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追放された補助役は、辺境でスローライフを始めました 〜役に立たないと言われた俺の仕事が、村と世界を支えていた件〜  作者: 山奥たける


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第14話 ここにいる理由

 春の風が、村を抜けていった。


 畑の若芽が揺れ、水路の水面がきらめく。

 ここが廃村だったことを、もう思い出せないほどだった。


 その朝、村に一通の書状が届いた。


 封蝋には、王都の正式な紋章。


「……来たか」


 カイルは、それを見ただけで内容を察した。


 集会所に人が集まる。

 エルバ、リーナ、農民たち、そしてミア。


 全員が、黙って見守っている。


 カイルは、書状を開き、読み上げた。


王都より正式に要請する。

 辺境共同開拓区域の運営顧問として、

 カイル・エルノアを迎えたい。

 地位、報酬、居住地は保証する。


 ざわめきが起きる。


「……すごいじゃないか」


「王都、だぞ」


 それは、かつて追い出された場所。

 そして、今度は“迎えに来た”場所。


 カイルは、すぐに答えなかった。


「これは、俺一人の問題じゃない」


 そう前置きして、村人たちを見る。


「意見を聞かせてほしい」


 沈黙。


 やがて、エルバが口を開く。


「……正直に言う」


 彼は、杖を握りしめながら言った。


「お前がいなければ、この村は成り立たない。

 だが――」


 一度、言葉を切る。


「お前が“縛られて”ここにいるなら、

 それは、この村が壊れる始まりだ」


 静かな言葉だったが、深く刺さった。


 農民の一人が続く。


「行きたいなら、行け。

 残りたいなら、残れ。

 俺たちは、自分で立つ」


 ミアが、小さな声で言う。


「……いなくならない?」


 カイルは、彼女の前に膝をついた。


「いなくならない。

 どこにいても、ここは大事だ」


 それが、彼の本音だった。


 最後に、リーナが言った。


「……決めるのは、あなたです」


 王都でも、ここでも。

 彼女は、一度も彼を縛らなかった。


 夜。


 焚き火の前で、カイルは一人、考えていた。


 王都に行けば、

 安全で、保証があり、評価もされる。


 だが――


(俺は、ここで“役に立った”んじゃない)


(ここで、“必要とされた”)


 翌朝。


 カイルは、ロベルト宛てに返書を書いた。


要請は、辞退する。

 ただし、必要な協力は惜しまない。

 私は、この地で続ける。


 短い文だったが、迷いはなかった。


 数日後、返事が届く。


了解した。

 貴殿の判断を尊重する。

 今後も、対等な協力関係とする。


「……上出来だな」


 カイルは、書状を畳んだ。


 昼下がり。


 リーナと並んで、水路を見回る。


「後悔は?」


「ない」


 即答だった。


 リーナは、少し笑って言う。


「……不思議ですね」


「何が」


「追放された人が、

 いちばん自由に生きてる」


 カイルは、空を見上げる。


「追い出されたから、

 選び直せたんだ」


 夕方、焚き火が灯る。


 誰かが笑い、

 誰かが歌い、

 誰かが、明日の話をする。


 カイルは、その輪の中にいた。


 前に立たず、

 だが、確かに中心に。


 追放された補助役のスローライフは、

 ここで――

 第1部を終える。


 そしてこの村は、

 今日も、静かに息をしている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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