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追放された補助役は、辺境でスローライフを始めました 〜役に立たないと言われた俺の仕事が、村と世界を支えていた件〜  作者: 山奥たける


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第4話 住んでもいいですか、と聞かれた日

 朝霧が、村を包んでいた。


 カイルは井戸代わりに使っている泉で水を汲み、家へ戻る途中だった。

 湿った空気と、土の匂い。

 この時間帯は、嫌いではない。


 そのとき――


「……すみません」


 かすれた声が、霧の向こうから聞こえた。


 反射的に足を止める。

 手は自然と腰の剣に伸びたが、抜くことはしなかった。


 霧が薄れ、人影が現れる。


 痩せた中年の男と、その後ろに小さな少女。

 男は片足を引きずり、顔色も悪い。


「ここに……人が住んでいると、聞いて」


 行商人のドランだろう。

 彼が噂を広めたに違いない。


「俺はカイルだ。……用件は?」


 男は一瞬ためらい、それから深く頭を下げた。


「この村に、住ませてもらえませんか」


 率直な言葉だった。


 事情を聞くと、男――エルバは元々、近隣の村で木工をしていた職人だった。

 だが数年前、魔物に襲われ、足に深い傷を負った。


「もう、前みたいには動けません」


 村では「役に立たない」と言われ、仕事も減り、

 最終的には居場所を失った。


 聞き覚えのある言葉だった。


 カイルは、男の足を見る。


「……診てもいいか?」


 エルバは驚いたように目を見開いたが、頷いた。


 傷は古い。

 治癒魔法で無理に塞がれ、内部の筋が歪んだまま固まっている。


「完全には治らない。でも――」


 カイルは地面に膝をつき、ゆっくりと言葉を選んだ。


「負担を減らすことはできる。

 歩ける距離も、増えるはずだ」


 土魔法で簡易的な支えを作り、

 体重のかかり方を調整する。


 派手さはない。

 だが、確実な処置だった。


「……痛く、ない」


 エルバは呆然と呟いた。


「奇跡じゃない。ただ、生活に合わせただけだ」


 そう言って立ち上がる。


「住む場所は、空いている。

 ただし――」


 カイルは、はっきりと告げた。


「ここは、楽な場所じゃない。

 自分のことは、自分でやる。

 それでもいいなら」


 エルバは、もう一度頭を下げた。


「それで、十分です」


 その後ろで、少女が小さく頭を下げる。


「……ミアです」


 その声は、か細いが、まっすぐだった。


 夕方。

 カイルは空き家を一軒、住めるように整えた。


 屋根を直し、床を補強し、火を使えるようにする。

 エルバはその様子を、信じられないものを見る目で眺めていた。


「こんな……簡単に」


「簡単じゃない。ただ、順番を知っているだけだ」


 夜、三人で焚き火を囲む。


 久しぶりの、複数人の食事だった。


 ミアが、恐る恐る言った。


「……ここ、こわくない」


 その一言に、胸の奥が、少しだけ温かくなる。


「そうだな」


 カイルは頷いた。


 夜が更け、二人が眠りについた後、

 カイルは村の外れに立ち、静かな闇を見つめた。


 人が増える。

 責任も、手間も、確実に増える。


 それでも――


「……悪くない」


 独りの生活は、終わった。


 追放された補助役は、

 今度は「誰かの居場所」を支える側になったのだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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