45話:白銀の閃光
更新しました。
最終回ひとつ前です!
諸事情により、次回投稿日は未定です。
申し訳ございません(._.)
「ほんっとに………なんて桁違いの強さなんだろうね……流石一人で赫逢騎士領団を潰しただけはあるよね」
さぞ疲れたように灯花さんは右手に炎剣を掴んでそう言う。
確かに、そうだ。私と灯花さんで組んでもキリカには及ばない。最高速で疾駆するあの姿、両腕がブレードと化したことで攻撃数が格段に上がったことによってこちらの打ち手も増やさなければならない。
戦闘開始約100秒。すでに手詰まりだった。
「と、言ってもこちらも頑張らないとね。生活というか未来がかかってるんだからさ。つー、なんで『鍵』持ってきちゃったかなー」
「灯花さん! 悔やんでも仕方ないですよ! ………キリカ。本気で行くからね、恨まないでよね!」
再び鍔迫り合いが始まる。私がキリカと拮抗し、灯花さんは後方から火力援護。空間を爆発させて私の思うままのタイミングでキリカの隙を作ってくれる。
流石だ、と思う。
灯花さんは援護が上手い。いや、これはもう援護呼べるものではないと思う。逆に前方の私が援護しているのではないかという感覚すら生まれてくる。しかし、キリカにはこれだけでは通じない。
後何手、いや、何十手足りない。
「くぅ………っ」
キリカのブレードと私の刀が鍔迫り合って力の均衡が崩れるまで、5秒。
歯が立たないというのは何とも耐えがたい。
体力の消耗も激しくなってきたし、このままでは本当の危ないかもしれない。
それでも刀を振り切ってキリカに立ち向かう。また鍔迫り合いが始まる。
「玲夜……早くしなさいよっ……」
再び均衡は解かれる。
「れーちゃん! そのまま転がってっ!」
灯花さんの声が聞こえたその瞬間、キリカのいた位置が爆炎に吞まれた。
「おや、あちらでもどうやら始まったようだね」
「余所見している場合かよっ!」
押し倒されたままだった俺は、室長の足を刈り上げて体位を入れ替える。
「うぉらっ!」
地面を背にした室長に対して体重を乗せた拳で殴り飛ばす。
素直に殴られた室長は地面を転がっていく。
これは、普通に倒せるんじゃないのか? 俺はそう思い始めていた。
「な、なんだよ……お前。全然弱いじゃねぇか……」
「ふ、ふふ………」
室長は意味深な笑みを浮かべて声を上げながら立ち上がった。
「そうだろうね、………だって僕は研究者なんだから。君にはハッタリも効かないだろうし、体術でも敵わないだろう。でもさ、考えて御覧? 一つだけ勝てる方法……いや、君を倒せる方法があるんだよ。何も僕が手出ししなくてもいいだろう? 能力は僕に対して通じないのだから」
そう言うと室長は灯花さんと怜那とキリカとの乱戦のほうに歩いて行った。
あの乱戦の中では室長は何も効かない。ゆえに無敵だ。
しかし、俺は巻き込まれてしまう。あそこに居るだけで室長は何も受け付けなくなる。室長自らは相手に手出しはできるが。
俺は、室長が安全圏へと走ったのだと思った。実際、その場にいる者が全員そう思っただろう。
だが、違った。
そうする必要が無いから。準備が整ったから。
何の算段もなく室長は俺と戦うはずがない。
何の算段もなく室長は行動するはずがない。
何の算段もなく室長はキリカのもとへと歩み寄るはずがない。
全部、仕組まれていた。
「キリカ……よくやったよ。君はもう役目を果たしたんだ。だからさ、もう止まっていいんだ」
父親が娘に語りかけるようにそう諭す。それだけでキリカは、動かなくなる。
「っ! ………」
キリカが急に止まったことで、灯花さんと怜那の足並みも乱れる。
「さ、『鍵』を僕の手に。そして、『棺』を出現させよう」
錆びたブリキ人形を無理矢理動かしたような音がキリカから漏れ、宙に浮いたままキリカは仰け反りはじめる。
そしてその胸の辺りが黒く渦巻き、穴が開いた。
そこから青紫の瘴気とともに白い角柱が現れる。あれは……『棺』だ。金のラインが波のように入っていて、何か神聖なものが中におさめられているような雰囲気を出している。
