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12話:紫色の

なんか、久しぶりに早起きしたんで投稿してみました。


お気に入り件数、順調に増えています!

登録して下さった方々ありがとうございます。

ゴールデンウィーク1日目。起きたのは休みの日にもかかわらず6:00。

完璧すぎる目覚めもどうかな、と思っていたとき、足を踏みつけられた。

「いで、………んだよお前」

いつの間にか俺はソファーから転げ落ちていたらしい。

踏んだ本人は……まぁ、言うまでもないと思うが。

「行くわよ」

「何処へだ」

「そりゃあ、鏡の別天地アナザー・ワールドよ。ゴールデンウィークなんだから時間はたっぷりあるでしょ?」

「やけに目覚めがいいな………お前一人で行ってこいよ」

「はぁ? あんた私の奴隷でしょ? ついてきて。いや、ついてきなさい」

この間は仲間って言ってたような気がするんだが……。

いつの間に格が下がった?

「先行ってるから絶対来なさいよ」

そういって怜那は、刀を携えて洗面所へと向かっていった。

「んだよもう………」

仕方なく立ち上がり、洗濯機を回してから行くことにした。どうせ丸一日は戻れないのだから、回していこう。洗濯籠の中身を確認する。

「ぐはっ!」

何かイケナイモノを見てしまったような気がした。あえて二度見や、手に取ったりはしないが、これは危険だ。

犯罪者のアレ、更衣室に忍び込んで捜索するアレ。ナントカ泥棒ですね、はい。

目を逸らしながら、洗濯籠の中身のものをすべて洗濯機にぶち込む。

なんで洗濯するのにこんな心臓が跳ね上がってんだよ………。

今度から籠は2つ用意する必要がありそうだ。俺用と、怜那用と。


無事に洗濯機が回り、機械音が聞こえてきた。これで大丈夫だ。

干すときのことはまた後で考えることにしよう。

通行石をポケットに入れ、洗面台へと足をかける。

「…………2回目だけども抵抗があるな……」

そんなことを漏らしつつ、そろーっと腕を突き出す。とぷん、と鏡に飲み込まれる。

飲み込まれる感覚は変わっていなかった。

何か忘れていることがあったような気がしたが、それほど重要なことでもなかっただろうと思うことにして、俺はあたりを取り囲むようにして出来た鏡の中の闇に身を任せた。






「お?」

視界が回復する。まず目に見えたのは大きな大木。その周りにも草木が生い茂っていた。

上を見上げるとそこは天高く伸びる木に遮られ、日の光は葉の隙間からわずかに零れているだけだった。

そう。ここはまるで森。いや、まるでじゃなくて完璧に森だな。

上から降り注ぐ光から、空はかなり晴れていると思えた。

「おーい、怜那? どこいったんだ?」

立ち上がりその名を呼んでみる。だが返事は無く、風の音のみがこだました。

あたりを見回すが、木々のせいで遠くまでは見えない。

「ったく………何処いったんだよ。これじゃあ敵に見つかったとき俺死なねぇか?」

声に出してから自らの危険性を再度思い知り、そしてある言葉を思い出した。

ソレは初めて鏡の別天地に来たときの会話。


───ちっ、はずれね。どうしてこうも運が悪いものかしらね───


───着く場所ってランダムなんだな───


───そうよ───



つまり、つまり俺は。ランダムにここに飛ばされた、そして怜那もまたランダムに他の場所に飛ばされた。

それはそうか、だって2人で来たわけじゃないもんな。

バラバラになっても普通だよな。

…………どうするんだ、これ。

こんなもの例えてみれば、パーティーをろくに変更もせず、間違えて旅に出たRPGと同じことだろ!

しかも武器無し。できるコマンドは、守る、逃げる。

絶望的だ。なんであの時気づかなかったんだろう、というかその前に怜那、お前が気づけ!

これじゃあ連れて行くの意味が根源から間違っている。

3日、現実に戻れるまでの時間。そして魔鏡も探さないといけない。

なんということだ。………冒険レベルが1にも満たない俺がどうしろと?

都合よく武器なんて落ちてないだろう。つまりソレは宝箱も落ちてないってこと。ゲームの世界じゃないんだ。


ガサリ、と向こうの茂みが揺れたのを目でとらえた瞬間。銀色に囲まれた。

「は………?」

ガシャン、と音をたて、背中から鉄剣を引き抜く。

ソレは銀色の防具に身を纏った騎士のような集団だった。

赫逢騎士領団────?

なんだこれ、俺もう死んだのか?

