36話:最悪な5つの能力
一日遅れの更新となってしまいました。
申し訳ありませんm(_ _)m
次回の更新は、7/23にする予定です。
とっさに回避行動をとったものの、大半のレーザー攻撃を浴び狩暗颯鬼は吹き飛ばされていた。
死体を魔方陣を結ぶ点としたこの攻撃は、死体をもって敵を殺す。
発動者に影響はないが、死体は跡形もなく吹きとぶ。
死体をも利用する、敬意など存在しない。
非道、廻折研究室を表すにはこの一言で十分すぎるくらいに伝わる。
瓦礫が崩れ、中から人が現れる。
いや、それはもう人ではなかったかもしれない。
「まだ死んでないか………最悪な5つの能力をもつものは違うのかね。ははははは、しかし残念だったな。立ち上がろうとすぐに第二波が───────」
男は最後まで台詞を言えなかった。
絶命したからだ。
「あぁ、…………確かに死んでんねぇよ。確かになぁ!」
右顔面には黒の仮面、右手はすでにこの世のものとは思えないくらいに禍々しく、背中には右翼だけ翼が生えていた。翼、というより黒い粒子が絶えず噴射していると言った方が正しいのかもしれない。
ぐきり、と首を鳴らすと残り数人にむかって攻撃を仕掛ける。
瞬く間に全員は絶命していた。
力が強大すぎる。それゆえに制御が難しい。
颯鬼は、今解放した自分の能力を抑えるので精一杯だった。
今の颯鬼の姿はまさに『悪魔』。半悪魔化したようなその出で立ちに周りの者は息を飲むしかなかった。
しばらくして翼や腕が灰のように崩れ落ち、元の状態へともどった。
結界も術者が死んだことで途切れ、なだれ込むように群青の雌鳥の本当のメンバーが大ホールに入ってきた。
「颯鬼さん、大丈夫ですか?」
「誰にもの言ってんだ。全然だっての」
そう言いながらもふらつく足を押えて立つ。
「んなことよりお前ら、灯花のことについて簡単に話すから聞いてろ」
「いや、それはもう聞きましたよ」
「ああ? 俺が話したのはあの分けわかんねぇ奴らだけだぞ?」
「でも、一部は聞いていましたし、何よりも灯花さんが裏切るわけないじゃないですか!」
他のメンバーも次々に口にする。
「そうですよ!」
「灯花さんならこうするってね!」
「だよねー」
これを聞いて笑った。
颯鬼は笑った。
ここにはこんなに面白い奴が山ほどいるということに。
それが、この群青の雌鳥の強さなのかもしれないけれど。
「音……爆発音が聞こえる!」
唐突に怜那はそう呟いた。
見晴らしのいい赤い砂の砂漠上にでたはいいが、どの方向に向かえばいいか分からず立往生していたのだ。
爆発音、と思い浮かべてとっさに出るのはあの人の能力。
灯花さんが、近くに居る────────────?
辺りを見渡すが、人の気はしない。その前に、自分は人の気だなんてよくわからないが。
それに、爆発音も俺には聞こえなかった気がする。
「怜那、本当に聞こえたか?」
「たっ、確かにっ………あっちの方から聞こえてきたはずなんだけど」
「うむ………」
そちらに目を向けてみるが何もないし、遠くまで見渡しても砂漠が広がっているだけだった。
音の元凶は何だったのだろうか。ただの空耳ということはないだろうか。
「そ、そう言えばあんた………眼は。眼はどうだったの?」
「あー、なんか魔眼で間違いないみたいだ。でも、無差別じゃなくて発動するのもタイミングがわかんねぇんだわ」
「そ、そう………」
なんだか様子がおかしい。いつもなら『自分で制御できない? 無能っ!』とけなされてもおかしくはないはずなのに。それに心なしか、会話がうわずっているような気もするし、顔も少し赤い。
まさか、ここまで来て風邪か?
その前にこの世界で風邪なんか発症すんのか?
