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30話:鍵

滞りなく更新です。

次回の更新は、6/23となる予定です。

「さ、じゃあまた颯鬼んとやりあってもらうからね」

そんな声が聞こえた。もちろん幻聴ではない、はっきりと灯火さんが言ったものだ。

「はぁ………」

夏休みの初日からこちら側に連れて行かれてまたあの地獄のような特訓ですか。

狩暗颯鬼も絶好調だとか言ってやる気は満々だ。殺る気………か。

仕方が無いという思いと、能力を持っておかないと怜那がうるさいという二つの思いに突き動かされて狩暗の後について行く。

「あ、れーちゃんには少し話があるからね、ここで待ってて」

「わかりました、灯花さん」

そんな会話を耳に挟みながらも、戦闘場へと足を向けるのであった。


「あー、ほんとに灯花………さんは何考えてんのかわかんねぇよ。お前さ、これ以上やっても無駄だとはおもわねぇか? ま、退屈しのぎにはいいんだけどな」

「そんな理由で引き受けてたのか………。まぁ、無駄かどうかはわからんだろ」

「そう……だな、俺には思い当たるフシがあるからな」

「どういうことだ………?」

「同じような奴を昔見たことがあるってことさっ!」

ぎゅん、と黒く塗りつぶされた手が迫ってきていた。

無理矢理体を捻って、ぎりぎりのところで回避する。髪の毛の先端がチッと掠ったような音がした。

「同じような奴を見た? なんなんだよそれは!」

「そのままの意味だろうがっ!」

休む暇もなく黒い手の追撃が繰り出される。

なんとか紙一重でかわせるレベル。しかし、徐々にぴしっ、ぴしっと切り傷が走る。

「避けるねぇ。避けるには避けるんだけど………いつまで体力が持つかな」

「そ、んなことはいい………話を詳しく聞かせろ」

「じゃ、この一撃が避けられたらなっ!」

グゥン! と右目が黒で塗りつぶされた。

速、過ぎる。

一瞬の判断でかわすことが出来ないと思った俺は、狩暗颯鬼の手ではなく腕を払った。

軌道はずれで、肩を掠めたあたりで地面を抉った。

音もなくそこにはくっきりと手形がついた。

「お前、………」

「顔半分、奪うつもりだったんだけどさー」

「っ、んなことはいい。教えてくれるんだろ」

「しょうがないな、ならいったん休憩にするか」

そう言って颯鬼はどがっ、とその場に腰を降ろした。

それに続いて俺も座る。

「この世界を4つに分けている集団ってのはしってるよな? そのなかでさぁ、一番古くからあるのが廻折研究室とここ………群青の雌鳥なわけなんだけども。こっちの集団にさぁ、いたんだよ。お前みたいな奴が」

「俺………みたいな奴」

「そう。誰に連れてこられたのかは分からんし、正直どーでもいいんだがそいつは『能力無さいじゃく』だった。何日も滞在しているにもかかわらず、能力解放の兆しは見えず。そんな時、そいつは忽然と姿を消した」

颯鬼の真剣な顔つきに俺は黙って聞いているしかなかった。

「いなくなって結構経ったある日、そいつは帰ってきた。目覚めた能力とともに」

「能力解放できていたのか?」

「いや、後からわかったことだがそれは廻折研究室の実験サンプル。能力を植え付けるといった実験の対象になっていたんだ。それは最悪の能力だった。そいつはそれを発動し、暴走して能力に飲まれた。もちろん群青の雌鳥は壊滅状態さ。酷かったね、ありゃあ」