そんなことを思いながら、現実に生きるであろう父と姉貴に今までの感謝の言葉を述べていると───。

「お前、『ムラサキ』か?」

ものすごく低いトーンでそう問われた。

「ムラサキ? なんだそ────れぇ!?」

鉄剣が首にあてられる。少し力を入れられれば首は間違いなく飛ぶだろう。

何か、俺は首に呪いでも持っているのだろうか。刃の当てられる回収が尋常じゃない。

「肯定か否定か。それだけを答えろ」

有無を言わせない迫力。威圧感。周りを囲む騎士たちからも感じ取られる。

「ち、ちがうっ」

「ふむ、嘘はついていないようだ」

騎士1号(勝手に命名)は鉄剣を俺の首から離し、背中へと収めた。

周りの騎士の警戒心も和らぎ、いつの間にか冷や汗で俺は濡れていた。

「悪かったな、大丈夫か? とりあえずここは危険だ。私たちについてくるとよい」

また、『危険』かよ………。

騎士1号は、背を向けて歩いていった。俺もとりあえずその後について行った。

木の根に足を取られながらもついていく。というかいったい何なんだこれは。

「あ、あの~」

「なんだ?」

返事をしてくれないかと思ったが、以外にも騎士1号は返してくれた。

「あなた達って…………赫逢騎士領団なんですか?」

赫逢騎士領団だったらついて行っても死亡のような気がする。見た目が騎士、だから赫逢騎士領団だという俺の安易な考えからの質問だった。

「違うな。あんな奴らと一緒にしてもらっては困る。私たちはリツカ帝国の兵隊だよ」

たしか………姫がその国を統治しているっていう……。

「抜けたぞ」

騎士1号の声に反応し、前を向くとそこには草原が広がっていた。

空は青く、雲ひとつも無い晴天だった。

時折吹く風が草原の草を撫でて、さぁっと音を奏でていた。

「アレが見えるか?」

騎士1号が指差す先には、城壁に囲まれたかなり大きな城がそびえ立っていた。

「城下町もあの城壁の中だ。少し歩くが、大丈夫か?」

「あ、……ああ」

この間ものすごく走ったせいか、息は少しも乱れていなかった。

それよりも武装した騎士たちの方がすごいような気もするが。






赤の絨毯に、高貴なシャンデリアや窓枠。それ以上に目の前の豪華なイスに座っている女の子の方が目を引いた。

年は俺とほとんど変わらないだろう。それなのに何故かものすごく優しさに満ち溢れているような気がする。普通この年頃だと、髪を茶髪に染めたり、カラオケに入り浸ったり、コンビニの前で溜まったり(これは悪い例の数々だが)しているものではないのだろうか。それに比べ目の前のこの女の子はもうなんというか触れてはいけない存在かのように神々しかった。

「ははは、そう固まるのも無理はないだろう。姫は美しいお方だからな」

騎士1号がそう言った。その通りだった。

怜那や莉瑚とは違った可愛さ、それよりも上の美しさ、だろうか。

腰まである長い青髪は艶があり、青のドレスとマッチしていた。

目は大きく吸い込まれそうなくらい綺麗で、睫毛も長かった。

「ごめんなさい。私たちが乱暴な真似をしてしまって」

そこを兵士、と言わずに私たち、というところがまた優れた人間だということが分かる。

見た目だけでなく中身もすばらしい。そして脳内で人知れず比較を繰り返す。

「あ、ああ、だ、いじょうぶです」

「つかぬことをお伺いしますが、あなたは何処の者なのですか?」

いきなりそう聞かれたので、息が詰まってしまった。

ここはどう答えるべきなのか。その前に俺は群青の雌鳥に属しているってことでいいのか?

なんか結局的に有耶無耶になってたような気がするんだが。

「お、俺は………ただの流れ者ですよ」

「まぁ、どこにも属していないというのですか? あなた、強いのですね」

どこをどうしたらそんな風に見えるのか。それとも今の会話で俺はなにかまずったか?

「え………と、どうしてそう思うのです?」

「だってあなた、流れ者って言うことはこの世界で一人で生き延びる力があるってことでしょう?」

そ、そういうことかよ。

「いや、俺は────」

「あなた、なんておっしゃるんですか?」

おっと、以外にもこの姫はスルースキルを身に付けているかもしれない。

「おれは、音城玲夜です」

「私は、リツカと申します」

イスに座ったまま、ふかぁーくお辞儀をしてくる。俺も慌てて頭を下げた。

なんて礼儀ただしいのだろうか。怜那はこれを見習うべきだろう。


唐突に扉が開け放たれた。

「ひ、姫っ! あいつが草原に現れました! ムラサキですっ!」

ところどころ武装が削がれた兵隊が息を切らせて入ってくる。

その場にいた俺以外の人間の顔が青ざめた。

「またあいつかっ………」

騎士1号が拳を強く握り締める。

様子から伺うにムラサキとやらはものすごく危険な奴らしい。

「玲夜………だったか、俺たちと来てくれ!」

騎士1号に強引に手を引かれ、引きずるように連れて行かれる。

「ちょちょ、俺マジ無理だって!」

そんな俺の声は場内のパニックにかき消された。






ムラサキ、と呼ばれるそいつは、名の通り紫一色で身を固めていた。

紫色のマントに身体は隠されていて、顔があるべき場所にはやはり紫の仮面がつけられていた。

その中でも目を引くのが紫色した大きな鎌であった。

まるで漫画にでも出でくるような死神が持った鎌である。

ソレを一振りするたびに空間がヴヴゥンと歪み、遅れて斬撃がやってくる。

鎌を振る速度が速すぎるのか、鎌を振った場所にあわせて紫色があとを引いている。

俺はそれの光景を遠巻きに見ていた。

兵士は全員接近戦で、ムラサキに詰め寄る。しかし、それは一歩後ずさり鎌を振るだけで、意味のないものとなる。ああいうタイプに接近戦は意味がない。範囲を決めてそれ以上踏み込まないようにしてあいつに攻撃を仕掛けないといけない。

「玲夜、どうするんだ」

騎士1号は焦りの混ざった声でそう訊いてくる。

とはいっても俺に出来ることはせいぜいアドバイスすることぐらいなんだが。

「遠距離攻撃のほうが奴にダメージを与えられると思う」

接近が駄目なら遠距離で、普通の思考回路だ。

「なにぃ………俺たちの国には砲弾なんてないぞ!」

マジか、そんな城俺は見たことがない。色々と不足しすぎな気がする。

「そんな……どうしようもないじゃん」



はっきり言って、俺にはなす術なんてなかった。












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