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4.かいこう


 西上さんの生活は不規則だった。

 週五回レンタルショップの早番と遅番を繰り返して、更に遅番明けすぐに魂を貰いに街へ繰り出したりと、かなり忙しそうだった。ものすごい薄給だったけど。

 給料明細見たとき、存在しない涙腺が緩みそうになったもん、僕。

 何でこんなにお金貰えないのに、西上さんは死神を続けているんだろう。これならフルでバイトに入っていたほうがよっぽどマシな生活を送れるのに。

 ずっと疑問に思っていたけれども、もちろん西上さんから答えは返ってこない。

 ちなみに今日は、早番の日だ。

 西上さんはいつものように、深夜遅くまで魂の回収に駆けずり回っていたから、余り寝ていない。

 辛そうだけど、そこそこ手つきが危なくないのがすごいと思う。

 そして、今のところの僕の最大の疑問は、西上さんが向ける視線の意味だ。

 彼は仕事中、ほとんどと言っていいほど、片山さん――西上さんの直属の上司で、このレンタルショップでは店長の次に偉い人だ――をじいっと見ているのだ。穴が開きそうなほど。

 西上さんは前髪が長い。だから、実際の眼光が、実は結構鋭いということが分からない。

 この間、たまたまお風呂上りの西上さんを見たんだけれども、まなじりがすっと通ってて、目元がとても爽やかだった。何で普段からちゃんと見せないんだろう、と不思議に思った。

 でも、今みたいにかなりの頻度で誰かを見つめるには、視線を覆ってしまうのはかなり有効な手段なのかもしれない。分かり難い視線は、見られている側を少しばかり鈍感にする。というより意識させないことができるんだ。

 ……でも、それをやって西上さんに何の得があるのかといえば、全然分からない。だって、もし片山さんに恋してるなら、相手に自分のことを意識してもらうのが第一歩でしょう? わざわざ隠してどうするんだろう。

 とにかく、西上さんは片山さんをずっと見ている。何か特別な感情があるんじゃないかと、誰もが誤解するくらいには。




 がっちゃーん、と派手な音がお店の中に響いた。

「……いた」

 冷たい怒気を孕んだ片山さんの声がする。

 周囲には散らばった数十タイトルのDVDのケース。

 ぶつかったのは余所見をしていた西上さん。

 ……なんていうか、普段は澄ました顔をしているのに、時々狙い過たず美味しいことをするよね、西上さん。期待を裏切らないって言うかさ。

 僕、絶対いつかやるって信じてたもん、こういうミス。

「だ、大丈夫ですか」

 西上さんが恐る恐るという感じで立ち上がって、片山さんに手を差しのべる。

 片山さんはかなり怒っているのか、「結構です」ときつく言うと、西上さんの手を払って立ち上がった。

 脈無しっていうか、これ確実に嫌われてる部類に入る反応だね。

 冷めた視線を西上さんに注ぐと、片山さんは低い感情のこもらない声で告げた。

「それ片付けたら、スタッフルームに来て」

「……はい」

 西上さんの元気のない返事を確認すると、片山さんは足音高くその場を後にする。

 溜め息を一つ吐くと、西上さんは散らばったDVDケースを拾い始めた。




 西上さんは青い顔をしてスタッフルームから出てきた。時間は既に午後七時。上がりの時間から一時間も経過している。

 一時間こってり絞られて、そうまでして片山さんと一緒に居たい……わけじゃないね。怒られて情けないなー、って空気が西上さんの全身から発せられてる。

 うんうん、好きな子に自分の格好悪いところばっかり見せちゃうって、男としてはかなり辛いよね。お疲れさま、西上さん。って、こういう労いすら届かないっていうのは若干僕もしんどいな。

 ん? 誰だろうあれ、見たことない顔だな。

 でもスーツを着たその男性は、まっすぐにスタッフルームに向かってくる。つまりは、部屋を出たばかりの西上さんの方へだ。

 会社の関係者なのかな。

 ……っていうか! すっごいイケメンだ! アイドル? 俳優? むしろモデル? ってくらいイケメンだ。

 顔の左右のバランスは整ってるし、日本人にしては鼻が高いし。切れ長の目元には、男が感じちゃいけないような色気も漂っている。

 イケメンは躊躇することなく、片山さんがいるであろうスタッフルームに向かう。

 途中、西上さんとすれ違った。

 イケメンは西上さんに軽く会釈する。西上さんも、戸惑いながらも軽く会釈を返した。

 すれ違った後、イケメンは薄く笑った。

 ……なんで笑ったんだろう?

 イケメンがスタッフルームの扉をノックした。中から「どうぞ」という片山さんの声が聞こえる。

 ……西上さん、目ぇかっぴらいてどうしたの。

 イケメンはもうスタッフルームの中に消えたけど、西上さんは扉のほうをすごい勢いで振り返って、じっと見つめた。

 ? イケメンの格好良さに、危機感を抱いたとか?

 他のバイトさんたちもそう思ったのか、イケメンの消えたスタッフルームと、それを凝視して動かない西上さんを交互に見ている。

 ……お客さんいなくて、よかったね。




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