16話:挟撃
学校が始まってしまったので、5日に1度の投稿ペースに落とさせてもらいます。
どうかご了承くださいm(_ _)m
その通過はいつもと違った。それはキリカとともに通過してるせいなのか、帰れるという安心感からなのか。
それは分からなかったが、何かが違っていた。
黒い視界の中、白い線が何本も横に走っている。
例えるならそう、初期のゲーム。バグになったように白い線がはしっているのだ。
何か危険を感じた。そう、あそこから帰ってくる前の森に上がった火の手のように。
バグ、不具合、それには嫌な思い出しかない。
パソコンのデータが飛び、プリントの提出が不可能になる。
ゲームデータが飛び、あえなく最初から。
だけど、これはそんな生易しいことではないと実感できた。
なんと言っても、向こうの世界では人の命が軽すぎるから。死が、常に付きまとうから。
「おっと………普通に戻ってこれたな」
「…………?」
キリカはなにやら不思議そうな顔をしていたが、それは他人の家だからだろう。
とりあえず洗面所から出ることにした。トコトコとキリカも後をついてくる。
しん、と静まり返ったリビング。どうやら怜那は帰ってきていないらしかった。
姉貴も同様まだ訪ねては来ていなかった。なんとかセーフか。
「救急箱取ってくる。ソファーに座っててくれ」
「そ、そふぁー?」
「え? いや、そのイスだけど」
「あ、ああ、そうでしたねっ! 待ってます」
よろよろとした足取りでソファーに座り込むキリカ。キョロキョロと周りを見回している。
そんなに珍しいものはおいてないと思うが………。
まぁ、いいか。あの物置部屋に救急箱を取りに行く。
いつも通り、というか片付けてないから何も変わらないのだが、物があふれかえっている。
物置部屋の隣の部屋は姉貴の部屋だ。何故か鍵がかかっている。
別に入る気はないのだが、気にならないわけではない。
そんなことを考えつつも救急箱を手にリビングへと戻る。
リビングからは規則正しい寝息が聞こえてきた。
ソファーには横になって寝ているキリカがいた。疲れたのだろう。それは俺も同じだ。
なんせ無茶苦茶にもムラサキと戦ったわけだし、怪我だってした。
床に座り、自分の傷の手当てを始める。テキパキと、マニュアルどおりに、一寸の狂いも無く。
すぐに手当ては終わった。キリカも手当てをしてやろうと思っていたのだが、寝てしまってはどうする
ことも出来ない。寝ている子になにかしらをするのはどこかの変態さんだけでいい。
俺は変態さんじゃないからな。
救急箱は机の上に置き、冷蔵庫の中身を確認する。
「あー…………」
思わず声が出てしまった。冷蔵庫の中身が空に等しい、入っているのは調味料だけだ。
帰ってきて早々これはなんなんだ、まったく。
独り言とため息を漏らしつつ、仕方なくスーパーへと向かう準備をする。
キリカは………置いていっても大丈夫だろう。いや、置いていかないとまた悠斗などに見つかったときに大変だ。
時間は午後5時過ぎ。日付を確認するとまだゴールデンウィーク2日目だった。
いや、もうというべきなのか?
財布を持って外へでて、鍵をかける。誰かさんのせいで一本無くしたからな。
キーホルダーのついていない鍵をポケットしまい、俺はエレベータに乗った。
スーパーの駐車場付近を歩いているとまたあいつに会ってしまった。
「おっす! 玲夜」
「よう、というかゴールデンウィークなのにお前は何で制服を着ているんだ」
「それが補習だったんだよな。センセーは怒るし、散々だったぜ」
確かに詠センセーなら私のゴールデンウィークになんてことをしてくれるんだ、とか言って怒りそうだ。
災難だったな悠斗。
「なんか玲夜みょーに怪我してねぇ? どうした? 彼女と喧嘩したか!?」
「だから彼女じゃねぇっての! 何回目だこれ? 」
こいつが馬鹿でよかった。余計な嘘をつかなくていい。
「俺は今お前が馬鹿でよかったと思っているよ」
「そうか、ありがとう」
「…………まぁ、いいか」
本人が喜んでいるならいいか。
「というか今日は一人なのか? あの………かの、じゃなくていとこはいないのか?」
「ああ、いねぇ」
「なんだ、………折角あの神ボイスが聞けると思ったのに」
「そうか、それは残念だったな」
「俺さ、おふくろに妹の件相談したらさ、捕まる前に死になさいって言われたぞ」
「だろうな、お前の母さんは正しい、間違っているのはお前です」
