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20話:手と影と

どうも、鳴月常世です。

皆さんは休日をいかがお過ごしでしょうか?

ちょっと大きめの連休として、5/1・5/2も休みの人は多いのではないでしょうか。

自分は生憎その日は休みではなく、学校へ行かなければならないのですが……。


さて、この物語も約半分となりました。

これからもどうかよろしくお願いしますm(_ _)m


それではみなさん、良い休日を。

吹き飛ぶ、といった俺の表現は間違っていたのかもしれない。相手の腕は、空高く舞い上がった。

遅れて怜那の姿が現れる。

「ぼけっとしない! さっさと離れる!」

玲那が切り落とした、いや切り飛ばしたのだ、とすぐに理解する。

「それにしても………なんだって俺がかまわれてるんだよ!」

「知らないわよそんなこと」

ぼてっ、と近くにそいつの腕が降ってきた。切り口からは青い血があふれていた・・・・・・・・・・

血無し─────か。

「い、いやはやぁ………やってくれましたねぇ。というか流石、でしたかねぇ、はははぁ」

数歩下がって敵は、苦痛に満ちた顔をしながら、それでも口元は歪ませながらそう言った。

片腕だけで、せわしなく膝を触ったり、頭を触ったりしている。

「気色悪いわね………さっさと消えなさい!」

再び怜那は爆走し、敵に切りかかる。

「いやはや………簡単には、いきませんよ。はははぁ」

「怜那! 止まれ!」

ダン、と敵が足踏みをすると、地面が盛り上がった。

慌てて怜那は走るのを止め、ブレーキをかけた。

地面は盛り上がり、罅割れ、『手』が出現する。

「な……んだこれ」

それは巨大化した土で固められた手になった。

「いやはや、見ての通り『手』ですがね。………硬いですよ。はははぁ」

敵がその場に座り込むと、『手』が地面を砕きながら迫ってくる。

「やることまで気色悪いわねっ!」

怜那は『手』の指を切り落とす。

ドォドォ、と落ちては土に還るが─────。

「切っても切っても、ってことかしら」

最悪、とでもいいたげな表情で怜那はそう呟いた。

『手』の指が、元通りになる。

再構築、再生、回復、────どれもが考えられるもので、言い表すとしたら不死身だろう。

おそらく、地面と繋がっているから何をしようが、『手』にはダメージを与えられない。

狙うはこれを作り出した本人。あいつを止めないことには話にならない。

しかしそれは簡単なことではない。いくら傷を負っているとはいえ、ここまでの力を出している。

それに、この『手』を掻い潜りながら奴を狙うのは難しいだろう。

「怜那っ! その『手』は任せたぞ!」

「あ、あんたっ! なにするつもり!」

怜那の言葉を半分に聞き、俺は奴めがけて走り出した。

能力が無かろうと、できることはある。

「いやはや、何にも目覚めていないというのに………その根性は大したものですよ。はははぁ」

奴は俺を見るなりそう言い、首を振った。

そして存在している方の片腕を、地面にたたきつけた。

ボコン、と足元が急に盛り上がり、俺はつまずく形になる。

「うぁっ」

情けない声を出しながらも、転がり進む。

「いやはや、………ふふふふ。珍しい、とでも言うべきでしょうか。はははぁ」

何度も何度も地面に腕を叩きつける奴に対して、俺は走り続けるだけだった。

そのたびに俺は転び、足を捻る。足を確実に潰してくる。

捻り、捻って、筋を痛めたのかもしれない。途中から走れなくなる。

「いやはや、もうちょっと、ですよ? ほら。はははぁ」

敵は立ち上がり、かかとで地面を蹴った。

直後、地面が突起し、俺の鳩尾を的確に突いた。

「がっ………」

息が、つまる。頭が、考える力が。抜ける。

再び地面が持ち上がり、小さな握り拳がたくさん成型される。

来ると分かっていても、動くことが出来ない。

ドッドッドッド、と拳が炸裂する。

まるで、集団リンチを受けてるようで。なんだか、懐かしいような、感じがした。

地面に倒れこむ、口の中が血の味でいっぱいになる。先ほどの鳩尾への攻撃で内臓にもダメージが来たのだろうか。分からない、とりあえず痛い。痛いのは、いやだ。怖い。辛い。もう、もうそんなことはなくなると思ったのに。いや、これは違う。敵対したからだ、無差別じゃない。俺は、今何を思っているんだ?

