10.片山1
片山園生、二十六歳、独身。
彼氏いない歴……三年と少し。
大学生のときに付き合っていた人とは、就職をきっかけに疎遠になってしまった。
そうして今、仕事を中心に生活をしている私がいる。
気が強い、とよく言われる。
大体において譲ったほうがいい場面でも、自分の主張を通す。正しいと思っているから。
そして、相手もそれをどこかで分かってくれているから、最終的には私の意見に頷いてくれる。
けれど、こと付き合うとなると、私に張り合うくらいの正当性を持った意見を出してくれる人なんて、そういない。
それか、相手の意見に筋が通っていないことが多い。そうなってくると、相手の曲がった理屈に、こちらが付き合いきれなくなってくる。
……冷たい? そうかもね。妥協しないし。
でも、私は立ち止まりたくなんかないの。ずっと、進み続けたい。前に向かって生きていきたい。
少しでもその場で足踏みするなんて耐えられない。
もっと簡潔に言うと、付き合っている相手のことだけ考えているような人生なんて、私には想像が付かないっていうこと。
本当に、冷酷な人間だって思う。
唯一フォローできる部分があるとすれば、仕事がとても順調だってことくらいかしら。
バイトの子達はよく働いてくれるし、店長もとても気前のいい性格をしている。
やりたいことをやっても怒られない――というより、逆に応援すらしてくれる。
本当に恵まれた職場だと思う。
少し前には若干気がかりだった西上君も、最近は笑顔も増えてきて、いい感じの接客ができている。
彼を入れてよかったと思う。直で面接したのは、私だったから。
最初の頃は結構ミスもしていたし、その後も凡ミスがなかなか減らなかったけれど……見込みどおり、西上君は頑張れば、とてもよい働きが出来るのだ。
彼の頑張りと成長を嬉しく思う。
欲を言えば、もう2㎝ほど前髪を切ってほしいのだけれども。
神崎佳瑛さん……うちの区を担当しているマネージャーさんは、とてもかっこいい。
容姿だけじゃなく、きちんと仕事もできる人だ。
初めて会ったときに、何故か胸が高鳴った。
私は少しだけ心臓が弱い。だから、何か妙な病気にでも罹患したのかと、彼に会ったあと病院で検査してもらった。何の異常も見つからなかったけれど。
親しい友人は、「それはきっと恋ねえ」なんて言うけれど、私にはいまいち自覚がなかった。
彼に会えば、何故か鼓動が不規則になる。
普段人と会うときに緊張なんてしないのに、神崎さんに笑いかけられるたびに手に汗をかく。
……病気よね、確実に。
恋愛ってこういうものなのかしら。
何か違うような気もする。
だから、というわけでもないけれど、私は彼に対して極力自分を作って接していた。
本当の自分を見せて、どう思われるか考えたくなかった――というより、恋愛そのものを考えるのが億劫だった。
干物? 結構結構。仕事で干されるよりはマシよ。
周囲には神崎さんと私が付き合っているなんて噂が流れているけれど、実際には艶っぽい展開なんて、私と彼の間には一つも存在していなかった。
はずだった。
「食事でも一緒にどうかな?」
なんて、誘われる前、までは。