22.けつだん
一方的とまではいかないけれど、神崎さんのほうが戦いには向いているらしかった。
戦いに慣れているのか、西上さんとの距離を詰めたり逆に離れたりする動きに無駄がない。
おまけに西上さんの使う大振りの鎌は狭い病院の廊下で振り回すには窮屈で、そういう意味でも小回りの効く神崎さんのほうが、動きで西上さんを圧倒していた。
もう一つ余計な情報を付け加えると。
「……ずいぶん古いのを使っているんだな。何年前のものだ?」
「そうですねえ……軽く一世紀ほど前のものですけど。それが?」
神崎さんは西上さんの回答を鼻で笑った。
「道理で、力の流れの効率が悪いわけだ」
「……最新式持ってるからって、いい気にならないでください」
「そうかな? けれど、武器の性能もあって押されていることは、君自身よく分かっているでしょう」
神崎さんの持つ剣は、どうやら新しいものらしい。技術は新しいのに、闘う手段が肉弾戦っていうのも、何だか不思議な感じ。
鎌の柄と、剣の刃が絡み合い、離れる。
ぶつかる瞬間には、恐らくそれが「力」なのだろう、青かったり赤かったりする光が飛び散る。
西上さんの顔には、珍しく表情が現れていた。しかも浮かべるのもこれまた珍しい表情だ。必死だ。というより、余裕がない。
二人の戦いを見ている僕にも、西上さんに余裕がないのは分かった。表情からだけじゃなくて、動きや戦い方を見ていて、そう感じた。
このまま西上さんが負ければ、二人の会話を聞いて想像するとおりだとすると――片山さんの魂を、神崎さんが狩ってしまうということなるんだと思う。そしてそれは恐らく、天の予定にない狩りだ。片山さんは極めて自然に「殺される」ことになる。
西上さんは、それを阻止しようとしている。でも、神崎さんが思いのほか強くて、このままだと上手く阻止できるかどうか、非常に怪しい。
今も、西上さんは死に物狂いで神崎さんの攻撃を受け流し、弾いている。けれど、いつまで持つのか……想像に難くない。
僕の予想はあっさりと的中する。
神崎さんの剣が、西上さんの鎌を弾き飛ばす。
多分神崎さんは、鎌を弾く場所も測っていたんだろう。西上さんの背中にあるのは、緊急処置室の扉だ。
戦闘をしていたとは思えないほど穏やかな笑みで、神崎さんは剣を西上さんの胸元へ向ける。
「大人しく見ている分には、生かそうと思っていた……もうその選択はできないが、ね」
神崎さんの背中が寒くなるような笑顔と同じように、西上さんの表情も何故か静かだった。今にも殺されそうなのに、どうしてあんなに泰然としているんだろう。さっき闘っていたときよりも、追い詰められている今のほうが、むしろ落ち着いているってどういうこと? 分からない。
でも、剣の切っ先はしっかりと西上さんの心臓に――魂に向けられている。狩ろうと思えば、今すぐに狩れる距離だ。
ふ、と神崎さんの剣先が西上さんの魂から逸れる。
別に深く考えていたわけでも、急に大きな決意ができたわけでもないんだけれど、とにかく僕は神崎さんと西上さんの間に割り込んでいた。
神崎さんの剣に自分の意識をくぐらせる。これで一応「切った」ことになって、僕は神崎さんに「狩られた」ことになる。
痛みや苦痛は全くない。けれど、一回誰かに「狩られた」魂は、やっぱり行き着く結末があるわけで。
神崎さんの驚いた表情と、西上さんの呆気に取られた顔。
それら二つを見ながら、僕は二回目の「死」を経験していた。