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追放された補助役は、辺境でスローライフを始めました 〜役に立たないと言われた俺の仕事が、村と世界を支えていた件〜  作者: 山奥たける


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第17話 会議という名の現場

 会合は、上流の村で開かれた。


 石造りの集会所。

 中央から派遣された役人二名。

 周辺三村の代表者。

 そして、端の席に――カイル。


 彼は、最初から発言するつもりはなかった。


「本件は、水利の効率化を目的とした再編計画です」


 中央役人の一人が、書類を掲げる。


「管理を一点に集約し、労力と時間を削減する。

 理にかなった案だと考えています」


 反論は、すぐに出なかった。


 誰もが「効率化」という言葉に弱い。

 否定すれば、非合理に見える。


「……質問しても?」


 その空気を、静かに切ったのがカイルだった。


 役人が視線を向ける。


「どうぞ」


「一点管理にした場合、

 下流域の水量変動は、どの程度を想定していますか」


 役人は、即答できなかった。


「……平均値では、問題ないと」


「平均、ですね」


 カイルは、持参した板を立てる。


 そこには、手書きの数値が並んでいた。


「過去三十日の実測です。

 雨量、水位、流速」


 ざわめきが起こる。


「下流では、作業時間が一日平均で

 四十分延びています」


「体調不良の発生率は、約一・三倍」


 感情は、一切混ぜない。


「効率化によって、

 別の場所で非効率が生まれている」


 役人の一人が、眉をひそめた。


「……それは、一時的な――」


「一時的なら、数字は揃いません」


 静かな反論だった。


「現場は、すでに“適応”し始めています。

 無理な形で」


 沈黙。


 村の代表の一人が、口を開く。


「……事実です」


 別の村も、頷いた。


 カイルは、続ける。


「一点管理が悪いとは言いません。

 ただし――」


 板の裏を見せる。


「分散補助が必要です」


 小規模な分水。

 現場裁量。

 異常時の即時遮断。


「これを入れれば、

 全体効率は落とさず、

 下流の負担も抑えられる」


 役人たちは、書類を見比べる。


「……誰が管理する?」


「各村です」


 即答。


「中央は、監査と支援に回る」


 役人が、苦笑した。


「それでは、“管理”にならない」


「なります」


 カイルは、はっきり言った。


「壊れない管理です」


 会議は、長引いた。


 だが、声が荒れることはなかった。


 夕方。


「……試験導入としましょう」


 中央役人が、結論を出す。


「三か月。

 その間、あなたの言う“分散補助”を組み込む」


 その言葉に、場が安堵する。


 会合が終わり、外に出ると、

 川の音が穏やかに響いていた。


「……お前さん、何者だ」


 上流村の代表が、感心したように言う。


「元冒険者です」


「嘘だろ」


 カイルは、少しだけ笑った。


「補助役でした」


 帰り道。


 リーナが、隣を歩きながら言う。


「……喧嘩にならなくて、よかったですね」


「ああ」


「怒鳴る人、いませんでした」


「数字は、感情より強い時がある」


 それだけのことだ。


 村が見えてきた。


 夕焼けに染まる水路。

 畑で働く人影。


 壊れなかった。

 それだけで、十分だった。


 追放された補助役のスローライフは、

 またひとつ――

 静かに世界を整えた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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