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39話:開戦

更新しました!

早く夏休みが来てほしいものですね……(-Д-川)


次回の更新は、8/12となる予定です。

「どうしてっ………なんで効かないっ!」

キリカではなく愛無としての人格で目の前の男に問いかける。

「どうして? それは僕が選ばれし者であり、能力が『能力無さいじゃく』だからさ」

廻折研究室室長は顔を覆って笑い出す。狂いからではなく純粋に愉快と思う心情からであると理解できる。この男は、誰からも干渉されない。

能力をもたない、ゆえに能力に干渉されない。

絶望オール・デリートいや、この世界のすべてに対しての天敵。

「はっはっは………この世界は実に興味深いところだね。現実では見られい物質、食物、現象………最高の研究材料だよ! 現実はもはや知りつくされたことばかり! この世界は誰にも譲るつもりはないよ。僕が僕自身のために調べつくす。そのための第一歩としてこの世界の『真理』を知りたいんだよ」

室長は立ち上がる。首を鳴らし愛無に歩み寄る。

「僕には能力がない……いや、能力が無いことが能力・・・・・・・・・・なのだけれども。まず能力とはなんだい? 脳に干渉しているのかな? 分からないことが多い、面白くて仕方ない」

クックック………と粘つく笑みを浮かべ、愛無を突き飛ばす。

「………っつく」

「どうだい? 自分が傷つくというのは。いつもは一方的だったのにね、今は逆だよ」

倒れている愛無に蹴りを入れ、踏みつけ、顔を近づける。

「そう言えば君は僕の実験台第一号だったね。光栄に思うといいよ」


それから記憶は途切れる。






「上からの報告があった………」

群青の雌鳥のアジト内のメンバーを集めた灯花さんは青い顔をしていた。

その状況の雰囲気を読み取ってメンバー全員が静まり返る。

「群青の雌鳥本部はほぼ壊滅、各支部は生き残っているそうだが今は連絡が取れない。リツカ帝国と組んで廻折研究室を壊滅させろ、とのことだよ………」

誰かが息を飲むのが聞こえた。

本部が消滅、それは誰の仕業なのか。

「と、灯花さん、それは誰がやったんですか。赫逢騎士領団はもういないのに………っ!」

そこまで言って怜那は気付いたようだった。この世界はもう歪んできてる。

そう、キリカがやったのだと。

「現在………廻折研究室の人員は室長を含め7~10人ほどと確認されてるよ。踏み込むなら今だと」

「それはおもしれぇことになったな。とっくにリツカ帝国とは話を終えてる。いつでも行けるぜ」

後ろの方から颯鬼の声が聞こえた。おそらく戦う気は満々なのであろう。

「ここからは………」

弱々しく灯花さんは言った。

「ここからは何人もが死に逝く戦いになる。たぶん戦争レベルになると思うんだ………それでも、一緒に戦ってくれる者だけがここに残ってくれ。無理強いはしないよ、みんな帰るべき現実があるんだから」

その言葉に一同は黙る。

確かにそうだ、俺だって現実がある。学校のみんな、悠斗、莉瑚………。

それでも、この世界にだって大切なものはある。灯花さん、颯鬼、姉貴だっている。それに……怜那。

俺は守らなくちゃいけない。一人で戦い続けてた少女を。

「灯花さん、私は戦うよ」

怜那が一歩前に出てそう宣言する。

「だって私は戦うことぐらいしかできないよ。現実なんて、ないよ。………だから、この群青の雌鳥を守りたいよ」

それに続いて颯鬼も口にする。

「俺もだな、戦うしか脳がねぇってのは俺のことだろ? 戦わずして何になるってんだよ。それに─────この間から疼いてしかたねーんだよ」

妖しい笑みでそう返す。

他のメンバーたちも続いて宣言していく。みんな思うことは一つで戦いを望むのだ。

そして俺は。

「俺も、俺も戦うよ」

灯花さんが目を見開いたような気がした。

「最初はさ、なんか巻き込まれるような感じでうんざりだって思ってたこともあったよ。でもこの世界でいろんな人に会って、話して、楽しかったんだ。俺がここに居るってことが、俺の存在を認めらた事がうれしかったんだ。それを守りたいって思うんだ。それに怜那、お前だって守りたい」

つい雰囲気でものすごいことを口走ってしまったかもしれない。

当人の怜那はというと、顔を真っ赤に染め上げて湯気を上げていた。

「な、なななっ。あ、あんたいきなりなんなのっ! 新手の嫌がらせ!? 」

「い、いや俺にも守りたいものがあるんだから戦うよ、ってことだよ………駄目かな」

「………むぅぅぅぅ。あ、あんたは私の奴隷なんだから! ついてこないといけないのは当たり前でしょ! それに、主人が危なくなったら助けるのは当たり前でしょ!? 別に他意なんてないから勘違いしないでよ!」

