13話:ミス×ミス
都合により少々遅れて投稿。
今日の夜にもう一話投稿するかもしれません。
赤を基調とした部屋で、2人の話し声が聞こえてくる。
「れーちゃん、れいやんはどうしたんだ?」
「え、? …………えーっと」
「まさかとは思うけど一緒に来てないってことはないよね」
「………」
「一人ずつ門をくぐったら間違いなくバラバラな場所に着くよね」
「うん………」
「それはもう肯定と受け取っていいのかな」
「ああ、えっと………」
「れーちゃん。なんて初歩的なミスを……」
「だっ、だって! あいつが家でもたもたしてるから悪いのよ!」
「それにしたって一緒に来ないとれいやんは能力持ってないんだから……」
「…………」
「この世界のどこに飛んだかなんて分からないよなぁ……。せめて思考伝達でもいたらなぁ」
「今はいないの?」
「ああ、世界を広げに行っているからなぁ………」
「そう………」
「れいやん、死んだかなぁ」
「しっ、死なないよ! あいつは多分生きてる!」
「多分、なんだね………」
こんな会話の中、灯花は心配していた。
なかなかの逸材だと始めて会ったときから思っていた。それはれーちゃんが近くにいるとかそういうこともあるけれど、それ以上の何かを感じた。
ただ、他のところでは役不足。これからだ、という素材だったのだ。
生まれてもいない逸材をこんなところで手放すのは正直きつかった。
助けようにも場所がわからない。そして思考伝達は外出中。
生きて戻ってくる、という確立が低いのだ。それは逆にいうと死んで戻ってこない確立が高いということ。
さて、どうしたものか………。
灯花はただ思案することしか出来なかった。
場所と、状態と、安否を。
ズガァァァァァン! と雷鳴が鳴り響いた。雷鳴だ、と理解したときにはすでに草原は一面黒に覆われていた。
いや、それ以前に視界が白に塗りつぶされるほうが速かった。
誰かが、落雷を放った。
それしか分からなかった。
「ま、まさか………リクさま……か?」
騎士1号が声を震わせながらそう呼ぶ。
なんだ? 次から次へと登場人物が……。
「玲夜、これでも大丈夫だ。ムラサキは消されるだろうよ」
騎士1号の反応を見る限り味方だと伺える。
ザッ、と地面を踏む音、見れば城の門には背の高い男がいた。その後ろにはリツカ姫もついていた。
男は、地面すれすれの黒コートを肩に羽織り、これもまた黒のハンドグローブをしていた。
「ムラサキ、去るがいい。二度と現れなければ俺たちも追いはしない」
それは強制だった。声の質からしてそれ以外の選択肢はないと感じさせられる。
俺に向けられたものではない殺気なのに、背筋が凍る。
それは騎士1号も同じようだった。
黒く焦げた草原に片膝をつきうめいているムラサキ。勝機はもう無いように見えた。
「去りなさい、ムラサキ。これ以上私たちの町を脅すようなまねは止めるのです!」
リツカ姫がそういった。それに対してムラサキは口を開いた。
「私たちの町、か………。嘘で固められた姫がよく言う」
それはどこか、憎しみを秘めたかのような声だった。
「去れと言っている。これ以上の会話は敵対行為とみなす」
すぐにリク、と呼ばれた男が割って入る。
「人間ごときが………」
そう呟くとムラサキは、黒い霧を自分の周りに発生させ、消えた。
あたりには静寂のみが訪れる。
「去ったようです。姫」
「そのようね……お疲れ様、リク」
その後は、騎士1号に促されるまま兵隊達の救助に向かった。
かなり武装しているせいもあって、城下町に運ぶのにはそれなりの時間を要した。
そして再びあの高貴な部屋に呼ばれた。
「玲夜さん。今回はいろいろとすみませんでした」
そういって深々と頭を下げるリツカ姫。
「い、いや。俺は別に何もしていないし………救護活動ぐらいしか」
「いえ、それだけでも助かりました。それに……巻き込んでしまったのは私のせいですから」
うーん、やっぱり出来た人だな。流石は姫って所か、そりゃあ人から信頼されないといけないからな。
姫の腰掛ける豪華なイスの横には現実で言えばガードマンよろしくリクが立っていた。
いや、この世界でもガードマンには変わりないか。
「でも、保護してくれたのは姫ですし………」
「はっはっはっは。いいじゃないか、玲夜はいいことをしたんだ」
騎士1号は大きく笑ってそう言った。なんか絡むのが普通になってきていた。
「それでは………下がってもらっていいですか」
「え……?」
リクという男だった。姫の前に立ちふさがるようにして言った。
「リク、あなたっ………!」
「っ、 すいません姫」
リクは殺気をさらに押し殺し、下がった。
「すいません玲夜さん。どうかお気になさらず……」
またも姫が謝る。
「い、いえ………じゃあこの辺で……」
なんだか下がるしかない雰囲気になってしまった。
「………じゃあ行くか、玲夜」
騎士1号の後に続いて部屋をあとにした。
「リクさまはな、ここじゃない世界から来た人間なんだ」
騎士1号は歩きながらそう言った。
