4話:居候or貧乏神or鏡から出てきた少女
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ありえないって言う時は、もうその事態が始まってしまっているので、ありえないことじゃなくてありえているけど信じられないことなんだ。もうその状況に面してしまっているので、ありえなくはない。
これは感覚的な問題だ。
ありえないなんてことは本当はなくて、それを信じたくないがためにありえないと言う。
いわば自己暗示、催眠術みたいなもの。
認められないんじゃなくて、認めたくない。
これは大きな違いのはずなのだ。
それと同じこと。
ありえないんじゃなくて、本当はもとからあるのに自分が知らなかっただけ。
常識という枠の中に入っていないだけで、本当は存在しえる。
目が覚めた。朝起きる時間はいつも正確なので、大体今は6:00辺りだろう。
俺はソファーで寝ていた。何故か、それは一つのベットで昨日会った2人が寝るわけにもいかないだろう。
つまり、あいつが寝ている。
昨日、大きなショックに見舞われた俺に更なる難解が降り注いだ。
あいつをどうするかということ。
聞けば、あいつは家無き子らしく、泊まるところがないのだという。
だからここに泊めてくれ、と。
そう言ってきた。
俺としては断った。まぁ、当たり前だろう。
一つ屋根の下(マンションだが)で男女が暮らすというのは夫婦か恋人同士であるかしか俺は知らない。
分かりやすく言えば、あいつは無防備すぎるのだ。
もし、仮に、仮にだぞ! 俺が変態さんだったとしたらどうするんだ。
いや………それも言ってみたけども。
「本当だったら私に障った瞬間斬り殺す」
冷たく返された。
しかもなんか漢字が違う気がする。
しかし、俺だって高校生だ。間違いが起きることだってあるかもしれないのに。
無いか。年下には興味ない。
俺の予想だが、あいつはまだ中学生ぐらいだろう。
そういえば………昨日1日ほぼ一緒にいたのに、名前を聞いていない。
これで『記憶喪失』とか言われたら俺は………どうすればいい?
そうならないことを祈りつつ、自分自身の部屋のドアを開けて、あいつを起こすことにする。
「お~い、……起きてるか?」
「変態、死ね」
「なんでだっ!」
少女はドアを開けたその目の前に立っていた。
昨日の服のままで、服には少し皺が出来ていた。
こいつは寝相が悪そうだな、と思いながらもドアを全開にする。
「変態呼ばわりされたのは納得いかんが……まぁ、おはよう」
「おはよ……ふぁ………」
一つ大きくあくびをし、まぶたをこする少女。
………いかん。何も考えるな。
頭をぶんぶんと左右に振ってから気を取り直す。
「さて、顔でも洗って来い。俺は朝食の準備してるからな。 ああ、タオルは棚に新しいのが入っているからそれ使っていぞ」
「あーい……」
ふらついた足取りで、洗面所へと向かっていく。
また新しい奴が鏡から出てくることは無いと思いたい。
変な不安は積もってくばかりだ。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
手を合わせて食の神の感謝。別に宗教には属していないが。
「んで、俺はこれから学校だけど、お前はどーすんの」
「んー? 特にはー」
さっきから返事があいまいだし、小さく揺れている気がする。こいつ、朝は弱いのか。
「そうだよ、そんなことより、お前の名前を聞いてねぇ」
「人に名を聞くときはまず自分から名乗るべきでしょ」
そういうところはちゃんとするんだな。
「あー、俺の名前は音城玲夜。で、お前は?」
「ふーん、玲夜、ね。 私は怜那。 『れい』がかぶってるわね。これも何かの縁かしら」
昨日の一連の出来事を思い出すと、あまりいい縁とは思えなかった。
「ちょっと待て、お前苗字は?」
「苗字なんて無いわ」
「いや、それはありえないだろ」
「ありえなくないわ、だって、家族なんていないんだもの」
こういうことは、言わせちゃいけないって事ぐらいわかってる。
ただ、今回は避けようがなかった。単にこいつがふざけているだけかと思って。
吹っ切れている、そう思うのは本人の勝手。本当に吹っ切れているかどうかは置いておいて。
「あんた、時間は大丈夫なの?」
「う、え? ああ、もう時間が無いな。洗い物は帰ってきてからにしよう。あとお前………家にいるんだな? 鍵開けていくからな」
「うん」
さっきまでのことなんて無かったかのように笑う少女。
いったい何を思って、何を感じて、いるのだろうか。
今日はいつも通り学校に着いた、が雰囲気はおかしなものだ。
誰もが、「別れたのか」的な目でこちらを見ているような気がする。
自意識過剰なわけじゃあないけどおかしくなりそうだ。
「よーす、玲夜。どうかしたか?」
カバンを背負ったままの悠斗が声をかけてきた。
「いや………みんなが哀れみ+ざまあみろ的な雰囲気をかもし出している気がしてならない」
「それは考えすぎでしょ? でもまぁ、よかったな。無事に新しい彼女が出来て」
「ああ………。あぁ!?」
「いや、昨日コンビニから一緒に出てきたあの女の子。ありゃ彼女じゃねーのかぃ?彼女だろう、彼女でしょうね!」
「何でテンション上がってんだ! 違うわ! あいつは………」
居候? 貧乏神? 鏡から出てきた少女?………どれもなんか痛い!