「ついに………『真理』が……。君たちもここまで生き残ったんだ、冥土の土産として見ていくといいよ。冥土の土産って、いまさら使わないか」
余裕が出てきたのか室長は軽口を交えつつ今現れた『棺』を眺めている。
だけど俺は、その『真理』とやらは嫌な予感がする。正確には『棺』の中身に。
「何を言っているんだい、廻折研究室室長。『鍵』は私が持って………」
そこで灯花さんの顔が青ざめる。
「君こそ何を言っているんだい。君たちが相手をしていたのはキリカだよ?あの、ね」
「おいおい………なんってことだよ。あの戦いの中で?」
灯花さんはいつも通り振舞おうと取り繕っているが、顔色はよくない。
室長の手には『鍵』が握られている。
それをキリカから飛び出た『棺』に投げつけた。
放物線を描く『鍵』は『棺』に近づくにつれて光を纏い、一筋の閃光を放って吸い込まれた。
意味を失った『鍵』は床にコトリと落ち、音が消滅した。
何も聞こえない。
徐々に響くように耳鳴りが鳴って、『棺』が開かれた。
そこから何十色もの色と、映像が流出する。その速度はすさまじいもので、眼で追うことができない。
光のように過ぎゆくその中で、室長はただ笑っていた。
「何だ、これは………人が理解するにはまだ早いと、そういうことか………?」
誰もが絶句していた。これはなんだ、分からない。大体、こんなものを求めていたのか。
違うだろう。『真理』、というものはこんなものでいいのか?
もっと、違う。分からない。何だ。
この世界を知るための、この世界の、定義ではなかったのか。
「────────。目の前の生物に対して、理解力の計測。完了、安易解読。不適合者。これより、理解者の判別を行う。『白銀の閃光』の発動。なお、再度『棺』を閉める場合はもう一度『鍵』を使用。開始、3、2、1、」
「………?」
キリカの前に居る室長は目を見開いたまま動かない。
『白銀の閃光』
ドシャア、と室長に光のレーザーが直撃した。
やばい、と直感した時にはもう遅く室長は腕だけになっていた。
腕だけが、瞳の光を失ったキリカの前に落ちていた。
「れいやん! れーちゃん! 」
「分かってる!」
灯花さんが叫ぶと同時に俺たちは一ヶ所に集合し、集団で走り回る。
「どういうことだよっ………これは!」
「おそらくあれは……もうキリカちゃんじゃないね。理解者を判別するって言ってたけど……」
「たぶん、だけど。キリカは一番最初にこの世界に現れた人の能力で存在しているんじゃないかな………。だって、だって、人格があまりにもありすぎるよ」
キリカは無機質な目で、まるで機械のような感情のない声で、
「次。理解者を判別。名───怜那」
「っ!?」
名を呼ばれた怜那はビクリと反応し、何かを決めたかのような顔で頷いて見せる。
怜那のその目にはいつかの弱さはなかった。
「おい、……お前、怜那。何を考えてるんだ? 」
「灯花さん、あんた……いや。玲夜、私が相手をしているうちに逃げて」
「ふっざけんなお前! 自分が何言ってるか分かってんのか!」
「分かんないの? 私が次の判別者に選ばれたからには死ぬまで私を追ってくる。その間にあんたは逃げるのよ! 灯花さんも……お願いします」
「れーちゃん、でも……それで、それでいいの!?」
怜那は迷うことなく確かに頷いて見せた。
その顔に俺は、キリキリと喉の奥が締め付けられたかのような感覚に陥る。
「大丈夫、『鍵』を使えば元に戻るんでしょ? 私の能力でなんとか」
「それでも、あの光線は避けらんねぇだろお前! 相手はもうキリカじゃねぇ、枠を超えてんだよ!」
「なんで分かんないかな…………」
怜那がそう小さくつぶやいたのが聞こえた。
「お前こそなんで分かんねえんだよ! 危険なことして欲しくないんだよ! やるなら、俺も手伝うから。俺だってもう役立たずじゃないから」
「っ………。な、わ、分かったわよ。そこまで言うなら……あんたはあの光線をどうにかしなさいよ! 私はどうにかキリカに近づいて『鍵』を閉めるから!」
いつもの調子で怜那は叫んだ。
これで問題ない。最後の作戦、やってやろう。
「『白銀の閃光』」
不気味にキリカの声が木霊した。




