26話:曲がった襲来
テスト期間中なので早帰りです;
勉強せずに小説を投稿しますヾ(●゜ⅴ゜)ノ
次回の更新はテスト真っ只中の6/3となる予定です。
「ふん……性懲りも無くまたこの城に近づくとはな……しかも今回は城下町内までときたか」
「………」
「……この間忠告はしたはずだったんだがな。それにしてもそんなにも成長するものか?」
冗談ではなく、本当のことだった。
この間、城壁外で見たときは子供程度の身長しかなく、それでもって紫のマントで身をまとっていた。
けれど今は、170cmはあるだろうか。大人ぐらいの身長になっていた。
これは成長とは言わないのだろう、おそらく能力関係。
「お前も、」
ムラサキも声を発した。声の質は前のものと変わっていなかった。
「お前も、俺の言葉を忘れたか。何故あの女が姫などという立場にいるのか」
「そんなことは関係の無い話だ。さっさと消えてもらう、姫のためにも!」
右手に青白い電気を迸らせ、それをムラサキに向かって放つ。
ムラサキはマントの中から巨大な鎌を取り出すと、一凪した。
遅れて斬撃が出現し、電気と打ち合い砂煙を巻き上げて爆発する。
それにひるむことなくリクは突進し、電気を纏った拳を突き出す。対するムラサキはバックステップで距離をとり、続けざまに鎌を乱舞する。
攻撃対攻撃、ただ純粋な力比べだ。
しかしそんな中、リクは不審に思っていた。ムラサキは体こそ変わっているが、攻撃方法、武器、能力はまったく変わっていないと言っていい。
体が大きくなったことで、リーチや体術は変わってくるのだが、どうもおかしい。
たったそれだけの能力なのだろうか。体を小さくすること、あるいは大きくすること。
引っかかるものがリクの中にはあった。
鎌が目の前に迫る、しかし斬撃がくるのはワンテンポ遅れてなので慎重に回避する。
ズドン、と地面に切り裂いた跡が残る。
リクは十分に距離を取ってから口を開いた。
「お前………何一つ変わっていないな。攻撃方法も、武器も。それでもまたここにきたのか」
「前よりはプラスだ。こうやって城下町まで侵入できたことだしな。流石に城内には入れなかったが」
補助系の能力なのか、と思考する。だがそうすれば斬撃はどう証明できる。
そんなことを考えるより、倒してしまった方が手っ取り早い。
どうやら仲間がいるらしいからな。
考えることもそこそこに地面を蹴ってムラサキに肉迫する。
ガッ、と頭を掴み、電流を流そうとしたそのとき。
─────ムラサキが手の内から消えた。
「な………に……」
左肩に衝撃が走り、熱をもったように熱くなる。
地面を転がりながら相手との距離をとり、傷口を確認する。腕こそ落とされなかったが、血があふれていた。
ムラサキは鎌を空で振るい、血を払った。
斬撃はやってこない。やはり、一つの能力だった。
「俺の能力、あらゆるものを一時的に消し、再出現させること」
それで、斬撃を。城下町に侵入を。俺の手から逃れたのも。
「使い勝手は多種多様。斬撃程度であれば時間はいくらでも空けられる」
バヒュン、と斬撃が飛び、民家の煙突を切り裂く。
手の内を隠し、弱者を演じて油断を誘う。
俺は、油断していたのだ。
「能力名、『透明なる支配』それに俺の名前はムラサキ、じゃない」
彼、はマントの裏地を見せ付けるようにして言う。そこには捻じ曲がった『研究』の文字。
「廻折研究室所属、姫貝塚 鎌足だ」
姫貝塚は鎌を振り上げる─────。
影と騎士はにらみ合ったまま動かない。いや、動けない。
動くことが隙になるかのような戦況。どう考えても影の方が有利なのだが、この状態を楽しんでいるようにも見えた。
目を見開いた騎士は、剣を構えて突進をかます。
それに反応した影はかまいたちを発生させる。
ビュンビュンヒヒュン、と空を切り裂く音の中、騎士は走りぬく。
振り下ろした剣を、影はひらりとかわす。影といえど実態はあるようだ。倒せないことは無い。
勝てる、─────と、そう確信したとき、天地が逆になっていた。
そのまま背中に強い衝撃をくらう。木材の束に突っ込んだのだ。
何故? と考える暇も無く、追加攻撃をくらう。打撃、打撃、かまいたちでは無い。鎧の上から攻撃を受けているのに肉体に直にダメージを受けているようであった。
もう一度吹き飛ばされたときは、母を担いだ少年の近くだった。
これは………どれほど飛ばされたんだ?
「騎士さん! 大丈夫!?」
母を担いだまま少年は顔だけで振り返り、泣きそうな顔になってそう言った。
「だ、大丈夫だ………ここは俺が、止めるから、行くんだ」
同じような言葉を繰り返し、立ち上がる。足に力が入らなかったが、よろよろと立ち上がることは出来た。
そして目の前にいたのは─────影ではなかった。
「やーあどうも、なんだか俺の影がお世話になったようで」
茶色のコートにくわえ煙草、ラフな格好をした中年の男だった。
「俺の………?」
「そ、俺の影。まぁ、なんだ?能力か?」
男は頭を掻き、大きなあくびをする。相手が油断しているうちは、チャンス。
「おおっとぉ、動かない方がいいぜ。いや、動けないだろう?あんたの鎧、もう使い物にならないから」
ひとりでに鎧が音を立てる。がちゃ、がちゃりがちゃがちゃ…………。
「そいつはもう意思を持ったモノ。あんたの言うことなんざ聞きやしないよ。俺の命令にしか従わない」
「くっ………能力、か」
「気づくのが早いねぇ。流石………というか気づいて当たり前かぁ。まーなんだ?このまま話でもしようや。リクとかいう奴もどうせ姫貝塚がやっちゃってるし、リツカ姫は神無月ちゃんが向かってるし………まぁ、俺は撹乱係って言った所かな? 何かと便利な能力だし」
「…………」
「ありゃ? 何か喋ってよ、こっちは暇なんだよー。………あ、そうだ。ガキ殺すの忘れてた」
──────!
