33話:絶える望み
更新完了!
そろそろ期末テストです。
更新率は下がりませんが、作者の疲労がすごいことになります。
群青の雌鳥は大きな指導者が一人裏切りによっていなくなったため、機能しなくなっていた。
問題はこのアジト。誰も彼もが絶望して打ちひしがれたかのように黙っている。
いつものような活気は見られず、体感温度が下がったように感じられた。
俺は颯鬼によるトレーニングも中止され、やることがなくなったのでふらついていた。
怜那は与えられた自分の部屋に引き込まってしまっていて、顔も見せてくれない。
この状況が絶望なんだと、俺は知った。
そんな中、いつもと変わらなく過ごしているように見える奴がいた。
狩暗颯鬼。自他共に認める狂人。
今、この展開をも楽しんでいるようでとてもショックとはかけ離れている存在だった。
「よぉ、魔眼。暇そうだなぁ」
「俺は魔眼なんて能力持ってないんだろ」
ぶっきらぼうに俺は言い返す。
「いや、お前は魔眼だ。もうすでに解放している」
こいつは何を言っている? 解放? 俺自身に自覚はないし、見たものは消滅していない。
第一、解放済みなのであれば眼の前にいる颯鬼だって消えているはずだ。
「副団長の腕が灯花によって切り落とされた時、お前はなんで叫んだ? 何故眼を押えた? 激痛が走っただろう? ………お前はさ、灯花の斬撃の一部分を消滅させたんだよ。だってあいつは、本気で殺すつもりで副団長に攻撃を仕掛けていたんだからなぁ。腕一本で助かった、と言うべきだな」
颯鬼の考察、こいつは灯花さんの斬撃さえ見破った。それならばこいつの言うことは正しいか?
もし、もし俺があの時目覚めていたのなら、あの魔方陣をぶち壊して灯花さんを止めることだってできたのではないのか。
そんな考えが頭をめぐる。
「まだお前は制御できてねぇな。何も無差別ってわけじゃねぇから安心したぜ」
「魔眼………」
結局俺の能力は一周回って魔眼なのか?
使い方によっては大量破壊兵器、しかし今の俺では不完全な状態。
どうすれば、戦えるか。
「お前が灯花を左右するキーとなるわけだな。ま、せいぜい頑張れや、言っておくけど俺はトレーニングに付き合わねぇからな。くくく………俺が消されるかもしれねぇからな」
実に愉快、というように笑みを携えながら去っていく颯鬼。
「あ、それとな」
少し歩いたところで立ち止る。しかしこちらは振り向かないまま言った。
「お前の連れ、怜那だったよな? あいつ、本当に部屋にこもってんのか? 俺に言わせれば気配の欠片一つたりとも感じねぇんだがな」
再び歩みを進めて歩いていく。
それを見送らずに俺は怜那の部屋へと走り出していた。
鍵は空いていた。
嫌な感じを受けつつも、部屋の中に入る。当然のように無人だった。
「くっそ………あいつ」
行くあては分かっていた。間違いなく敵地。
机の上には何か置き手紙らしきものがあった。
内容を確認するまでもなく、それを握りつぶして俺は怜那を怜那を探すためにアジトを出た。
久しぶりに帰ってきた。この薄暗く謎の深い城らしき建物へと。
祭壇には全員が集まっていて、誰もがけだるそうに殺気を振りまいて席に座っていた。
しかし、階位ポストの一つが空いていることに気がつく。
「最上階位、一つ空いているようですが………?」
灯火は訊ねる。
それに対し、一番奥の不気味な形をした椅子に腰かけている最上階位は視線だけをこちらにやり、答える。
「そこはキリカの席だ。………あいつは今は警戒レベルは下げてあるが、危険なことはかわりない。無理矢理出席させるよりそっとしておいた方がいいであろうとの考えだ。しかし……物好きが一人、毎日のように会いに行っているがな」
視界の端で少しだけヒト影が動いた。
そいつが、ということだろう。
「すこし、席を外してもかまわないでしょうか」
「ああ、構わん」
席を立つ私に対して不信感を抱く者はいない。それほどまでに長く私はここにいたからだ。
「どこいくんだ?」
話しかけてきたのは頬に大きな傷を付けた男だった。デリィだ。