「その、能力名は………?」


魔眼イビル・アイズ。その目で直視しもの・・を殺せる、最強にして最悪の能力だ」


魔眼、最強にして最悪か。

言えてるな、それは………。

「その後が重要だ。能力に飲まれたそいつは今、まだ生きている」

「なっ!? 生きているのか」

「もはやそれはヒトじゃない。災害としてこの世界では認識されている。今もどこかで放浪しているだろうさ」

「でもさ、それって俺に関係なくないか?似てるって言っても最初の方だけだろ」

「そうもいってられねぇんだわ。知ってるか?廻折研究室は人間の『能力無』をさがしている」

それは、前に怜那が言っていたのを覚えている。そうか、これが原因か………。

災害、か。 そりゃやだな。

「つーわけで、さっさと能力解放しろよ? あの怜那って奴も心配してるだろうからさ」

「心配? あいつが俺なんかにするわけないだろ」

「…………。まぁ、いいか。とっとと始めようぜ!」

地面の抉る音が、再び響いた。





「『鍵』をね、見せようと思うんだ」

「『鍵』、をですか? 灯花さん」

「最近他の集団が動き始めている。そんな時、『鍵』を守れって言われたって現物がどんなものなのかわからなかったらだめじゃん?」

2人は木製ベンチに並んで座っていた。

怜那としては玲夜が気になっていたが、別に見ているだけでは何も変わらない。

そういう世界なのだ、ここは。

「そう、ですけど……」

「でさ、れいやんが戦い終わったら一緒に行こうと思うんだけど」

「わかりました。でも、他の集団が動いているって?」

「赫逢騎士領団の十人が集まり始めている。それにリツカ帝国が襲われたのも知っているよね?」

確かに今までにない動きを見せている。なにか、嫌な予感がする。

そう、何か嫌な予感が。

「どうしたの?れーちゃん、顔色が悪いようだけど………?」

「ううん、なんでもないですよ」

「心配しなくても大丈夫、私がいるから、ね?」

「…………」

灯花さんは笑顔のまま、私を見つめていた。

「灯花。ちょっといい………?」

スッ、と音もなく現れたのは、女の人だった。

どことなくやんわりとした印象を持たせる女の人だったが、隙がまったく見当たらない。

いや、隙がないというよりかはどの攻撃に対しても避けられるという意思が強く感じられる。

「この人は………?」

「あれ、れーちゃん知らなかったっけ? この人は前に言ってた回復の能力を持つ人だよ。れいやんもお世話になったんだよ?」

そういえば初めてあいつらが戦闘を行ったときの治療は………この人がしてくれていたのか。

「沙希………私は沙希と言います」

「よろしく、です」

どこかぎこちない挨拶になってしまったが、沙希さんは微笑んでくれた。

「で、なんか用があったっけ? 沙希」

「リツカ帝国に向わせてほしい。………この間の戦闘で怪我した人がいっぱいいるから」

「ふっ、流石沙希だな。いいよ行ってきて」

「ありがとう、灯花………」

スッ、とお辞儀をしてから、沙耶さんは去っていった。

「って、言うことで颯鬼ん&れいやん! 今日はここまでだよ!」

スピーカーに向って叫ぶ灯花さん。その横顔はどことなく嬉しそうだった。

私の視線に気づいたのかこちらを振り返り灯花さんは言う。

「いい人だったろ、沙希は」

「そうですね」

気持ちのいい人だった。完璧な能力を持ち合わせていて、それでもって心が澄んでいる。

そんな人だからこその能力なのだろうか。

久しぶりに、いい気分だった。






≪はいはーい、颯鬼んアンドれいやん!終わりだよー。今から出かけるから早く着替えてね!≫

スピーカーから灯花さんの声が鮮明に聞こえた。

終わりにしてはずいぶん早いような気がする。いつもならとりあえず能力解放の兆しが見えるまで続けようか!とかいう言葉を満面の笑みで投げかけてくるというのに。

「あぁ?なんだってんだよまったく。こっからが楽しいところだろうがよぉ?」

「いや、俺に同意求められても困るんだけど」

いつも以上にひどくフィールドはぼこぼこになってるし、俺は疲弊していたところだが颯鬼はまだやりたいらしかった。そりゃあ………あいつは能力使って暴れているだけなんだろうけど、こっちは死ぬ気でやってるんだって。

「そうかぁ?……後1時間でいいから延長しねぇ?」

≪だめだよー、これからみんなで『鍵』を見に行くんだから!≫

スピーカーから返事が返ってきた。

「鍵?ありゃぁ確かどこやらに隠してあって見ることもできないんじゃなかったかぁ?」

「確かにそんなことも言ってたな」

≪違うよ、これから中心で戦っていくだろうみんなに実物を知っていてもらわないといざという時に対応に困るでしょ?持って逃げろ、って命令されたって実物を知らなかったらねぇ?≫

「そうか、『鍵』か……。は、じゃあ今回はここまでだなぁ」

颯鬼は何かを考えるように額に人差し指を当て、そのまま固まった。

もちろん黒光りしていないほうの手で、だ。

俺はその様子を不思議に思うこともなく、開いた扉をくぐって戻ることにした。


「とりあえず、ここにはないからさ、移動専用魔方陣リーブで移動するよ」

そう言った灯花さんは、地面に魔方陣を浮かび上がらせる。

「すごい……灯花さん。こんなことまでできるんですか」

怜那が素直に尊敬のまなざしを送っていた。とはいっても灯花さんに素直なのはいつものことだが。

そして俺たちは促されるままにその魔方陣へと踏み入れたのだった。

しゅうううん、という効果音の後体が軽くなるといった変な体感を感じて視界が白に染められる。

光が収まったので、目を開くとそこにはというか目の前には大きな扉があった。

そしてRPGなどでよく見かける槍をもった門番が扉の両脇に立っている。

「ごくろーさま」

灯花さんは、その門番たちに軽く挨拶してから扉を開ける。

開かれた奥は小さな部屋だった。

天井の一区間が透明なガラスのようなものでできており、青い光が差し込んでいた。

それだけでこの小部屋は明るく、何かとても神秘的なものを感じさせた。

部屋の中央には台座があり、そこにはルービックキューブのような形をしたものが置いてあった。

その立方体は、光を受けて所々が青に染まっていた。白い部分も見受けられる。

「あれが………『鍵』なのか」

一番最初に声を発したのは狩暗颯鬼だった。

「そうだよ、今は青色混じりの白に見えるけどあれは本当は真っ白なんだよ。光を浴びてるからああなってるんだよ」

「………」

「どうしたの颯鬼ん? 」

「なんでもねぇよ」

黙りこくってしまった颯鬼の代わりに俺が質問を投げかけてみる。

「青色の光って………ここって海の底とかじゃあないですよね?」

「おおっ、流石はれいやんだね! 正解だよ、大正解っ」

わざわざ魔方陣までつかって海の底まで飛ぶって………それほど重要なものなのか?あの立方体。

近くまで行って見てみようと思い、部屋に踏み出そうとしたとき。

「ちょおっ! れいやん死んじゃうよっ!」

灯花さんに思いっきり腕をひかれて地面に倒される。

ビシィィィンとレーザーが走った。

先ほどまで俺の頭があった位置に。

「な、なな」

「侵入者対策ぐらいしてあるって気づかねぇのか? お前は愚かだな」

颯鬼がそう発した。

「死ななくてよかったねー。まったくびっくりしたよ」

「す、すみません。灯花さん」

痛い目にあった俺を含めみんなで支部へと戻ることにした。

怜那は終始黙ったままであり、颯鬼はなんだか不機嫌そうだった。


灯花さんはだけはいつもと変わらなかったが。














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