平然と言ってのけるその様子に悪寒が走った。
死、を簡単に言う者。息をするかのように簡単にあいつは殺して見せるだろう。
駄目だ、止めないと。
動こうとしたとき、体が動かないことに気づく。
いや、体は鎧の中で動く、でも鎧は動かない。これは、鎧の中に閉じ込められた?
「ああ、動けなかったね。だって命令してあるから、鎧にね、動くなって」
「命令………だと」
「そう、命令。というか操っているだけでもあるんだけどねぇ。まぁ、ご紹介しようか?」
そういうと男はコートの裏地を見せ付ける。
そこには捻じ曲がった『研究』の文字が。
「廻折研究室所属、鳥赤羽 操汰。能力名は『異質操作』」
男は口元を吊り上げた。
「じゃ、この剣借りるなー。さぁてどこを、切るのがいいかな………」
まるで散歩にでも行くような軽い足取りで、少年を殺しに行く。
やらせてはいけない、しかし体が動かない。
鎧が、動かない。こんなときに自分を守るものが仇となるなんて………最悪だ。
何でもいい、何でもいいから動いてほしい。
ここまで無力なのか、俺はどこまで無力なのか。
何も守れないのか。それほどまでにっ………。
「まって!」
女の人の声がした。それは多分少年の母親のものだろう。
「殺すなら………私にして」
「あーん? なかなかカッコイイこというね、でもさぁ、出来るだけ殺しとけって言われたんでさぁ、ごめんね」
善意の感じられない言葉に、剣の振り下ろす音、その後には絶望音。
「お、母さん………やだよ……お母さん!」
「あー、ごめんなぁ、少年。でも命令なんだよね、仕方ないんだよね」
意味の無い会話。耳を通り過ぎ絶望感。自分の無能さ。それを呪った。
何のために騎士になった。みんなを守るためじゃなかったのか!
「う、お、おおおおおおおおおっ!」
「おーい、騎士さんよ、無駄だって俺がさっきいった………ああ?」
騎士の怒号に振り向いた瞬間、鳥赤羽は数メートル吹き飛び、地面を転がった。
「な、何が………鎧の拘束は……」
「能力………とはこんなに力がみなぎってくるものなのだな」
「お前………能力に目覚めて……」
鎧を脱ぎ捨て、一般服になった騎士がそこには立っていた。
「き、騎士さんっ!」
少年はヒーローが登場にしたといわんばかりに、いや、実際にヒーローが登場し、目に涙を浮かべていた。
「これで、対等に戦えそうではないか?」
「くっ………そが! 能力者になりたての野郎が俺に勝てるかぁっ!」
男は咆哮した。
城下町では乱戦が起き、自分も向かいたかったがリクが許してはくれなかった。
ただ、戦うことは出来なくても治療することは可能なのに。
自分はただ、この窓から眺めることしか出来なかった。
城内の廊下が騒がしくなる。
どたばたと足音が聞こえる。ついにここまで攻め込まれたのだろうか。
バァン! とドアが力強く開かれ、兵士の一人が入ってくる。
「ひ、姫………お逃げください! 敵が、すぐそこまで………っぐああぁぁぁぁ!」
どしゃり、と倒れたその後ろには長い黒髪の女性が立っていた。
兵士は血を吹き出して死んでいる。
カーペットが見る見るうちに変色していく。それを眺めることしか出来ない。
時間が止まったかのように体が動かない。
「リツカ姫、だな」
冷たい声で女は言う。
「神無月 美流だ。私についてきてほしい」
その声には有無を言わせない迫力があった。
「………ぁ、……」
声は出ない。人が死ぬ瞬間なんて。
さっきまで、戦場に向かうとか呟いていたくせに………。
「この状況を招いたのはあなた。何も考えずに私についてこればいい。そうすれば乱戦は収まる」
城下町から爆発音。あのドームは問題ないが、町が破壊されていく。私の、せいで?
「別に殺しはしない。ただ我々を手伝うだけでいい。不自由もさせない、と室長は言っている」
「室長………?」
ようやく絞り出した声が問いだった。
女は冷たく返す。
「そう、室長。廻折研究室のトップ」
廻折研究室、そうかあそこがこんなまねを…………でもなんでこんなことを……。
町まで巻き込まなくたって………いいのに。
「これは姫貝塚の個人的な恨み、逆恨み。それ以上は特に理由はない」
冷たい声で必要だと思ったことを淡々と答える彼女は、能力者。
敵の能力がわからない以上は従うしかない。というより、従うほか術が無い。
この乱戦が止まるというのなら、それでいいかもしれない。
「私についてくるだけでいい」
そういって女は長い黒髪をなびかせて颯爽と部屋から出て行った。
「私はっ……」
倒れた兵士の頬に触れてから、部屋を後にした。




