12.神崎1
もう幾度目になるのだろう。
かの魂と――かつて「彼女」だった魂と、再会するのは。
数えるのすら億劫になるような、長い長い時間の向こうで、僕と彼女は約束をした。他愛もない口約束だったけれど、僕はそれを破るつもりなど欠片もなかった。
そして、守り続けた。ずっと、ずっとだ。
「彼女」の魂は、他のそれと比べると、非常に無垢な色をしている。思わず触れるのを躊躇ってしまうような、白に近い青。
「彼女」に触れるのは――触れていいのは、僕だけだ。僕だけが「彼女」を知り、「彼女」の無垢さを守っているんだ。
自分のこの思考が異端になるのではないかと、幾度も考えた。天に――神に背く所業なのではないかと。
けれど、口を噤むことで、恐ろしいことに今までずっと許されてきた。そしてこれからも許され続けるだろう。
この罪を、誰かに告白しようなどとは毛ほども思わない。「彼女」と僕以外に、この事実を伝える気などない。
そして永遠に、「彼女」と僕は共に在る。「彼女」と僕を結ぶ約束が、それを可能にしてくれる。
「彼女」を永久に僕のものにできる……約束を果たした後は、いつも心地よい感情が、僕を満たす。この心地よさを快楽と名付けるなら、地に堕ちたサリエル様はこの気持ちをご存知だったのだろうか。今となっては、聞くことすらできないけれど。
僕には堕天する気概も根性もない。だからきっと、このまま真面目な天使として仕事を続けるのだろう。
けれどどうか、「彼女」との約束だけは、取り上げないでほしいと天に希う。
「彼女」との約束は、自分が何のために生きているのかを、少しばかり忘れさせてくれる。
約束を果たした瞬間だけ、僕は思考のほとんどを放棄する。考えるのはただ「彼女」のことだけ。それがどれだけ、どれだけ心地いいか。僕は「彼女」との約束を二回目に果たしたときに初めて知った。
誰かが自分のものになる感覚――誰かの願いを、叶える感覚。
そのときだけ僕は、「彼女」の主人になったと錯覚する。
もちろん、錯覚だから空しい。けれど、「彼女」との約束を果たし続けることによって、空しさは薄れていく。また「次」があるから。
片山園生、今の「彼女」。
変わらない魂の形を、今に現す存在。
彼女にも「彼女」として、僕は約束を果たす。
誰に阻まれようと、僕はそれを遂げるだろう。
僕と「彼女」の結んだ約束は古く――そして今も新しい絆、なのだから。