第20話 評価されないという選択
村に、久しぶりに正式な使者が訪れた。
馬車は一台。
護衛も最小限。
威圧するつもりはない――そんな態度だった。
「カイル・エルノア殿」
降りてきたのは、以前顔を合わせた中央の調査官だった。
「最終報告を、お伝えに来ました」
集会所に人が集まる。
エルバ、リーナ、村の中核を担う者たち。
皆、静かに成り行きを見守っている。
調査官は、書類を一枚広げた。
「結論から言います。
この共同開拓区域は――成功例です」
小さなどよめき。
「医療、水利、労働分担。
いずれも数値上、安定している。
事故対応も、自己完結が可能」
彼は、淡々と続ける。
「中央としては、この方式を
“標準モデル”として採用する案も検討しました」
その言葉に、誰かが息をのむ。
だが。
「――見送りました」
空気が、静まる。
「理由は、三つあります」
調査官は、指を立てた。
「一つ。
この仕組みは、現場の判断力に大きく依存している」
「二つ。
命令系統を固定すると、必ず形骸化する」
「三つ。
……あなたが、制度に向いていない」
最後の言葉に、少しだけ苦笑が混じった。
カイルは、黙って聞いている。
「つまり――」
調査官は、結論を述べた。
「国は、これを“管理しない”。
代わりに、干渉もしない」
それは、最大限の尊重だった。
「要請です」
彼は、カイルを見る。
「今後も、この区域をあなたの裁量で運営してほしい。
報告義務は最小限。
称号も、地位も、設けない」
エルバが、低く息を吐く。
「……都合のいい言い方だな」
調査官は、否定しなかった。
「ええ。
ですが、強制ではありません」
視線が、カイルに集まる。
彼は、しばらく考え――
静かに口を開いた。
「……条件がある」
「聞きましょう」
「俺個人を、評価しないでほしい」
調査官が、目を瞬かせる。
「功績は、村のものだ。
俺が抜けても、回る形にしてきた」
それは、第19話で示された事実だった。
「それと――」
カイルは、続ける。
「失敗した時は、
“ここが悪い”と、正直に言ってくれ」
英雄扱いは、いらない。
神格化は、壊れる。
調査官は、深く頷いた。
「……理解しました」
書類を畳む。
「では、国としての評価は――」
少し間を置いて。
「“評価不能”と記します」
一瞬、誰も反応できなかった。
だが。
カイルは、わずかに笑った。
「それでいい」
調査官は、立ち上がる。
「最後に、個人的な質問を」
「何だ」
「なぜ、そこまで
“評価されないこと”を選ぶのですか」
カイルは、即答しなかった。
村を見る。
水路。
畑。
人の気配。
「評価は、役割を固定する」
静かな声だった。
「俺は、補助役でいたい。
状況に合わせて、立ち位置を変えられる存在で」
調査官は、何も言えなくなった。
夕方。
使者が去り、村はいつもの静けさを取り戻す。
「……英雄になれたかもしれないな」
エルバが、冗談めかして言う。
「柄じゃない」
カイルは、即答する。
リーナが、隣で微笑んだ。
「でも」
「?」
「ここでは、ちゃんと必要とされています」
それは、称号よりも重い言葉だった。
夜。
焚き火の前で、カイルは一人、空を見上げる。
評価されない。
名を残さない。
だが――
壊れない。
それで、十分だった。
追放された補助役のスローライフは、
いよいよ――
終わりの場所が、見えてきていた。
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