8.西上2
まさかこんな風に事態が動くだなんて、予想していなかった。
彼は――神崎佳瑛は、何を考えているんだ。
片山さんに、何をしようとしているんだ。
全く分からない。
……いや、分かりたくないというのが正しいか。
長いこと死神をやってはいるが、ここまでえげつない方法を垣間見たのは初めてだった。
こんな手法を採る奴の心など、考えたくもない。
しかしこれも仕事だ。そうも言っていられなかった。
俺が知っている神埼の個人情報といえば、外見年齢二十九歳の、とある大手レンタルDVDショップを運営する企業のエリアマネージャーだということぐらい。
だが正直に言うと、いくら仕事だとはいえ、もう彼には関わりたくないというのが本音だった。
当初の予定では静観を決め込み、事が起こってから動こうと思っていたのだが――どうやらそうも言っていられなくなったらしい。
因果な商売だと思う。
けれど、実際に俺が動き出せば、神崎は手出しを許さないだろう。
この間のあいつに対するあの対応は、言わば脅しだ。
こちらの動揺を誘いつつ、要らぬ警戒心を呼び覚ます。見事な脅迫だといっていい。
……フォローは見込めないわ、味方は何の知識もない魂一つだわ、相手は何だかやけに強いわ……俺は仕事に精を出すよりもまず、地域の労働局に駆け込んで自身の状況をつぶさに伝えることが先のように思われた。しないけど。
はあ、平和な時代の死神業が懐かしい。あの頃はまだ一つの魂を追っていればそれでよかったんだ。死神もたくさんいたし、食うにも困らなかったし。
……ダメだ、昔のことを思い出すと、余計なことまで思い返しそうだ。
思考を戻す。神崎だ。
彼はこのまま行くと、自分の思うがままにことを進め、見事本懐を遂げてしまうだろう。
そうはさせない。というより、許してはならない。もし「それ」が真実なら、彼の行っていることは、天の規定に反することだ。
情けないことだが、今の俺に出来ることといえば、見守ることと――、もしものときに備えることくらいだろう。
それくらいしか出来ないことが悔しいが、仕方あるまい。
それも、仕事のうちなのだから――。