28話:あれ、荒れ?
どうも、鳴月常夜です。
テストは爆死の予感ですが、小説は更新します!
次回の更新は、6/13となる予定です。
長い休み明けの学校というものは授業時間が何故だかとても長く感じるものであり、教室のみんなのだるっとした雰囲気も良く伝わってくる。
悠斗なんかはすでに机に突っ伏して干からびていた。
まぁ、休み中に怠惰な生活を送っていればこういうことにもなるだろう。
その点、俺は無駄にあっちの世界で動き回ったりしたおかげで意味もなく体力がついてしまった。
部活にも入っていないから生かせる時なんてほとんどないのだが。
それにしても、えらく時間が長く感じる。授業終了まであと10分。ここからが先生のラストスパートであり、もっとも長く感じる時間である。
痩せ細った細身というレベルを超えた初老の先生がチョークを叩きつけるようにして黒板に文字を書き連ねる。
「で、あるからしてぇ。ここが重要ぢゃ、てすとに出るからの」
もはや定年退職になってもおかしくないような出で立ちなのにこうして教師をやっている。謎だ。
キーンコン、カンコーン
と、チャイムが鳴った。ガバッと起き上がる悠斗。あいつの体はどうなってるんだ。
俺の小さな疑問をかき消すように、号令がかけられた。
「お前さぁ、最近なんか筋肉ついてきてねぇ?」
帰り道、唐突に悠斗がそう切り出した。
「なっ、別に変わらないと思うけどな………」
冷や汗を浮かべながらの応答。なかなかの際どい質問である。
「お前、まさか…………夏休み中に海に出かけて、その鍛えた肉体で女の子をおびき寄せようって考えじゃあ……?」
「アホか! つうかそんなんで寄ってくる女の子もそれはそれで嫌だわ!」
「おぉ、上腕二頭筋が固く………」
「揉むな! 気色悪いわ!」
男二人で絡み合っているときに周りから痛い視線を感じる。
いや、決してそれではありませんから………。
想像するのも嫌過ぎる。
「へぇ、音城クンと御崎クンはデキてるのか………」
口の端をあやしく吊り上げて笑う桐水がそこにいた。
「おわっ、いきなり出てきやがって………びっくりしたぞ。というかさっきの発言はマジに取り消してもらいたい」
「いんやぁ、こんな面白い話題はそうそうないからねー。クラスの腐女子軍に情報を売りつけよう」
「や、マジで勘弁! 間違いなく誤解が生じてどうしようもなくなるから!」
「ならばあそこの自動販売機でコーンスープを買ってもらおうか!」
………何故にコーンスープ?
無い胸をはって腰に手をあてる桐水。まったくもってこいつは─────
「ぶるふぁ!」
殴られた。
「今なんか失礼なこと思ってたでしょ」
「な、何を………」
勘とかも鋭かったりした。
「桐水の無い胸について考えてたのか玲夜? あの胸は、ロリコンの俺としてはいいけど、容姿や体系について考えると────ギャバラチ!」
カタカナ表記で叫んで地面を転がっていった。
何故あえて口に出して言うのか………。
「胸………? やっぱり胸なの!? 音城クンも莉瑚ちゃんみたいな少しの大きめがいいの!? てか、女は胸じゃないわぁ!」
桐水が壊れ始めた。
「恥ずかしいからやめろや! 周りが何事かと注目してるだろうが!」
久々に荒れた下校時だった。
「ただいま」
鍵のかかっていない玄関にのドアを開け、家の中へと入る。
いつも通り怜那がソファーの上でだらけていた。スカートが際どいとはもう言わない。
「リツカ帝国が壊滅状態らしいの」
「へー」
制服を脱ぎながら俺は適当に応える。おっと、洗濯物が溜まってきてるな。今日は回しとくか。
洗濯籠を持ち上げ、中の洗濯物を突っ込む。
…………へ?
「リツカ帝国が壊滅状態!?」
「だからそう言ってんでしょ! なんなの、私の話聞いてなかったのっ!」
まさか、あの国が?
リクや騎士たちがいたはずじゃあないのか? それにあそこは外と交わることがほとんど無い場所だし、それ以前に誰がそんなことをするんだ?