「あんた!」

後ろから怜那の声が聞こえる。そうか、俺はがんばらなくちゃあ。女の子が戦ってるんだよ。

俺が休んでてどーすんだよ。能力が持ってないからって。

「かんけー………ないよなぁ」

立ち上がる、あの時もそうだっただろうが。場所と状況が180度違うがな。

「いやはや、それ以上はお体に関わりますよ? ここまで傷つけておいてなんですけども、ね。でもですね。私の片腕を奪ったんですよ。いやぁ、私だって辛いんですよ。確かにあなたたちをここで待ち伏せ・・・・・・・していましたけどね?ただ、確かめようと思っただけですよ?」

「何を言ってる………?」

「いやはや、いいえ。こちらの話しです。すぐにでも帰りたかったのですが────私、怒ってしまいましたかもなんですよ。はははぁ」

そう言いながらも敵は、手を動かしてせわしなく身体を触っている。

こいつは、最初会ったときから何をしているんだ?

必ずと言っていいほど。話している最中、話す前、話し終わったあとにせわしなく動く。

これは、何かの行為。だとしたら、考えるべきは攻撃の準備─────。

「おらぁぁぁぁ!」

声を上げながら走り出す。怪我なんて、いくらでも負ってきただろう。

「なななっ、いやはや………気づきました、か?はははぁ」

敵は先ほどとは違って手を速く動かし始めた。

やはり、これは下準備。魔法使いで言うなら魔方陣形成。呪文詠唱。

「いくらかは、ゲームで検索済みだよっ!」

そのまま距離を詰めて、殴りかかる。

「いやはや、焦りましたよ。完成、ですかね、はははぁ」

ドォン、と後ろで『手』が破裂し、跡形も無く消える。怜那の姿も、そこには無い。

「お前………何を」

俺の問いに答えるよりも先に、奴の両サイドに10本ずつ────『手』が出現した。

「いやはや、『土形成十本手アース・アーム・テン』ですね……はははぁ」

「気色悪い………ネーミングセンスしやがって……」

「いやはや、この力を見てもそういうことが言えますかな?」

一本の『手』が、廃ビルを掴み、砕く。

ただの砂の塊とコンクリート。どう考えてもコンクリートの方が強度が高いはずなのに。

ただの砂じゃ………ないのか。

掴まれたら、間違いなく圧死するだろう。

恐怖し、足が震える。無理だ、あきらめろ、お前は無能だ、いつも通りひねくれてるといって逃げろ。そんな言葉が脳裏によぎる。確かに、確かに俺はこんなところにいる義務なんてない。ほんの偶然、偶然でここにいる。俺の家の鏡から玲那が出てこなければ、俺はこんなところにはいない。普通に学校に行って、普通に暮らしていたはずだ。でも、なんだろうか。あいつに会ってから、変わった。と思う。日々が楽しくなった気がする。一人暮らしで、そしてさらに振られて沈んでいた俺の心を震わせてくれたのかもしれない。そんなことは分からない。

何も無くても、何も出来なくても、やろうとする。それが大事なんじゃないのか?………姉貴の言葉だ。

俺の息子ならしっかりと生きろ………親父の言葉だ。

やってやろうじゃないか。現実じゃなくても、ことは同じだ。

俺は、おれが、やる。

「いやはや、なんですかその眼は………むかむかと、きますね。はははぁ」

一歩、一歩、踏み出す。

「いやはや、返事すらないとは………悲しいですね。あなたがいくら覚悟を決めたようでも、そう都合よく能力に目覚めることなんて無いんですよ? それに、あの女の子も消えました。あなたはもうあきらめてもいいんじゃないのですか?そう、私が言いたいことは、この世界はそう甘く・・・・・・・・・出来てはいません・・・・・・・・ということですよ」