「そんなにいけないことかなー? 」
「お、おいっ! 目があぶねぇぞ!目が!」
「ま、これは冗談として、お前、なんか変わった?」
「な……んかってなんだよ」
余計なところで鋭いな、こいつは。
「たとえばほら、新しい女の子との出会いがあったとか」
「馬鹿かお前は」
間違っていないところが余計怖い。
「そーだよなぁ………いきなりそんなことなんてないよなぁ、……空から女の子が降ってこないかなぁ」
それは自殺志願者だと俺は思う。……あれ?こんなこと前にも言ってた気が……。
「んで、お前はまたスナック菓子探りか」
「そーよ! 最近は『ガムグミ』が俺の中ではブームがきている」
「それは『ガム』なのか『グミ』なのかをはっきりさせたほうがいいと思う」
「いや、『ガムグミ』は『ガムグミ』だ! 俺はそれで腹を壊したがな!」
「だろうな。『ガム』を飲み込んでいるのとなんら変わりが無いような名前だからな」
「というわけで今日は何か探していたんだが面白いものは無かった」
ぐぐっ、と悠斗は背伸びをしながら言った。
いつの間にか日がもう傾いていた。
「おっと、いつの間にか時間が経っていたな。わりぃな、引き止めて。お前は今から買い物か」
「ああ、冷蔵庫の中身が絶望的だったからな」
「そうか、じゃーな。最近は早く帰らないと親父がうるさくてなー」
そういいながら悠斗は手を振って歩いていった。
………俺も早く買い物を済ませるか。
頭の中に今日の夕飯を浮かべながらスーパーへと入った。
勉強も手につかず、ぼーっとその鍵についたキーホルダーを眺めていた。
思い出されるのは昔の話、小学生時代の話。あのころは何も不都合なんて無かった。
世界は、自分の家と小学校までの範囲だけで、楽しかった。
だけど、思ってた以上に世界は広かった。
今ではもう理解できる。
自分は、とても小さな存在だった。
なにを………しているんだろうか。
開かれたノートには一文字も書き足されてはいなかった。
もう、夕方だった。
自宅の玄関のドアに手を掛けたとき、中から物音がした。
強盗!? いや、鍵は確かに閉めたはずなんだが………。
それに取られるものなんて置いてないのに物音?
鍵を開け、マイバックは玄関の下駄箱に置き、リビングへと向かう。
靴を脱いでいる途中、ひぁぁぁっ! というキリカの声が聞こえた。
忘れていた、キリカかっ!
リビングのドアを突き破る勢いであけた。
「キリカっ、大丈夫か」
そこにいたのは強盗ではなくて──────。
手を刃にしたキリカと刀で打ち合っている怜那だった。
「な、な、…………何だこの展開はっ!」
とりあえず両方とも落ち着かせたところで、イスに座らせ、会議を始める。
「あんた、こいつはなんなわけ?」
代名詞ばかりの台詞に乗せて、ズビシィ!とキリカを指差す怜那。
差されたキリカは小さくひっ、ともらした。
「えーとな。説明することがありすぎてよく分からなくなってるんだが」
「いいから一から説明しなさいよ!」
「そうだな、まず、お前が俺を置いて鏡に入ったことから始まる」
「うぅっ」
「そして俺は意味不明な地に降り立った」
「…………」
「そんでもってリツカ帝国の姫に会った」
「ええっ! なんで!?」
「俺が兵士に捕まったから」
「うぅっ」
「まぁ、そこはいい。んで、鏡を探そうと森に入ったらこいつ、キリカと出会った」
「…………」
「そ、そうなんですよっ」
「んで、成り行きでいろいろとあってこっちに戻ってきた、と。まず最初に俺に言うべきことは?」
「ごめんなさい」
「はぁ、……まぁ、こうして無事に帰ってきたからよかったけどな」
「よくないっ! ………もし、もし死んでたら、私は……」
俯きながら言う怜那。その間にキリカはまた寝そうなのだが。
心配してくれることはありがたいな。
「それに………怪我してる」
「まぁ、戦ったし」
「能力もないのに?」
「キリカがサポートしてくれた」
「ふうん………」
なにやらいきなり機嫌が悪くなったような気がするが、シカトしないと話が進まない。というか意味わからん。
キリカはもう寝てるし。
「というかこいつ、能力なんて持ってた」
「ああ、手が刃になるやつな」
「『全身刃物』なんて……すごく珍しいのに……」
………はっきり言ってレアだとかそこら辺は分からない。
「それに………何かおかしい」
「なにが?」
「何か、よ。……もういい。ご飯にしよう」
その夕食が地獄化したのは言わずとも、だ。




