6話:赤一色
少し日時が開いてしまいました。スイマセン。
今日の夕方頃にもう一話投稿するかもしれません。
これからもよろしくお願いします。
その建物の外観は何の変哲もないただの箱だった。
要するに四角いのだ。それも綺麗な立方体で、窓はなかった。
入り口だけが口を開けており、それが一層この建物の独特な雰囲気を引き立てていた。
だがそれはただの箱、そうとしか見えないし、それ以上の捉え方は出来ないだろう。
高さ的には普通の一軒家、2階建てぐらいだろうか、それぐらいの高さしかない。
怜那が言うには、偉い人(このアジトの統帥者と言いたいのだろう)がいるらしい。
中に入るとさらに驚かされた。真っ白な空間にただ一つ、螺旋階段が中央に取り残されていた。
螺旋階段を上っていく。どうやら2階にいるようだ。
統帥者と言うくらいなのだから、ゴツイ筋肉をした男の人が出てくるのだろうか。それとも髭のお爺さんが出てくるのか。
「ここよ、あんまり失礼のないようにね」
そういうと、ノックをして一呼吸置き、ドアを開けた。
まず目に飛び込んだのは赤。足元が、赤の絨毯でいっぱいに広がっている。
壁や天井は白なのだが、それ以外のデスクやイスに加え本棚まですべて赤だった。
周りが白である分、余計に赤が引き立って見える。
そこは、どこにでもあるような事務室のようだった。過度な赤色の配色以外は。
「なんだい、人の部屋に入るなりキョロキョロ見回して」
すっ、と通るような声が聞こえた。
声のしたほうを向くと、そこにはやはり赤で統一した服を着た女性がいた。
細身で、モデルのような体系をした人だ。俺より身長がすこし高いように見える。
髪型は女性にしては珍しいカジュアルショートだった。
「え、あと………すいません」
「まーいいさ。ところでれーちゃん、そいつは誰だ?」
れーちゃん、とは怜那の事を指しているのだろう。名前が似ている分、わかりづらい。
「こいつは、私の……奴隷よ」
「俺は承諾していない。第一なんだこの展開」
「ほーぉ。パートナーか、こいつはまた面白い奴を連れてきたな」
俺のどの辺が面白いのだろうか? 面白かった自覚はない。
「おい、どーなってんだよ」
俺は小声で怜那に訊いた。
「え? 私のパー……じゃなかった。奴隷になったの」
「なぜ今言い直した!? というか俺はそんな話聞いてないぞ! 信じられなかったから来てみただけだ!」
正確には、信じさせるために連れてこさせられた、の受け身の形だ。
「そ、そんなの知らないわ」
「シラを切るつもりか! これは詐欺に値するだろ!」
「ありゃ、揉め事か? いいねー、若いってのは」
そんなこと言ってるけれど、あなたも十分若く見えますが。
いや、心の中でお世辞を言うのはいい。
「灯花さん! とりあえずこいつは奴隷です!」
「やめろ! 人権のない人間じゃない俺は!」
「ひゃひゃひゃっ! あんたら面白いわ、いい奴見つけてきたなぁれーちゃん」
「灯花さん、れーちゃんって呼ぶのやめてください、子供みたいですっ」
そういって頬を膨らませる怜那。その時点でもう子供だ。
「いいじゃないか。それより、君はなんていうんだい?」
「音城………玲夜です」
「あれ! いや~、いい具合にかぶってるねぇ、じゃあ………『れーくん』、って呼ぶことにしようか」
「かぶってるからいやですっ!」
怜那が真っ先に言った。確かに俺としてもそのあだ名には抵抗を感じていたが。
「なんだよ~。じゃあ『れいやん』でいいかな? れいや、と一応かけてあるから」
うぁ、ダサすぎる……いまごろ『やん』なんてつけるあだ名なんて聞かない。
「ま、まぁ……いいんじゃないの? あんたにはぴったりよ」
絶対に思ってない。というか心の中で笑ってるだろ。
「そんなことはまぁいいとして、れーちゃんからほとんど説明は聞いてるかな?」
「えーまぁ、大体は……」
「能力の説明がまだ済んでないけどね」
「ああーそうか、れーちゃんじゃあ説明しにくいもんね。じゃあ私がしようか」
そういって灯花さんは、指をぱきぽきと鳴らし始めた。
そして腕を掲げると──────炎剣がその手に出現した。炎で造られた剣だ。正確に言えば、炎が剣の形を模している。
ゴオゥ! と燃え盛るそれは、赤々としていた。
「炎の剣って……?」
「そ、これは簡単なものだけどね。説明する手間が省けるだろう? 能力だよ」
バン! と炎剣は弾け飛んで、跡形もなく消え去った。
「灯花さんは、炎に関する能力、『炎の応答』だよ」
「…………」
俺はもう唖然とするしかなかった。現実ではありえないことがいとも簡単に行われている。
剣の形の炎? そんなもの漫画の世界でしか見たことない。
信じたくない。しかしこれが本当のことだった。今自分が実際にこの目で見た現実だった。
残念ながら俺は、すげぇ! とかいって盛り上がれる少年のような性格はしていない。
ひねくれているから。その性格になったのはいつからかは分からないが。
「わーお、れいやんびっくりしてるよ。ま、信じてもらえたかな?」
「ちなみに私の能力は、超回復と身体強化の2つをあわせた『強化の神秘』」
「ああ、そうかい。かっこいいお名前ですこと」
「なにそれ! バカにしてるよね、してるよね!」
「そういうことで次に話をすすめるけどさ、私たちがここでなにをしているか、ということ」
