幕間 残された場所で
診療所の扉が、乱暴に開いた。
「リーナ! 治癒を――急げ!」
叫び声に、彼女は反射的に立ち上がる。
担ぎ込まれたのは、見覚えのある顔だった。
「……バルドさん?」
重装の戦士は、青い顔で担架に横たえられている。
胸当ての下、呼吸が浅い。
「魔力逆流です。無理な連戦を……?」
「細かいことはいい! 治せるんだろ!」
怒鳴ったのは、剣士のガルドだった。
リーナは何も言わず、治癒魔法を展開する。
だが――いつもより、回復が遅い。
(……おかしい)
表面の傷は塞がる。
だが、内部の負荷が抜けない。
「魔力の流れが……絡まっている」
「何だそれは」
ガルドが苛立った声を上げる。
「前は、こんなこと――」
そこで、リーナは言葉を止めた。
前は。
前は、必ず「整って」いた。
無理をしても、致命的な崩れ方はしなかった。
(……カイルさん)
彼の顔が、自然と思い浮かぶ。
魔力の配分。
休憩のタイミング。
進軍速度。
誰も意識しないところで、彼はずっと調整していた。
「……応急処置はできます。でも」
リーナは、はっきりと言った。
「このまま同じやり方を続ければ、次は命に関わります」
部屋が静まり返る。
「ふざけるな」
最初に声を荒げたのは、セシリアだった。
「今まで問題なかったじゃない!」
「……今までは、です」
リーナは視線を逸らさず答えた。
「今は、違います」
その場に、重たい沈黙が落ちた。
数日後。
診療所に来る冒険者の数が、明らかに増えた。
軽傷ではない者も多い。
「最近、事故が多いな」
受付のミレイが、書類を見ながら呟く。
「補助役が抜けたパーティが、いくつも……」
その言葉に、リーナの手が止まる。
診療台の端に座り、深く息を吐いた。
(……やっぱり)
彼女は、分かっていた。
カイルが「役に立たなかった」のではない。
役に立っていることに、誰も気づかなかっただけだ。
夜、診療所の片付けを終え、外に出る。
王都の灯りは、相変わらず明るい。
けれど――
(ここは、もう……)
彼がいた場所ではない。
ふと、カイルに渡した地図のことを思い出す。
あの廃村。
ちゃんと、生きているだろうか。
「……きっと、大丈夫」
根拠はない。
でも、不思議とそう思えた。
彼は、支える人だ。
評価されなくても、必要とされなくても。
だから――
今度は、正しい場所にいるはずだ。
リーナは夜空を見上げ、静かに願った。
(どうか……あなたが、あなたらしくいられますように)
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