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18話:休暇らしく

「ちょっとあんた、聞いてるの?」

「…………」

「シカト? 奴隷の癖にシカトするわけ?」

「…………」

「ねぇ、ちょっと、暇なんだけど」

「…………」

「超暇だっての! き、い、て、る、の!?」

「う、る、せ、ー! 俺は暇なんかじゃないわ!」

折角のゴールデンウィークだというのに俺は机に張り付いたままだったのだ。

そう、もう一度言うが折角のゴールデンウィークなのに俺は机に張り付いている、それはいかに?

何故か宿題が出されていたのだ。それも尋常じゃないくらいに。

一つ一つは何も問題の無い簡単なものなのだが、量が多いとなれば、嫌になってくる。

流石は、詠センセーというべきだろうか、ドS過ぎる。というかゴールデンウィークにまで食い込ませるか。

と、言うことで宿題を消化しようとしてみたのだが…………ここで別の問題が発生。

怜那が騒ぎ出したのだ。確かにこんな休み時(こいつはいつも休みみたいなものだが)に家の中にいるのは暇で暇で仕方ないだろう。それに俺がいつやらに雰囲気に流されてどこかへ行こう、と言ってしまったものだからこれまたうるさい。

「あんたどっか連れてくれるって言ってたじゃん! あれは嘘!?」

「え、ああ? 確かに言ったけどよ………今思ったらお前と俺だけじゃあつまんなくないか?」

「ぇ、………別にそんなことはいいのっ! っていうか暇なのっ!」

「んだそりゃあ………あー、あ? そうか………あいつを誘えばいいのか」

「え! どっか連れてってくれるの? 」

「まぁ、………そういうことにはなるが、……文句は一切受け付けない方向でいいか?」

「なんだろう……嫌な予感しかしないわ……」

その予想は間違ってはいないと思う。

「えーと、最後にもう一度訊くけど………文句は絶対にいうなよ?」

「何で2回も聞くの!? 危ないよね! 間違いなく危ないよね!」

「…………」

「なんでそこで黙るのっ!? あっ! プリントをやり始めるなぁ!」

「ちょ、やめめめめ………破れるから! プリントが破れるから!」

「いいわよ! やってやろーじゃない! 文句なんて絶対言わないから!」

「ふっ………お前、後悔するなよ………」

なんだか変な雰囲気になりつつあった。






「おーっす、玲夜。なんか遊ぶの久しぶりだな。あっ、この間のいとこ!マジ可愛い!」

「やっほー! 音城クン! なーんかロリっ娘紹介してくれるってのはホントー? ってマジ可愛いその娘誰!?」

午後、俺は馬鹿と思われる2人が待っている公園に行った。

俺の予想をはるかに越えて馬鹿2人は公園で熱く叫んでいた。

御崎悠斗と、桐水木葉きりずいこのはだ。ちなみに前者の台詞が悠斗、後者の台詞が桐水だ。

台詞から分かるように、馬鹿だ。覆しようの無い馬鹿だ────といいたいところだけれども、桐水は

クラス委員長の座についている。頭もなかなか良い。テンションを上げるのが上手い。リーダーシップがある。委員長に必要であろうステータスがそろっているのだ。

しかし、欠点がない人間などいないというのが偉い人の言葉なわけで。

2年生になって、4月のクラス替え直後の自己紹介はすさまじいものだった。

『やっほー! 私の名前は桐水 木葉! とりあえずクラス委員志望なんでー! よろぉ!あっ、それとね、

私は超のつくアレ・・だから、男には興味ないんだよー!』

最悪の自己紹介だった。誰もが苦笑いだっただろう。しかし、一番初めの学力テストで、学年10位以内を取ると、もはやキャラ作りの領域ではないのか?、ホントは用意周到に計画された性格だろ!、などといった国語力の無さを感じさせる噂が流れた。

