21.そうたい
片山さんを乗せた担架が、処置室の中に消えていく。
神崎さんと西上さんが扉の手前で立ち止まる。やがて大きい音と共に、両開きの扉がゆっくりと閉まっていく。
閉まった扉に、神崎さんが手を当てる。何かを察したのか、西上さんは神崎さんのその手を扉から引き離した。
「……離してくれないか」
低く冷たい神崎さんの声が、天使の本領を以って発せられる。空気の威圧感が恐ろしい。僕は怖くて逃げ出したくなったけれど、西上さんはそのプレッシャーを正面から受けきる。
「『二十六歳になったら魂を貰い受ける』……いつの契約か知らないけれど、調べた限りでは紀元前から履行されているんですね」
「何が言いたい」
神崎さんの表情が歪む。顔のいい人が怒ると綺麗だって言うけれど、天使の怒りはこれほどに背筋が凍るものなのかと、妙な経験をしてしまう。
「……古い契約で、片山さんを縛るな」
「縛る? いつまでも清らかでいたいと願った娘の、祈りを叶えていることのどこが束縛なんだ? 敢えて言うなら、縛られているのは僕のほうだ」
神崎さんが西上さんにとられていた手を振り払う。西上さんの表情は静かだけれど、対する神崎さんは怒りを隠さない。
「君らの約束は――異端だ。天に反していると、見做される行為だ」
西上さんが厳かに告げる。
「……死神風情に判断される謂れはないな」
いつの間にか、周囲に人影が見えなくなった。二人のいる病院の処置室前の廊下が、別の空間に置き換わっていく。
意識体である僕は、その変化を如実に感じていた。
神崎さんの手には一振りの剣。対する西上さんの手には、黒い大振りの鎌。
二人の圧倒的な威圧感が、異空間を満たす。
「怪我をしたくなければ、早く退くことです」
「……聞けません」
更にぴりぴりとした空気が、二人の間に充満する。
それを僕は、じっと見ているしかなかった。