「いや、そうだろう。お前の言うとおりだけども、一つ、一つだけ間違えていることがある」

俺はいま、笑っているのだろうか。感覚が麻痺していてよく分からない。

「いやはや、なんですか?それは。はははぁ」


「怜那は、消えてなんかいないってことだよ」


ズバァンッ、と敵のもう片方の腕も飛ぶ。青い血も舞う。

「あんなもの、避けられるわよ………まったく、爆発なんて芸の無い」

怜那は、顔を少し汚しながらもそこに立っていた。

「い、や、はや、………私の……両腕がぁ! はははははははははぁぁ!」

ドッドオドオドドド、と『手』が暴れ回る。暴走している。

「なんてことしてんだお前は!」

「だってしょうがないじゃない! かっこよく決めたかったのにあいつ死なないんだもん!」

「だからって、やり方ってモンがあるだろうがぁ!」

「考える暇なんて無かったのよ!」

2人して叫びながら『手』の合間を駆け抜ける。怜那がいうにはこれは自動オートでは無く、操作マニュアルらしいから、本人が死ねば止まるという。あの状態では、まともに動かすことが出来ないらしい。

少し離れて、座り込む。少し遠くには『手』が暴れ回っていて、砂埃が舞っている。

今回も俺は、何も出来なかった のか。俺は本当に無能、だな。

「あんた、かんばったんじゃない」

俺の心境を察してか、玲那はそう言い捨てた。

「え……?」

怜那を振り向くと、なんだかむずがゆそうな顔をしていた。

「な、なによ………普通の奴だったら逃げ出すのにあんたは逃げ出さなかったからがんばったわね、って言っただけじゃない! 何でそんな顔するのよ! がんばったけど別に役に立ってないから意味なんてないわよ!」

「ああ、そうだな」

これは、怜那のやさしさどと、そう受け取っておこう。

「そうだな、………これからどうすんだ?」

「あんたの怪我治療しなくちゃいけないわね………やっぱりアジトに行きましょう。灯花さんもいるし」

そういって怜那は立ち上がる。俺も立ち上がろうとするが………。

「いっ………っっ」

「まったく、だらしが無いわね………肩、貸してあげる」

「あ、ああ………悪い」

「へ、変なことしたら捨てていくからね! 」

「何度も言うが俺はロリコンじゃねぇって言ってるだろ」

「口ではなんとでも言えるわっ!」

いや、誤解されそうだから言っておくが、俺は違う!

怜那に肩を借りつつ、歩いていく。






鎖を引き、コンクリートを開けると、そこはアジト、そう、アジトのはずなんだが────。

「誰も………いない?」

「ど、どういうこと? なんで?」

明らかに怜那は動揺していた。それはそうだ。あるべき場所にない。しかもアジトとなればなおさらだ。

影が、動く。見えた。

「怜那………影、見えたか?」

「え、そんなもの………私は見えなかったけど……?」

「そこの角だ」

目を凝らす。そんなことしたところで見えるはずもないのだが。

確かにいたんだ。

「どーやら、ばれちまったみてーだな」

影が、あらわになる。肩まで漆黒の髪のナイフのような男だった。

「お前、なんで俺が見えた?」

「お前は………ここで何をしている?」

「はぁ? 話がかみ合ってねーのな。しらねーよ、ここはなんかの跡だったのか?」

「知らないわけ、無いでしょ!」

怜那が急に飛び出した。抜刀し、すぐに男に切りかかる。

俺が制するその前に、もう怜那は相手に迫っている。速すぎる。しかし男はそれに動揺することも無く。

片手で受け止めた。

「なんだぁ? やけに気が荒いなぁ………」

男の手は、黒く黒く黒く、鋭く鋭く鋭く、まるで何かでコーティングしたかのようだった。

「なっ………こいつっ!」

「止めろって、な?」

刀の刀身をしっかりと握り、もう片方の手で怜那を突き飛ばす。

「うぅぅっ」

とは言っても、それはただ押しただけだった。攻撃、殺意的なものは感じられない。

「だから、戦う気なんてないって言ってんだろ? 人の話を聞こうか? えーと、怜那だったか?」

「なんで………」

「それと、えーと『れいやん』だったか?」

男は俺を指差した。

「まさ………か」

「だから言ってんだっての。俺は『群青の雌鳥』、灯花からめーれーを受けてきたんだよ」

「灯花さんが………?」

「そーゆーこと、ここはこの間で敵にばれちまったって言うからよ。移転したんだよ」

男はニィィ、と笑い言った。



「案内役を務めます俺は────狩暗かりくら 颯鬼そうきだ」













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