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20.西上4


 片山さんが倒れたとき、こうなる前に事態をもっとよい方向に向けることが出来たんじゃないかと一瞬後悔した。

 けれど、それは本当に瞬間的なもので、すぐに頭を切り替える。

 神崎さんが片山さんに駆け寄って、介抱を始める。それが、更に片山さんを苦しめることになると知っていたから、俺はどうするべきなのか迷った。

「救急車を呼びます! 彼女をよろしくお願いします」

 神崎さんがぼうっとしていた俺に対して叫ぶ。厳しい目をした神崎さんがこちらを見ていた。慌てて片山さんの傍に駆け寄り、彼女の身体を床に横たえる。青い顔に生気が見られず、彼女の魂の命数が尽きようとしているのが分かる。

 ああ、俺には何かできることはなかったのか。彼女がこうなってしまう前に。

 少ないけれど、手を握って彼女に少しだけ生気を送る。……これで多少持ちこたえれくれれば、と思う。

 神崎さんが片山さんの傍に居る限り、具体的な手出しをすることができない。

「救急車、あと五分くらいでくるそうです」

 神崎さんが僕に向かって呼びかける。僕は頷きながら、神崎さんのために場所を空ける。僕が片山さんにあげた生気が、見る見るうちに神崎さんに持っていかれる。けれど、やはり無いよりはマシだったみたいで、彼女の魂が一定の光を放っている。

 さすがに店舗の前では音がなくなったが、救急車のサイレンが鳴り響き、救急隊員が担架を持って店の中に入ってくる。

 神崎さんが当然のように片山さんの担架についていくのを見て、自然と自分の身体も動く。もう仕事は終わっているから、誰にも何の支障もない。

「西上さん頑張って!」

 小さな声で松本さんが呟くのが聞こえた。振り返れば、まだシフトに入っている社員やバイトが、俺に手を振ってくる。何を頑張れというんだろう。片山さんを助けるのを頑張れ、ということだろうか。

 俺が担架に付いていくのを、神崎さんは渋い顔をして見ていたが、何も言わなかった。

 神崎さんの表情が怖い。けれど、彼女にこれ以上何かするのを、黙って見てなどいられなかった。

 救急車に乗り込めば、再びサイレンの音が辺りを包む。

 片山さんの寝顔が、その場に相応しくないほど静かで、まるで祈りのようだと、遠く思った。




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