一通り怜那が叫んだあとは灯花さんが楽しそうに笑っていた。

こんな風に笑える時間もあと少し。

心のどこかでそんな思いが渦巻いていた。

「さ、気を取り直して。颯鬼ん! リツカ帝国との連携はもうOKなんだよね!」

「ああ、姫を連れ去られたせいか奴らも妙にやる気だ」

「じゃ、今から突撃! 私が移動用魔方陣リーブを展開させるからみんな突っ込んで! 行き先は廻折研究室、戦争だよっ!」


群青の雌鳥の大人数の団決した声が響き、魔方陣の奥に消えていった。




白い光に包まれ、視界を失った後に遅れてやってくる重量感はいつになってもなれないものなのだと思う。それは私たち人間がそうそう体験するものではないし、一生かかわっていくはずのないものだからであろう。視界が晴れた時には空は先ほどの白とは正反対の黒だった。

ただの雨雲の黒ではなく、何か不粋な者を感じさせるクロだった。

目の前には味気のないさびれた研究施設の群れ。その風景だけが灰色一色で塗りつぶされたかのように歪んで見える。もちろんそれは錯覚なのだが。

総勢50人程度の仲間たち。そこにさらに加わる。

私たちが降り立ったその横に新たな魔方陣が展開され、そこから見知った者たちが出てくる。

リツカ帝国の騎士と雷撃を使うリク。

彼らは殺気立っていた。それはそうだろう、国の象徴ともいえる姫を連れ去られたのだ。

それは今や心強い味方となっている。

「それじゃ、みんな行くよ! 突撃だ!」

灯花さんが士気をとり、全員がさびれた建物一帯になだれ込んでいく。

「怜那、行こう!」

後ろからそう声をかけてきたのは玲夜。

いままで散々奴隷扱いしてきたけども、今では能力に目覚め─────とは言っても制御できてはいないが、頼もしい仲間・・となっていた。

「もちろん、キリカを止めてリツカ姫を助けなきゃね」

自分の口から驚くほどに簡単に言葉が出た。

彼の優しくもあるその顔に、押されたように。

体温が上昇してくる。戦いのときだ。

今までの敵とはおそらく違った、いや違うであろう者と戦うこととなる。

気を引き締めて、今行く──────────────────。




怜那の背中を追って走る。研究室の中は入り組んでいて、手分けして進まないと全てを回れないような作りになっていた。颯鬼とは早々に別れ、今後ろをついてきているのは灯花さんとリクそしてリツカ帝国の騎士多数だ。

ここでまた分かれ道に出くわす。

「ああっ、もう。なんなのよここはっ! 」

苛立たしそうに、だけども律儀に思い通りのリアクションをしてくれた。

「また分かれ道か………」

「んーと、こうしようか。 れーちゃんとれいやん、そして騎士さんたちの半分は右、そんで残った私とりっくんと騎士さんたちは左」

寸分の迷いもなく淡々と決めていく灯花さん。その姿は落ち着いていてリーダー性とはこういうものなのだと再認識させられる。それにしてもりっくんて。

当の本人は反論もせずにシカトを決め込むようだった。

「灯花さん………後で」

俺は最小限の挨拶だけを済ませ、怜那とともに闇へと突き進む。

後ろからは数人程度しかもう残っていなかった。

奥に進むにつれて光が見えてくる。だんだんと天井には電球が取り付けられるようになり、自分が進んでいるのだと感知できるようになった。

暗闇の中では進んでいるのかどうか感覚が無かったからである。

「うまく分断されたのか………?」

そんな言葉をつぶやきつつも足は止めない。

どうやら颯鬼とのトレーニング(?)で体力がついたらしい。まったく疲れが見えなかった。

自分の声が通路に反響した時、道がだんだん広くなり大きな空間にでた。

研究所外見とは違い、ここはドーム型になっており、天井が丸みを帯びているのが分かる。それに真っ白だ。

奥にはまたも続く通路が見え、電気がついていないのか真っ暗なため、白い空間にぽっかり空いた穴のようだった。

「あっれー? ずいぶんと少数精鋭だねぇ」

声が聞こえてきたのは頭上から。反射的に顔を上げるとそこには怜那と同年代ぐらいの少女が天井に張り付いていた・・・・・・・

「なっ、なんなのよあんたっ!」

怜那が刀を構え直し、叫ぶ。

「何なの? なんなの………ねぇ。廻折研究室の一員、大海原瑠璃子おおうなばらるりこって答えればいいのかなー? 聞いてた割には人数少ないねぇ、舐められちゃってるのかな?」

彼女は終始軽い調子で会話を進める。

ひらり、と地面に降り立った。彼女は怜那より小さく、それにもかかわらず背にはその身長の倍ほどの槌のようなものを背負っていた。

彼女はゆったりとした動きで右手を前にかざす。それに対して俺達は身構える、が。


瞬間。


その場に居た大海原以外の人間が床に這いつくばった。

「っっ─────────!?」

「なんだっ………これっ!」

「きゃはははっ、這いつくばって無様につぶれちゃってね♪」



彼女はそれまでの軽い笑みとは違う、どす黒い笑みを携えてそう言った。














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