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追放された補助役は、辺境でスローライフを始めました 〜役に立たないと言われた俺の仕事が、村と世界を支えていた件〜  作者: 山奥たける


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8/15

幕間 失われたものの重さ

 赤い炎が、洞窟の天井を焦がした。


「まだだ、押し切れ!」


 ガルドの号令に、セシリアが歯を食いしばって詠唱を続ける。

 魔力の流れが乱れているのは、誰の目にも明らかだった。


「……っ、待って! 一度、引いた方が――」


 バルドの声は、爆音にかき消される。


 次の瞬間、炎が不自然に揺らぎ、逆流した。


「セシリア!」


 遅かった。


 魔法は暴発し、洞窟の一部が崩落する。

 辛うじて致命傷は免れたが、セシリアはその場に膝をついた。


「……動け、ない」


 魔力枯渇。

 それだけではない。回路が焼け、回復には時間がかかる状態だった。


「くそ……っ!」


 ガルドは舌打ちする。


 以前なら、ここで“止める声”があった。

 魔力配分を見て、

 進軍を抑え、

 撤退を進言する声が。


 だが今は――ない。


「戻るぞ!」


 撤退は成功した。

 だが、それは「判断が遅れた後」だった。


 王都に戻ったその日、ギルドから正式な通達が届く。


Aランク降格。

 当面の高難度依頼停止。


 受付のミレイは、感情を交えず淡々と告げた。


「最近、事故報告が多すぎます。

 安全管理能力に疑義が出ています」


「ふざけるな!」


 ガルドが声を荒げる。


「今まで、問題なかった!」


 ミレイは一瞬だけ、書類から顔を上げた。


「……“今まで”は、です」


 その言葉が、胸に突き刺さる。


 診療所では、リーナがセシリアの状態を確認していた。


「無理をしすぎました。

 しばらく、大きな魔法は使えません」


「そんな……」


 セシリアの声は、震えていた。


「私が、火力を出さなきゃ……」


 リーナは、静かに首を振る。


「一人で背負うものじゃ、ありません」


 その言葉に、ガルドが苛立ちを隠せず言った。


「じゃあ、どうしろって言うんだ」


 リーナは、少しだけ間を置いてから答えた。


「……以前は、“整える人”がいました」


 空気が、凍りつく。


 誰も名前を出さない。

 だが、全員が同じ人物を思い浮かべていた。


「……あいつは、戦えなかった」


 ガルドは、自分に言い聞かせるように言う。


「だが――」


 言葉が、続かなかった。


 その夜、ガルドは一人、酒場で杯を重ねていた。


 討伐数。

 名声。

 肩書き。


 それらを維持していた“土台”が、

 自分の足元から消えていたことに、

 ようやく気づいたのだ。


「……戻ってきてくれ、とは」


 口に出してから、苦笑する。


 言えるはずがない。

 自分で、追い出したのだから。


 一方その頃。


 辺境の小さな村では、

 焚き火のそばで、子どもの笑い声がしていた。


 同じ時間。

 同じ世界。


 だが、価値は――

 すでに、完全に逆転していた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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