5.西上1
死神という仕事が儲からなくなってきたのは、世界大戦の辺りからだ。
人間が大量に人間を殺す術を見出してしまってから、死神の業界でも「一気に魂を回収する方法」が確立された。そうしないと、多くの魂が正規のルートを外れてしまうことになるからだ。
数万もの魂を一気に集めるなんて、組織立って死神やってるとこにしかできない芸当だ。
だから、俺みたいな代々自営業で死神続けてきた奴なんかは、それ以降の組織化の波に飲まれて、めっきり仕事が減ってしまった。
その上、安価な労働力に仕事を奪われて、同じくらいの安さじゃないと仕事すら貰えないという状況だ。踏んだり蹴ったりとは正にこのこと。
人間の世界のことだと無関心になったりせずに、生物兵器やマンハッタン計画を潰しておけばよかったと、今後悔しても遅い。
……それでも、俺はもう暫く死神を続けるだろう。全く稼ぎにならなくても、人間に最後の引導を渡し、天へ魂を還し続けるだろう。
それが自分の仕事だと信じているし、まだ続けなきゃいけないと、強迫観念にも似た何かをこの仕事に対して感じているから。
しかしまあ、最近引っ付いてきているあの魂。
結構好き勝手にぶつぶつ喋っているが、全部聞こえているんだからな。
反応しない=聞こえていないだとでも思っているんだろうかあいつ。
それにあいつは、……俺が間違っていなければ昔の知り合いだ。ただ、自分が何者であったかをすっぽり忘れているらしいから、今話しかけるのは得策じゃないと踏んでいる。
それに、今は別件の仕事中だ。そんな状況で何もない空中に向かって話しかけているところを誰かに見られでもしたらと考えると……自分を異様な存在だと周囲に知らしめることになる。それは仕事を進める上で、避けなければいけないことだった。
自分が誰だったか、あいつが思い出せればいいんだが。まあいい。
とりあえず仕事を進めよう。
今俺に出来ることは、それだけなのだから。