ちなみに、一人称と名前からして桐水は女子なのだ。

「あ、あんた………なにこれ、悪意しか感じられないんだけど」

「文句は受け付けないと言ったはずだが………こればかりは仕方ないかもな……」

悠斗はいつも通りのワイルドデコ出しヘアーで、ダメージジーンズ、黒の半袖Tシャツだった。

対して桐水は、ロールアップされたデニムに、フリフリのワンピースだった。

というかお前ら、寒くはないのか。

「やっべ、超可愛くないっすか!? マジロリっ娘じゃん! 私ーのドストライクじゃん!」

桐水は自分が女であるところから自覚したほうがいいような気がする。

なんだかんだで、桐水だってレベルが高いとは思うのだが………本人はまったく自覚なし。

それゆえに意味不明なファンも数々存在している。

「玲夜、今ここでボイスを録音したいのだが………」

「悠斗、少し黙ろうか。お前は目が逝ってるって」

「ちょ、わぁぁぁぁっ、 どこさわってっ………あ、あんた、助けなさいよっ!」

桐水の玩具と化している怜那。残念ながらそんなところに割って入れるほど俺は勇気が無い。

「い、いま、何かが俺の中で覚醒しようとしている………」

「おーい、何に目覚めようとしているんだお前は。というかキャラ崩壊がすさまじいぞ」

覚醒した2人を俺がどうこうできるわけも無く、奴らの気が済むまで俺はブランコに座っていた。






しばらくしてから、喉が乾いたやら小腹が空いたなどという意見が上がったので、喫茶店に入った。

学校方向とは正反対の、例のコンビニを通り過ぎてしばらく進んだところにある。

清潔な店内で、机イスがすべて木作りという点が良い印象を与える。

もちろん、ソファーである席もあるのだが。

今回は、イスの方に座った。

「とりあえず俺はメロンソーダな、んで、他の皆さんは?」

悠斗が先に言い、ドリンク表を回す。

「んじゃー! 私はウーロン茶でいいやー」

「………私は、ピーチジュース……」

明らかに怜那のテンションが下がっていた。というか疲れていた。

「俺は……コーヒーでいいか」

しばらくして店員が現れ、注文を取って店の奥に消えた。

店の中はそれほど混雑していなかった。席は7割方埋まっているといったところだろう。みんな休憩が目的だ。

「そーいやさ、あの地獄みたいなプリント終わったか?」

悠斗が、口を開いた。

「私は終わったよー! だからこうして遊んでるんだしっ、いやぁ、面倒だったね!」

ゴールデンウィーク始まって3日、残り2日。この状態で宿題がないという最高の開放感を味合うことは一生なさそうだ。

特に詠センセークラスの場合。

「やっぱり………頭いいってか要領いいんだよなぁ」

「いやー、私は頭がいいとか言うよりも記憶力がいいんだよねー!」

「それを頭いいって言うんじゃねえの? 俺は記憶力の欠片も無い感じだけどなー」

ははは、と悠斗が笑う。確かに学力においては最大級の馬鹿だが。

「頭がいいってのはさー。知識を吸収して、それを自分のものに変えちゃう奴のことじゃないかなー? だって自分のものにしちゃったらさ、応用だって効くじゃん? 私みたいな記憶力だけじゃなくて、応用力も必要だと思うんだけどねー! 何でもかんでも応用すれば使えるってもんじゃん。電気だって応用したからこそつかえるんでしょー?火だって応用でしょ!? つまり応用ってのは使いこなすって言う意味でもあるのかもしれないね。もちろん他にも何事をも見分ける力………観察眼かな? そういうのもあれば便利だと思うけどね。そんな眼があれば細かいことにも気づきやすくなるし、発見だって増えるわけでしょ? もしかしたら危険だって回避できるかもしれないよん」

こういう風に長々と語るときの桐水はなんか頭がいいように思えてくる。(実際に頭はいいんだが)

すでに悠斗はジーっと危ない目つきで怜那を眺めていて話なんざ聞いちゃいない。

「って、あれ!? なんか真面目っぽい話になってるじゃん!? 」

驚いたように桐水は目を見開く。ぱぁんと手を打って、おしまい、と言った。

「いや、なんか面白かったよ。なかなか真面目な話をしてくれる桐水がな」

「うっはー! なんかやだねぇ! こういうの。私っぽくないーー!」

本当は頭良いんだからそんなこといわなくてもなぁ………。

タイミングよくウェイトレスが飲み物を運んできた。

いったん会話はそこで途切れる─────。






廃墟の群れだった。

風化し、ボロボロになったビルが群れていた。

その合間を歩く。前にいる男について歩く。

ここに……いつか来たことがあった。でも、帰りたいとは思わなかった。

「ここだ」

男は短く言うと、目の前の建物を指差した。それは周りのビルと同じ、何も変わらないもだった。

「入れば分かる」

男は再び背を向けて歩き出す。それについて行く。

中は何も無かった。当然だ、だって廃墟なのだから。だけどおかしいことに、柱も無い。

いや、あったが、無理矢理取っ払われたような感じだった。

男屈むと、地面に手を当てた。

ブワァァン、と幾何学的に象られた魔方陣のようなものが出現した。

移動専用魔方陣リーブだろう。知識はあった。それは教え込まれたものだったから。

だけど、いつ? どこで? だれに? 覚えていない。

「お前は、」

男は魔方陣を発動させながら訊いてきた。

「お前は、何故。階位に位置していながらもそのように振舞う? 階位に位置しているものならば、気分しだいで誰だって消せるはずなのに。そう、今の俺だって消して戻ろうと思えば戻れるはずなのに」

「あ、あいむは………強くなんて、ないです」

「まだそんなことを言っているのか? では何故階位に位置している?」

「階位なんて………知りませんっ」

「本気では言ってないな……それぐらいは分かる。まぁ、俺にとってそんなことはどうでもいい。ただ連れて行くだけでいい」

準備が終わったのか、男は立ち上がった。

「入れ」

魔方陣は徐々に輝きを増していっている。

踏み込めば、発動するのだろう。

また、あのわけの分からないところに戻るのだろう。

「どうした?」

男は言っていた。俺を殺すことも可能だと、そうすれば逃げられると。

でも、これ以上また人を消していくのか。そう考えるだけで……もう。だめだ。

「オイオイ! 光が見えたんで何やってるかと思えば………ハッハ、階位八じゃんかよ」

自分たちが入ってきた入り口に、人影があった。

「どうした? 面倒だな! さっさと入っちまえよ。どちらにせよ、っというか俺は事情しらねぇハッハ!」

彼、は口を大きく開けて笑う。何だ。この。気持ち悪さは。

違う。彼、は今、たった今。殺してきたのだろう。

「う………うぅぅ……」

「意味がワカンネェか。俺も意味分かんねぇ! ハッハ! だからめんどくさいからよ、行ってから決めようか?臨機応変! 悪く言えば行き当たりばったりだ!」

彼、の意図が読めない。というか彼、は何も思っちゃいないのだろう。

もう、意味がわからない─────。

「さて、俺も帰るからな。使わせてもらうぜ」



彼、の手が迫っていた。













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