「赫逢騎士領団か………?」
「………廻折研究室、の連中らしいわよ」
いまだ会ったことの無い組織の人間。研究室、というくらいだからそんな強行手段を取るとは思っていなかった。
「目的はリツカ姫だったらしくて。姫は今、行方不明よ」
「助けなくて良いのか?」
「私達は関わるべきじゃないわ。すべてを巻き込んだ戦いになりそうだもの。………だって、リツカ帝国を壊滅状態まで追い込むなんて……」
確かにそうだ。そんなに関係の無いものが割って入ると、余計なことが起きるかもしれない。
でも、だからって何もしなくていいのかよ。
俺の考えを呼んだかのように怜那は言う。
「あっちが頼ってきたら加勢する、って灯花さんが言ってたわ。そのときは………行くわよ!」
「そのときは………仕方ないかな。一応恩もあるし」
怜那が何故か面白くない、といったような顔でこっちを見てくる。そんなに嫌がる俺を引きずっていきたいのか。
「ところでなんだお前その体勢は。だらけすぎだろ、とりあえずソファーに寝るんじゃなくて座れや」
「うっさいわね…………っ!」
スカートを穿いていたことを忘れていたのだろうか。
ボン、と顔が赤くなる。
「あああ、あんたっ! 何も見てないでしょうね!」
「見てねぇ! つうかお前に欲情なんかするかっ!」
「なっ─────! 私だって成長してるんだからね!」
「知らんわそんなこと!」
「ひ、貧乳だってステータスだって言ってたもん!」
「誰が吐いた迷言だそれは」
「漢字っ! 漢字間違ってるわよ!」
この言い争いは続き、最終的にはクッションが投げられて終了した。
家についてからも騒がしかった。
「こうして半分以上が出席するのは久しぶりか………」
深く、低い声が響いた。姿は見えない。
おそらく声の主は最上階位。姿を見たものはこの赫逢騎士領団にもいないという。まぁ、そんなものは嘘だろうと思っている。
「出席って………小学校かよ」
知らない奴がため息をつく。俺が知らないってことは俺より階位が下なのだろう。
「ハッハ」
笑ってやった。その他の人間は静まり返っている。
「………お前は誰だ?」
「ハッハ、俺こそしらねぇよ! お前こそ誰だよ」
俺より階位が下のくせに突っ掛かってくる奴だ、いっそのこと殺してしまおうか。
「知らないのも無理はないな。だって俺は久しぶりにここに来たんだから。それにコウはいないみたいだしな………」
「名乗る気ねぇのか? ハッハ、今名乗らなければ俺の耳に届かないぜ?」
「それは…………どういう意味だ?」
「ハッハ、こういうことだ!」
小刀を取り出して、そいつに迫る。ここまで距離を詰めれば避けられるはずが無い─────。
そう、確信、した。
「どうした? かかってこないのか?」
空を切った。
その場所にそいつはいない。何がどうなっている?
と、いうか。俺がそこから一歩も動いていない。………幻覚、か?
「そこまでだ、デリィ。トモには勝てない、解るだろう?」
最上階位が声を発する。それには従うしかなかった。
なんだってんだ、一体。
ハッハ、………笑えてきやがる。
「今回だが………リツカ帝国の姫が行方不明だ」
本題はそれらしい。たしか廻折研究室の奴らが暴れ回ったとか。
「狙いは姫の能力、ですかね。それがあいつらに渡るとなると………厄介だ」
トモはいう。何か姫の能力について知っているのかもしれないが、俺にとってはどうでも良いことだった。
とりあえず戦えればそれでよかった。戦闘狂とも呼ばれることはある、と自分で自覚できるほどに。
「ならばどうすんだ? ハッハ………研究室を潰すのかぁ?」
「どうしてお前はいつもそう………」
最上階位がため息をついたようだった。そんなものは気にしない。
「じゃあどーすんだ」
そこでスッと手が挙げられた。影の薄い少年だった。こいつはよく見かけることがある。キリカに構ってたりすることもあるからな。ただ………階位が一番下というのは気になった。
「僕の能力で少しずつ、少しずつ、捻じ曲げていくというのは?」
「………こういうときは、お前か」
その後は沈黙が訪れ、約半数しか集まっていない集団は解散する。