「なぁ、怜那」
「な、なにょ」
「なんで『よ』が小さいんだー、とかつっこまないけどさ風邪とかじゃないよな?」
手のひらを怜那の小さな額にぴたんと当てる。
…………そこまでは熱くないな。
「ななななな、なにすんのよあんた!」
「わ? へ?何がって。熱ないか確かめただけだろ? 何をいまさら」
「変態っ、ロリコンっ、ち、近寄るなっ!」
「ちょ、待てや! 俺がそんなにヤバいことしたか? 熱測ったら変態なのか!?」
「うっさい、うるさい! 変態玲夜!」
「お前──────って、今俺の名前呼ばなかったか……?」
怜那はギギン、と目を可愛くつりあがらせて叫ぶ。
「ば、バカじゃないの!? 呼んでないわよ! 能力もまともに使えないくせに変なこと言うなっ! この無能っ、無能無能無能無能無能無能無能無能無能っ!」
「何切れてんだよお前………」
「べ、べっつに私は切れてなんかないっ! ただ、あんたが変なこと言うからっ、正しただけでしょ!」
怜那のその叫びとともに、亜空間から灯花さんともう一人、太刀を構えた細身の男が飛び出してきた。
「灯花さん!?」
「………あいつは、赫逢騎士領団の階位一!?」
「れーちゃん! れいやん!」
「増えたな………しかし、構うことはないな」
あまりの唐突な出来事に名前を呼ぶだけになってしまった俺に、敵を判断した怜那。灯花さんはこちらを振り向いて、驚いていた。男の方は、どうとも思っていないのだろう。
二人は地面に降り立ち、戦いを再び開始する。
爆発を点々と起こし相手を狙っていく灯花さんだが、男の方は瞬間移動のように消えたり現れたりする。
違った空間から何本も剣を出現させ、飛ばす。
その間にも自らの持つ太刀で攻め入って首を刈ろうとしている。
しかし、灯花さんも負けておらず何本もの剣をまとめて爆破させて薙ぎ払い、相手の足もとを起爆させて進行を防ぐ。
レベルの違う上位の戦いに、俺たちは見ていることしかできなかった。
そこに男の言葉が入りこむ。
「なんだ? 暇なのか? 何なら3人でかかってきても構まわないぜ?」
「れーちゃん、れいやん、駄目だ! こいつは今までの敵とは違うんだ!」
戦いの最中にも声を発して俺たちを心配してくれる。灯花さんは………。
「来ないなら俺からちょっかいだしていいか?」
すぐ隣から声が聞こえたかと思うと、柄の部分で横薙ぎされて俺はいつの間にか吹き飛ばされていた。
遅れて痛覚がやってきて、状況を理解する。
「つ………あ」
立ち上がると、目の前には戦う相手を見失った灯花さんと怜那がいて、あいつはいない。
「後ろっ!」
灯花さんが叫んだと当時に俺の後ろで爆風が巻き起こり、吹き飛ばされる。
ザン、と赤砂の上に太刀が突き立った。
さっきの爆風は灯花さんのものだと悟った。俺を爆風で吹き飛ばしてくれたのだ。
「へぇ、やっぱりスパイってことで確定なんだ。そいつら、群青の雌鳥の奴らだよな。どうして灯花程の力をもっている奴がそんなところに」
男は亜空間からもう一本太刀を取り出し、開いてる方の片手に握った。
「あんた、刀の使い方間違ってるわよ」
ガギィン、と二本の太刀と刀が交差する。
怜那が飛翔し、男に切りかかったのだ。
「なるほど。使い方、ね………でもね俺はほとんど自分の手で人を切らないから」
怜那のすぐ隣から何本もの刃が突き出す。しかし、怜那はそれを事前に察知していたかのように避ける。
バックステップで距離をとり、刀を再び構える。
「れーちゃん! もう………仕方ないな」
灯花さんはどうもうれしそうだった。また怜那と戦えることに。
「へぇ、………そこの男はどうやら魔眼の持ち主らしいね。能力に反応して目が赤くなってるよ?」
指摘されてつい目を手で覆ってしまう。
右目が、ほんのりと熱をもっているような気がする。
しかし、何も無くならないし発動する様子はない。
「扱えてないんだな、じゃあ───────────っ!?」
ズピィン、と巨大な鉄槌が砂漠を叩いた。
強大な力がここに誇示されていた。あらがえないような力がそこに。
男は自分の身体を移動させるのに手惑い、殺気を失っていた。
「くっ………がっ、……なんてことだ。もう……」
「れーちゃん! れいやん! 逃げないと死んじゃうよ!」
灯花さんが叫び、俺は反射的に走り出した。しかし、背後を振り返ってしまう。
そこに俺は見た。
怜那も同じく、振り返ってその光景を網膜に焼きつけていた。
「「キリカ………?」」
体つきは全然違うが、雰囲気にあの癖のある髪。幼さの残る顔に花の髪飾り。
俺と怜那が知った、キリカの姿そのものを大きくしたようなものだった。
そこに、いた。
そして、見た。
男が空間移動を使って移動するのを止めたところを、空間を引き裂いたところを。
それと同じように男が引き裂かれたところも。
「れーちゃん! れいやん! なにしてるの!?」
足が止まっていた。俺も怜那も。
この世界はなんて非情なのかと真っ白な頭の中のどこかで考えていたのかもしれない。
「大切な思い………あの人が残したもの………どこ、どこ、鍵はどこなの………?」
その目には何も映っていない。ただただ、俺たちをゴミのように握りつぶせるだけの力がそこにあった。