それは気になる。こんなところにいるのは、能力が面白いからかっこいいからという理由ではないだろう。そうだったとしたら痛い方の人だ。
そうでなきゃこんな現実とかけ離れたところにいたくなんてない。
「私たちはね、対立しているってことは聞いたかしら」
「ああ、怜那がいってた」
「それはね、ほんの数年前のことよ。この世界が発見されたのはほんの数年前。誰が発見したのかなんて知らない。でもね、まだこの世界の全体図はつかめていないの。言うならば地図が出来ていない。ここが全体の何分の一なのかも分かっていない。そんな中で、あるものが発見されたの。神殿と言ったら分かりやすいかしら。そこには私たちが今説明した、能力やその他いろいろなことが書かれていたの。誰が何のために?それは分からない。それが知りたいっていう目的もあるけど、一番の目的は、その神殿から発見された『鍵』を守ること」
「『鍵』?」
「そうよ、とはいっても外見はみんなの考える鍵じゃないけどね」
「てか、何で守っているんですか? 何か意味があって?」
「『鍵』、と言う時点でどこかを開くためにあるものということはわかるでしょう? でもそれは、危険なものだと私は考えるの。能力があって、神殿があって、しかも別世界で。これはどう考えても危険なの。そうは思わない? だから私たちは守ってる。それも敵対する組織が異常に反応するから余計に、ね?」
確かにそうだろう。なんのための別の世界なのか。謎なところばかりだ。
だからこそ一般的に考えて、なにかを確かめる前に、危険性のあることには触れないと考えるわけだろう。
それは正しい選択だと俺は思う。
ただ、彼女の言っていることが建前ではなく本音であるとしたらの話だ。
「ふぅ………それで大体はつかめたかしら?」
「そうですね……」
まとめるなら、ここは鏡の中の別世界であって、能力が存在する異界。
4つの組織、分かりやすく言えばチームに分かれていて、互いに敵視している。
灯花さんたちがここにいる理由はおそらく何かの『鍵』を守るため。
こんな感じだろう。だてに高校生やってるわけじゃない。まとめる力ぐらいはある。
まぁ、ほとんどゲーム知識に重ねて考えたものだが。
「じゃあ、俺が奴隷として引き込まれたのはさしずめメンバー集めって所ですか」
「飲み込みが早くて助かるわ。さあ、奴隷として誓いなさい、私に尽くすと!」
「お前には言ってない! というか奴隷じゃないっての!」
「まぁま、そこのところは強制しないわ。みんな理由があってここにいるんだから。それとね、れいやんもうこの世界に出入り自由だよ」
「どういうことですか?」
「ポケットの中身」
ジーパンのポケットを探ると、カツンと硬いものに触れた。
「おいおい、……通行石?」
それは鈍く緑色に光っていた。
「あれ? 怜那のは青色で、俺のは緑色?」
今更、何でポケットにー! なんてリアクションはしない。ゲームでもよくあるだろ、ダンジョンにでたら何故か食料が道具の中にあるって。ダンジョンとか。
「それは、こっちの世界に来た回数で色が変わっていくのよ」
こっちに来れば来るほどってことか。
「どーでもいい仕様だな」
「あら、そんなことはないのよれいやん。相手の力量がそれで一目瞭然じゃない」
「あっ、そうですね」
ただ、相手が見せびらかすような真似をするのであれば。わざわざこんなものをぶら下げて戦うなんて考えられなかった。間違いなく邪魔になると思う。
「バカね。そんなことも分からないなんて」
「お前にだけは言われたくないな」
「うっ………うるさいバーカ!」
「はいはい」
そんな緩い会話をしていたとき、ズズンと地面が揺れた。
「敵!?」
怜那は即座に反応し、部屋を飛び出していく。
その間も、間隔を置いて揺れる。
「どーなってるんですか、いきなり敵って……隠れアジトじゃなかったんですか」
「どうやら探知されたみたいね。私も参戦しないとね」
そういって灯花さんも外へと飛び出していった。
ここで俺が出て行くのは死亡フラグなのだろうか? 力も何もない俺が行くことなんてないだろう。
もしかしたら漫画的タイミングで能力が開放されるかもしれないが、そんなに甘くは出来ていないだろう。それに俺はそんなに運がいいほうではない。
ここは………じっとしているべきなのか?
「いや、俺には何も出来ないけど様子見程度なら……いいだろ?」
基本的に駄目な俺だった。
外は大荒れ、とまではいかないが結構なありさまだった。
どうやら敵は一人で暴れているらしかった。
大きな鉈のようなものを振り回していて、振り回す度に空気を斬っているのか、ヒュンヒュンと音が鳴り響いていた。
かまいたち。そんな言葉が脳裏によぎった。
「やぁー。結構暴れてくれたね。直すのも一苦労だから止めてくれないか」
「ふん、貴様ら『鍵』を持っているらしいな」
「そうだね。でも、お前にくれてやるつもりなんてないからね」
「じゃあいい、消し飛べ」
相手が大きく鉈を振るうと、波動のようにかまいたちが襲い掛かる。
しかし灯花さんはそれを炎剣を使って爆破された。
ズガァァァァン! という爆音とともに砂煙が舞い、視界が潰される。
「糞が! 小細工をっ!」
「後は任せたよ、れーちゃん」
スンッ。と何かを切り裂く音がした。
カチン、と鞘に刀が収まる音、いつかに聞いた音だ。
「全然たいしたことないわね」
怜那はつまらなさそうにそう呟いた。