無難なのは、やはり。
「玲夜、お前はついに年下に手を出したか。そんな奴だとは思っていなかったぞ」
「やめろ! そんなことはしていない! あいつは俺のいとこだ!」
「へー」
「なんだそのつまんねぇ50%、本当は彼女だろ50%の顔は!」
「そのまんまです」
「俺の考えどおりかよ!」
こいつの対して突っ込むのもなかなか疲れるな。
いつものテンションなら何とかさばききれたのかもしれないのに。
っていうか昨日怜那が言ってた視線って……こいつかよ。
そこで嫌なことを思い出す。土曜日………か、憂鬱だ。
ちなみに怜那曰く、15歳。誕生日なんか知らないけどそんくらい。
そういうようなことを言っていた。
しばらくして、担任の海藤詠センセーが入ってきた。いつも通りジャージ姿だ。
「みんなおはよう。早速だが殺し合いをしてもらう」
「朝から何させる気ですか!?」
「ああ、今突っ込んだ御崎 悠斗は死刑だ」
「なんで!?」
「突っ込み方を間違えている。 仕方ない、音城玲夜。お手本を見せてやれ」
意味がわからない……なんて突っ込むんだよ。
とりあえず指名されたからには何か言わないといけない。
これが海藤詠流ホームルーム。生徒との交流を目的にしているらしいが、本気で体罰が飛んでくるので、あまり快くない。
悠斗だけは、阿呆みたいに参加しているが。
それにしても突っ込みか……なら。
「お前を先に殺してやろうか!」
「誰がお前だ」
ビキイィィンと俺の机の上に、カッターナイフが突き立った。
こ、殺してやろうかよりお前のほうが問題なのか………。
「す、すいませんでした。先生」
「よろしい」
体をこわばらせながら席につく。いつか死ぬよこれ。
いや? 俺が悪いのか……?
笑い一つおこらない教室の空気に、センセーが手を打った。
「ま、今日はこのくらいでいいか。それより進路調査票持ってきた奴は提出しろよ。期限は月曜だからな、今日持ってきてない奴は土日で書けよ。遅れた奴は職員室の清掃だ」
土曜日………ついセンセーの言葉に反応してしまう。
鏡の別天地? なんだよそりゃあ……。よくあるRPGで言えば反転世界ってところか?
怪しすぎる………それに怜那は、そこから傷だらけで帰ってきた、ということになるのだろう。
あんなになるまでに何をされたのか。どんな世界なのか。
魔物なんてものは出ないだろうな……。
そしてあいつが奴隷をほしがる理由。
旅の仲間集めってところでいいのか?
じゃあなんで俺なのか。そこが問題に残る。
信じてくれそうだから?……違うな。俺は、冷静だと勘違いされただけだ。ただビビっていただけだと言うのに。それとも、少し病んでいるように見えたからだろうか。
「おい、音城。私のホームルームを放っておいてボーっとしているとは何事だ。これは自殺表明なのか? そうか、折角だから先生に殺してもらいたいと、そういうことでいいのか?」
「はぃ? 違います!違います、そんなことはありません! 」
「ふむ、そうか。あまり面白くないな」
この人は何で判断しているんだ。
それにしても今日が最後の学校生活、にはならないよな? 土日後にはまた通えるよな?
言いようのない不安に駆られ、それでいて絵空事を信じている。
馬鹿みたいだった。
「どうした、玲夜? 今にも死にそうな顔をしているぞ!」
「あー、悠斗。強く生きるためにはどうしたらいい?」
「そうだな………」
右前の席にいる悠斗は、額に人差し指を当てて。
「センセーの側近になれば? 」
「ものすごい勢いで断るわ」
それは、強く生きれそうだな。別の意味で。
「彼女に慰めてもらえ」
「彼女じゃねぇ!」
「なら莉瑚ちゃんに……」
「殺していいか?」
「その前に私がお前ら2人を殺してやろうか?」
「「すいませんでした」」
気づけば壇上のセンセーがこちらを睨みつけてた。
クラスのみんなも遠慮がちにこちらを見ていた。センセーの手には粉々になったチョークがあった。
「最近お前らおかしいぞ? いや、御崎はいつもか……音城! お前どうしたんだ?なんかあったのか?」
はい、いろいろありましたよ。しかも全部最近の話。
そしてクラスの皆さん。振られた、みたいな目でこっちをみないでほしい。
もちろん、天川莉瑚は何も反応しない。センセーの方も向かずに俯いている。
「いえ、特に面白いことは」
「なぜ面白いこと限定なんだ」
「いや、別に限定していたわけじゃあ………」
「なんで面白いことに限定しないんだ!」
何なんだこの人は。