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追放された補助役は、辺境でスローライフを始めました 〜役に立たないと言われた俺の仕事が、村と世界を支えていた件〜  作者: 山奥たける


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第6話 視察という名の、試験

 馬の蹄の音が止まり、村に静寂が戻った。


 いや――正確には、張り詰めた空気が残ったままだ。


 丘の上に立つ三人の騎士。

 胸元には、この一帯を治める領主家の紋章が刻まれている。


「この村の代表は誰だ」


 先頭の男が、低い声で問いかけた。


 周囲にいた村人たちが、無意識にカイルを見る。

 エルバも、農民たちも、言葉を発さず、ただ視線で示した。


 カイルは一歩前に出た。


「代表というほどのものじゃない。ただ、ここに最初に住み始めただけだ」


「ほう」


 男は興味深そうに眉を上げた。


「私は領主代行、ロベルトだ。

 この村について、いくつか噂を聞いてな」


 ロベルトは馬を降り、周囲を見渡す。


 整えられた畑。

 無理のない配置の家屋。

 水場の管理。


「廃村だったと聞いているが……ずいぶん、手が入っている」


「生きるなら、必要なことをしただけだ」


 カイルの答えは、いつも通り簡潔だった。


 ロベルトは顎に手を当てる。


「魔物の被害が出ていないという報告もある。

 兵を置かずに、だ」


「戦わなくて済むようにしている」


 その言葉に、騎士の一人が鼻で笑った。


「理想論だな。魔物は避けては通れん」


 カイルは反論しなかった。

 代わりに、村の外れを指差す。


「あの林、風向きと地形の関係で、魔物が好まない。

 夜間は、泉の魔力を弱く流している」


 ロベルトの視線が、鋭くなる。


「……それで、自然に遠ざけていると?」


「結果としては、そうなる」


 一瞬の沈黙。


 それからロベルトは、静かに笑った。


「面白い」


 彼は周囲の騎士に命じる。


「村を見て回る。

 住人の話も聞く」


 視察は、半日以上に及んだ。


 エルバは足のことを説明し、

 農民たちは畑の分担について語り、

 ミアは――少し緊張しながらも、正直に言った。


「ここ、ちゃんと……生きていけます」


 その一言が、決定打だった。


 夕方、ロベルトは再びカイルの前に立つ。


「この村を、どうするつもりだ」


「どうもしない」


 即答だった。


「住みたい者が住み、

 働ける者が働く。

 それだけだ」


 ロベルトは、しばらくカイルを見つめていたが、やがて息を吐いた。


「……我々は、この村を“黙認”する」


 村人たちが、ざわめく。


「正式な開拓村として認めるには、人口も実績も足りん。

 だが――」


 ロベルトは、言葉を区切った。


「排除する理由も、ない」


 それは、最大限の譲歩だった。


「税の徴収は、当面免除する。

 代わりに、問題が起きた場合は即時報告。

 いいな?」


 カイルは、静かに頷いた。


「十分だ」


 ロベルトは馬に跨がり、最後に一言だけ残す。


「お前は……冒険者か?」


「元、だ」


「そうか」


 彼は、わずかに口元を緩めた。


「なら覚えておけ。

 国は、戦える者より――

 “壊れない場所を作れる者”を、失いたくない」


 騎士たちは去っていった。


 村に、ようやく安堵の空気が戻る。


「……大丈夫、だったのか?」


 エルバが恐る恐る聞く。


「ああ」


 カイルは短く答えた。


「ここは、もう“消される場所”じゃない」


 その夜、焚き火はいつもより明るかった。


 誰も声高に喜ばない。

 だが、それぞれが確かな手応えを感じていた。


 カイルは火を見つめながら、静かに思う。


(守るものが、できたな)


 追放された補助役のスローライフは、

 ついに――

 世界に「居場所」として認められ始めていた。

いつもご覧いただきありがとうございます。


次の投稿からは、1日1回の更新になります。


ブックマークをして、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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