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追放された補助役は、辺境でスローライフを始めました 〜役に立たないと言われた俺の仕事が、村と世界を支えていた件〜  作者: 山奥たける


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第19話 それでも、回っている

 異変は、早朝だった。


「……水位が、下がってる」


 水路の点検をしていた若者が、首をかしげる。

 昨日まで問題はなかった。

 雨量も、流量も、記録通りだ。


「分水の第三点だ。

 詰まりかもしれない」


 誰かが言う。


 以前なら、ここでカイルの名が呼ばれていただろう。

 だが――


「手順、覚えてるか?」


 エルバが、杖をつきながら前に出た。


「まず、下流への連絡だ」


 村の一人が走り、鐘を鳴らす。

 水路沿いの合図。

 減水対応の合図だ。


「応急板、持ってこい!」


 別の者が、倉庫へ向かう。


 誰も、慌てていない。

 声は落ち着いている。


 それは、訓練の成果だった。


 第三分水点では、予想通り、枝と泥が溜まっていた。


「……これ、前の豪雨の名残だな」


「一気に流れ込んだか」


 エルバが、状況を確認する。


「迂回水路、開けろ。

 本流は、まだ触るな」


 若者たちが、指示通りに動く。


 水は一時的に減ったが、

 完全に止まることはなかった。


 その頃、カイルは村の外にいた。


 上流の村との打ち合わせ。

 戻るのは、昼過ぎになる予定だった。


「……?」


 遠くで、鐘の音が聞こえる。


 減水合図。


 彼は、一瞬だけ足を止め――

 それから、歩き出した。


(大丈夫だ)


 そう、確信していた。


 昼前。


 詰まりは、解消された。


 水位は、徐々に戻り始める。


「……終わったな」


 誰かが、安堵の息を吐く。


「報告、まとめとくか」


「そうだな。

 記録板に、時間と原因を書いとけ」


 淡々とした会話。


 そこに、騎士の姿が現れた。


 ロベルトの部下だ。


「今朝の水位変動、報告が上がっている」


 エルバが、頷く。


「すでに対応済みだ」


「……確認させてくれ」


 現場を見た騎士は、目を見開いた。


「……誰が指揮した?」


「皆だ」


 エルバは、即答した。


「役割が決まっていただけだ」


 騎士は、言葉を失う。


 そこへ、カイルが戻ってきた。


「……終わったか」


「ああ」


 エルバは、少しだけ笑った。


「お前がいなくてもな」


 カイルは、その言葉を聞いて――

 小さく、息を吐いた。


「……それでいい」


 診療所では、リーナが対応に追われていた。


 直接の怪我人はいない。

 だが、不安から体調を崩す者が数人。


「大丈夫です。

 もう、水は戻っています」


 彼女の声は、落ち着いていた。


「念のため、今日は無理をしないでください」


 それだけで、人は安心する。


 夕方。


 村の集会所で、簡単な振り返りが行われた。


「原因は、上流の流木」


「対応時間、二刻」


「改善点は?」


 若者が手を挙げる。


「……連絡役を、もう一人増やした方がいい」


「賛成だ」


 誰も、カイルを見ない。


 彼が答えを出す場面では、もうなかった。


 会が終わり、人が散っていく。


 焚き火のそばで、リーナが隣に座る。


「……すごかったですね」


「ああ」


「あなた、何もしてませんでした」


 それは、責めではない。


 誇りだった。


「それが、目標だった」


 カイルは、火を見つめる。


「俺がいなくても、回ること」


 リーナは、少し黙ってから言った。


「……寂しくないですか」


「少しな」


 正直な答え。


「でも、嬉しい」


 焚き火が、静かに揺れる。


 この村は、もう――

 彼の“手”から、離れ始めていた。


 それでも、壊れない。


 追放された補助役のスローライフは、

 ここで――

 完成に、近づいていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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