

「お喋りはここまでにして、そろそろ出発することにしよう。まさかとは思うが、聞きたいことを聞き出せたから行かない。なんてことは言わないだろうな?」

「は、はい。もちろんです!」

「では、よろしく頼む」

 マリアと檜山は自分の役割を果たすべく、生徒会室を後にした。

 第5章あとがき、および第6章の予告。


 もっと早く書きたいシルバーバーグこと、しるです。

 Blog(しるの「のほほん戦記」)やTwitterもやっているので、なかなか大変です……。

 さりげなくBlogの宣伝したところで、5章ですね。

 妄想爆発!

 いいトシして恥ずかしいことこの上ない……。


 いよいよ6章とエピローグで一区切りとなります。

 まあ6章は飛ばして、エピローグにいってしまった方がいいかも。

 なるべく早く、投稿します。

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