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9.かんざきさん


 ……あれ、ここどこだ。

 確か、西上さんが仕事を終わって、その後を付いていって……。

 あ! そうだ!

 僕は視線を上げて、少し離れたところにあるビルを見た。

 ……出てきた。

 間違いない、神崎さんだ。

 ここは夜の繁華街。西上さんは、もうおうちに帰っただろうか。

 西上さんの帰宅途中に、神崎さんを見かけたのは本当に偶然だった。

 僕は、何となく西上さんの近くに留まっているというだけで、別に傍にいなくても問題はない。

 だから、僕は神崎さんのことが知りたくて、その後をつけたんだ。

 あんまり褒められたことじゃないって、自分でも分かってるけどね。

 神崎さんはまっすぐにこの繁華街まで来て、とあるビルの中に入っていった。そして、今そこから出てきたところだ。

 彼は僕の存在を、何故か知覚できる。

 西上さんは僕のことを分かっているのか、分かっていない振りをしているのか、どちらか分からない。けれど僕は、何故か西上さんの傍は大丈夫だと、安全だと知っている。

 神崎さんは違う。

 彼に存在を認識されたときは、本当に怖かった。

 意識だけの存在にとっての恐怖は、意識が消されること。

 それしかない。

 それを感じさせたってことは、神崎さんは多分、簡単に僕の存在を消すことができるんだろう。

 意識しか持っていない存在のほうが、より本能というか、存在を存続させる意志が強い。

 だから、意識体は自分の存在が消えるような恐怖を抱かせるものには、基本的に近寄らないんだ。

 ……というより、「近寄れない」に近いかも知れない。

 事実、僕は神崎さんの傍に行けない。何かに阻まれているというわけではないんだけれども、行けないんだ。

 そういうわけで、僕はビルの外で神崎さんが出てくるのをじっと待っているしかなかった。

 ずいぶん長いことビルの中にいたけれども、神崎さんは一体何をしていたんだろう。

 僕がちょっとぼうっとして、眠ってしまうくらいには長い時間だったみたいだ。

 時刻はよく分からないけれども、西上さんと一緒にお店を出た時間には赤かった空が、今は見事に真っ暗。うん、結構経ってるみたい。

 街を歩いている人たちも……どうも堅気の雰囲気ではない人が混ざっている。もう、そんな時間なんだ。

 けれど、そういう時間帯にこの辺を出歩くなんて、何だかエリートっぽい神崎さんらしくない。

 というより、似合わない。

 そんな神崎さんの様子に、いつもと何か変わったところは見当たらない。

 常のように余裕たっぷりに、街を颯爽と歩いていく。

 神崎さんの前の方から、かなりガラの悪そうなお兄さんと、派手な格好をしたお姉さんが歩いてくる。

 当たり前だけど、何かが起こるわけもなくそのまま彼らはそのまますれ違う。

 ――と思ったら、お兄さんが唐突に倒れた。

「ど、どうしたの、ねえ」

 お姉さんが動揺して、倒れた男の人に縋る。

 ……神崎さんは振り返るでもなく、早足でその場を後にする――。

 って、その手にあるのは、もしかしなくても魂?

 青白い光を放つ塊を、神崎さんは胸元から取り出した、携帯電話みたいな機械の上にかざす。

 魂と機械の間に妙な方陣が描かれ、一瞬フラッシュを焚いたみたいに強く光ったと思うと、魂が機械の中に吸い込まれていくのが見えた。

 救急車の音が遠くに聞こえる。きっとお姉さんが電話を掛けたんだ。

 僕は立ち去る神崎さんの後を追うことができなかった。意識がそこから先へ行くことを拒んでいる。

 ……神崎さんは、死神なんだろうか?



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