"花火"
毎晩深夜0時を回ると短時間、此の躰は制御を喪ってしまう
元々は僕の肉躰では無かったからなのかも知れない
こう書くと僕が『肉躰を取っ替え引っ替えして居る人間』みたいに思う人も居るかも知れないが、僕が脳交換を行ったのは生涯で一度だけだ
対象は好きになった人間の男の子で、彼は交換後に死亡してしまった
死因は脳を廃棄された事による脳死
即ち、考えように依っては彼は『生きて居る』とも言えた
何しろ僕が、まだ此の躰を使って生活して居る
話を戻そう
何れにしても1日に1度、確実に僕は肉躰の制御を『誰かに奪われる』
前例の無い出来事であり、解決出来る技術者は居ないと云う事だった
ただ、其れは『技術者』に限っての事だ
使用人に毎夜監視させた結果、僕は既に手掛かりを掴み始めて居た
今夜も0時が訪れた
一階の広間で、柱時計が鳴って居る音がする
僕の躰はベッドの上で上躰を起こし、やがて素足のままに床へと降り立った
幸運な事に僕の意識は、此の夢遊の状態でも保たれて居る
今から始まる楽しい時間を、余さず視る事が赦された様だった
両足が寝室の窓辺に向かう
幾多の報告から、僕の躰が毎夜窓の外を眺めると云う事は知って居た
実は理由については、直ぐ思い当たった
脳髄を破棄されて死んだ、此の躰の主で在った少年の生まれ育った家が窓の外、遠くの方角にぽつんとだが視えるのだ
つまり家は、豆粒よりも小さくしか視る事が出来ない
其の為、今日の日の『演出』はとても気を使い、手間と予算を大きく費やしたものに成って居た
ぽつ、ぽつ、と
真夜中の昏い空に灯りが点っていく
実際には或る一点だけが燃え盛り、大きな火柱が天を焦がさんばかりに暴れて居るのだ
少年の生家だった
『あ……』と、変声前の喉が悲痛な音を立てる
一拍だけ間を置いて音は喚き散らす悲鳴へと変わり、視界は窓へと迫った
───やっぱりだ
僕は云う事を聞かない肉躰の動き回る様を、演劇でも観る様に鑑賞しながら、自らの予測の正しさについて考えて居た
やはり此の夢遊状態は、元の躰の持ち主の意識の残滓が引き起こして居たのだ
意味を結ばない嗚咽や言葉が、濁った大きな声で喉から溢れ返って声帯を震わせて居るのが、感覚として解る
此の躰は、遂に立って居る事も出来なくなり崩折れると、視界いっぱいに広がる床の敷物を、激しい感情と共に叩き始めた
段々と状況に慣れるにつれ、僕は早くも白け始めて居た
彼の家族は生け捕りにしてある
明日からどうやって其れで遊ぶかを、僕は静かに考え始めた