よりによってこいつに捕まった。
面倒なことになった、と思う前に私は早くここを抜けだしたいと考えていた。
気配が、迫ってくるのを感じている。
「なんでもないわ」
「ハッハ、トイレかぁ?」
「そういうことにしておくわ」
そう言って祭壇から出る。
その後は、思いっきり走った。
まさかの展開で作戦どころではなくなった。
このままでは自分が死んでしまう。
何よりも先に恐怖で身体が反応していた。
「んだあいつ………?」
久しぶりに帰ってきたと思うと、どうもおかしな奴だった。
別段、気にすることではないのだが、様子がへんなときはろくなことがない。
不意に、
ズンッ
と重みを感じた。それは他のメンバーにも伝わっていたらしく、辺りを見回している。
と、そこで顔が青ざめているいつもは柱の陰にいるあいつ────────────────────キリカの記憶制御を担当してるあいつが目に入った。
「ありえないっ…………なんでこんなっ!」
絶叫し、頭を抱える。
それだけで自体は飲み込めた。
「ハッハ………灯花の野郎。気がついていたな」
瞬く暇もなく、赫逢騎士領団の半数は死に絶えた。
耳鳴りのような効果音とともに、極太いレーザーのようなものが辺りを破壊していく。
これはまるで、天からの罰のようなものだった。
一切反撃のできない天界からの鉄槌。抗うこともただ、無駄なだけ。
恐ろしい、という表現しかできなかった。
辺りを見渡すと、かろうじて生きていそうなのは研究室討伐に出向いていた青年コウと独り言のエキ、それに最上階位だけだった。
しかし、全員損傷が激しく、まともに行動できる奴は自分だけのようだった。
運がよかっただけだ。たまたまこちらに座っていて、たまたまレーザーに当たらなかった。
一歩間違えば確実に消えていた。そんな思いが身体を熱くする。
「いいねぇ、いいねぇ! キリカがついに解放されたか! 全力で戦っても問題はないわけだなぁ!?」
「待て………デリィ。損傷のないお前は逃げ────────────」
ダンッ、という効果音とともにエキが消えた。
エキがいたと思われる場所には、樹齢何千年の大樹よりも大きな聖剣のようなものが突き刺さっていた。
出現した瞬間は早すぎて理解することもできなかった。
ただそこにいないという、死んだという事実だけが残される。
ふわりと、誰かが瓦礫の山と化した祭壇に降り立った。
長い手足にすこしくせのある長い髪。そこには一輪のピンクの花の髪飾りをしていた。
スレンダーで自分と同じぐらいの背の高さ。まさかとは思ったが、そうだった。
「キリカ、か。成長………いや、元の姿に戻ったってわけか。ハッハ、なかなかいい女じゃねーか」
彼女は応えない。虚空を直視し続けている。
「ハッハ、久しぶりに強い奴と戦えるぜぇ!?」
背中から大剣を取り出して構え、その場で振るう。
白銀色の斬撃が飛び、キリカめがけて猛スピードで迫る。しかし彼女は動かない。
ズガァァァァン! と地面が揺れ辺りは白煙に包まれる。これで終わったとは思っていない。必ず生きているだろうと思い、構えはとかない。
白煙が晴れた時、何百という刃物に全身を貫かれながらも藍色の炎で焼かれている研究室討伐に出向いていた青年、コウの死体と目があった。
それは顔以外原形をとどめておらず、ただのモノとなり下がってた。
しかし、その場にキリカはいない。ゴキュリ、という効果音のする方にとっさに顔を向けると幾何学的な魔方陣から出現した形のない影に最上階位の右半分が噛み千切られていた。
キリカはそれを道端の害虫の死骸を見つめるように眺めていた。
次はこちらに顔を向ける。
生気のない目が色を取り戻していた。
「ふふふっ………あいむ、破壊兵器だったんですね」
痛々しい笑みだった。自虐的な笑み。
それがそり一層死への警告の鐘を鳴らす。
頭の中まで響いてきて、おかしくなりそうだった。
「は、ハッハ………てめぇ、能力、『絶望』だな………聞いたことあんぜ」
魔眼でさえ手の出せない最悪最狂の能力だろ─────────?




