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追放された補助役は、辺境でスローライフを始めました 〜役に立たないと言われた俺の仕事が、村と世界を支えていた件〜  作者: 山奥たける


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第21話 壊れない日常

 春が、巡ってきた。


 畑の作物は、去年より少しだけ種類が増えた。

 水路は、誰かが声をかけなくても手入れされている。

 診療所の扉は、今日も同じ時間に開いた。


 村は、変わらない。


 だがそれは、「停滞」ではなかった。


「……新人、来たみたいだな」


 カイルは、村道の先を見る。


 荷を背負った若者が、少し緊張した顔で立っている。

 誰かに追われた様子はない。

 だが、居場所を探している目だ。


「案内、いる?」


 声をかけたのは、エルバだった。


「まずは水飲め。

 話は、それからだ」


 自然なやり取り。

 誰も、カイルを振り返らない。


 それで、いい。


 彼は、水路の脇に腰を下ろし、流れを眺める。


 音は、一定だ。

 揺らぎはあるが、危険な兆しはない。


「……異常なし」


 小さく呟き、立ち上がる。


 診療所では、リーナが子どもの腕を診ていた。


「大丈夫。

 転んだだけです」


「ほんと?」


「ええ。

 でも、今日は無理しないこと」


 子どもは元気に頷き、外へ飛び出していく。


「患者、減りましたね」


 カイルが言う。


「いいことです」


 リーナは、迷いなく答えた。


「治療は、少ない方がいい」


 昔の自分なら、

 そう言い切れなかったかもしれない。


 夕方。


 焚き火が灯り、人が集まる。

 話題は、明日の天気と、畑の作付け。


「今年は豆を増やすか?」


「水、足りるな」


「じゃあ決まりだ」


 誰も、誰かの許可を求めない。


 決めて、動く。

 間違えたら、直す。


 それが、当たり前になっていた。


 焚き火の端で、リーナが隣に座る。


「……最初に来た頃、覚えてます?」


「覚えてる」


「何もなかったですね」


「ああ」


 二人は、少し笑う。


「それでも」


 リーナは、炎を見る。


「ここは、壊れませんでした」


 カイルは、頷いた。


「壊れないように、作ったからな」


「英雄がいたから?」


「違う」


 即答だった。


「英雄がいらない形にした」


 沈黙。

 だが、居心地は悪くない。


 夜が深まり、星が瞬く。


 カイルは、空を見上げる。


 王都で、追放された日。

 自分は、何者でもなかった。


 だが今――

 ここでは、名を呼ばれなくても、仕事が回る。


 それが、何よりの証明だった。


 村の外れで、風が木々を揺らす。

 水は流れ、

 人は眠り、

 明日が来る。


 壊れない日常。


 それは、誰かが前に立つことで生まれるものじゃない。

 誰かが支え、

 誰かが受け取り、

 皆が手放せることで続いていく。


 追放された補助役のスローライフは、

 ここで――

 静かに、幕を下ろす。


 だが、この村の朝は、

 明日も変わらず訪れる。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


本作は

「強くなること」や「勝つこと」よりも、

壊れない形で生き続けることをテーマに書き始めました。


主人公カイルは、

最後まで前に立つ英雄にはなりません。

評価も、称号も、名声も選びませんでした。

けれどその代わりに、

誰かが安心して明日を迎えられる場所を残しました。


それで十分だと、

この物語は答えを出しています。


派手な展開や大きな奇跡は少ない物語でしたが、

ここまで付き合ってくださった読者の皆さまには、

心から感謝しています。


もしこの世界の続きを想像していただけたなら、

それ以上に嬉しいことはありません。


他の物語も書いていますので、

そちらでお会いできれば幸いです。


ありがとうございました。

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