そしてそれは自分が人間ではないと言っているのだと、そう聞こえた。
「1年前だったかな、お前と同じあの森で発見されたんだ。でもそいつは血まみれでな、急いで城に連れ帰ったよ。そしてその夜ことだ」
「城の護衛室から火が出てるぞ!」
「なッ、なぜだ! あそこには発火するようなものなんてなかったはずだ!」
混乱する兵士達、そんな中でも燃え上がる城の護衛室。
あぁ、護衛室というのは兵士が寝泊りするためだけの部屋だ。
「あ、あそこに誰か立っているぞ!」
時計台の入り口そこに男はいた。この町の時計台は上まで上ると町を一望できるんだ。
「血無しども………よ。………焼き消えろ!」
男は手を頭上に掲げると、暗雲の立ち込める空から灼熱の色をした雷を呼び寄せた。
雨のように降り注ぐそれは男の体もろとも城を飲み込んだ。
地獄だったらしい。城下町には意図的になのか被害は一切出なかったが、城の半分は消し飛んだ。
そして兵隊達もみんな青い血を流して倒れていった。
そんな中、男は何でか泣いていたよ。どうしてだろうな。
雨が降ってきて火は消された。それでもまだ男は立ったまま何かをしようとしていた。
そのとき目の前に姫が出てきたんだ。
そしてそのまま男の頬を叩いた。
「あなたは何故こんなことをしているのですか! これは許されることではありません!」
「…まれ………血無しを抱えているお前も同じだ、殺してやる」
「血無しがあなたの仲間を殺したように、ですか?」
「────っ!」
男はそのまま固まった。まるで心の中を言い当てられたように。
「同じ事をしてどうなるというのですか、あなたも同じですよ………」
男は何も言わなかった。姫は続ける。
「悲しいのは分かります! だけど……あなたまでそんな道を歩いたら……終わりじゃないですか!」
「何故泣く……お前には関係ないだろう……」
「あなたが、泣いているからです」
そこで初めて自分の涙に気づいたように男は目をぬぐったのだ。
「そして………私も、同じです。だから………私たちと一緒に、生きましょう」
姫はそこで手を伸ばした。何をされるかも分からないのに。
先ほどまで城の大半を焼き尽くした者に。
その姿は男には神様にでも映ったのだろう、一生を誓うと、そう言った。
「ってのが姫とリクさまの出会いかな。まぁ、そのとき俺は城にいなかったからこれは聞いた話だが」
「ふーん」
人にはやはり劇的な出会い、というものがあるのだろう。俺の場合は激的だったが。
「だからな、リクさまは姫に危険性があるものならば近づけはしない。それがたとえ俺たち兵士でも───って聞いてるか?」
「え、ああ」
少し、あいつとの出会いを思い出してしまった。あの時は本当にびびったなぁ………。
あいつ………今は何をしているんだろうか。
「そういえば玲夜。お前はあの森で何をしてたんだ?」
「あー? ああ、うーん………」
迷ってた、とでも言うべきか。まさかミスってはぐれたとか言ってもなぁ………。
いや、そんな事よりこの間のアジトの場所を早急に調べるべきだ。そう思った俺は話題変換を図る。
「俺のことはいいだろ?それより地図ってあるかな……?」
「ちず? ああ、あれな。それなら未完成だが俺らの護衛室にある。着いて来い」
はっはっは、と意味なしに笑い、騎士1号は歩き出す。そろそろ本気で名前聞いておいた方がいい気がする。
少し歩くと、ベットのみが敷き詰められたかのような部屋に着いた。どうやら隣の部屋はロッカールーム
とでも言うのだろうか、とりあえず防具を保管する場所があった。
壁には大きな地図が貼ってあった。
リツカ帝国、とマーキングされている大陸が俺のいる場所だろう。………ん?
大陸だと…………?
「ちょっとまて、俺がいるのは大陸………?」
周りを海に囲まれた島国だ。大きさはそこそこなのだが、周りを取り囲む海の面が広い。
すなわち、この島国から出ることが俺には不可能。
「そう、この大陸ほとんどがリツカ帝国の私有地だ。すごいものだろう?」
騎士1号の話は俺の耳にまったく入ってこなかった。
そうだ、魔鏡は別にここにもあるかもしれないじゃないか。3日間、ここで過ごせば見つかるかもしれない。
「魔鏡って………この町にある?」
「まきょう? ああ、なにやらリクさまが言ってたな。俺は姫に仕えるもの、現実に戻る必要など無いってさ、そういいながらガラスみたいなものを森の奥に捨てに行ったことがあるぞ。いつだったかは忘れたが」
なんてことしてくれんだあいつは………。しかもあの森かよ……またムラサキとやらが出てきたら
俺はどーすればいいんだ。この城の人についてきてくれって言うわけにもいかないし………。
ここは……覚悟を決めるべきか。
ポケットの中の通行石を確認する。エネルギーは約半分。
この間より溜まるのが速いな、と俺は現実逃避気味にそう思った。
次の日、俺はリクに睨まれながらもリツカ姫に別れを告げ、城を出た。
森の奥とやらに捨てられた魔鏡を見つけに。
探しているうちに通行石のエネルギーも溜まるだろうと予想して。
頼れるは自分の足と直感だけ。




