第12話 取り戻せない距離
村に、見慣れた気配が近づいてくるのを、カイルは誰よりも早く察知した。
足音。
呼吸の乱れ。
そして――無駄に力の入った歩き方。
「……来たな」
畑の手を止め、顔を上げる。
村道の先に、三人の人影が見えた。
ガルド。
セシリア。
バルド。
かつて、同じパーティで戦っていた仲間たち。
村人たちも、異変に気づき始めていた。
だが、騒がない。
それが、この村の空気だった。
「……久しぶりだな、カイル」
ガルドが、ぎこちなく声をかける。
「そうだな」
それだけで、十分だった。
沈黙が落ちる。
王都で交わしていた言葉は、
ここでは、ひどく浮いていた。
「……噂は、聞いている」
ガルドが、視線を逸らしながら言う。
「いい村を作ったそうじゃないか」
「村が勝手に生き延びただけだ」
カイルの声は、穏やかだった。
だが、距離は埋まらない。
セシリアが、一歩前に出る。
「……あなたがいなくなってから、私たちは――」
言葉が、詰まる。
苦労した。
失敗した。
壊れた。
だが、それを口に出すほどの覚悟は、まだなかった。
「……助けてほしいんだ」
その言葉を、ガルドが絞り出した。
空気が、凍る。
村人たちの視線が、自然とカイルに集まる。
だが、誰も口を挟まない。
判断を、彼に委ねている。
「理由を、聞いてもいいか」
カイルは、静かに言った。
「俺が必要だと、思ったからか。
それとも――困ったからか」
ガルドは、答えられなかった。
代わりに、バルドが口を開く。
「……正直に言う。
俺たちは、お前の価値を理解していなかった」
それは、初めての“本音”だった。
「いなくなってから、全部が崩れた。
戦闘も、休憩も、判断も」
セシリアが、唇を噛む。
「……ごめんなさい」
短い言葉だったが、重かった。
だが――
それでも、足りなかった。
「……今さらだ」
カイルは、はっきりと言った。
怒りはない。
恨みもない。
ただ、事実だけがあった。
「俺は、あの場所で“役に立たない”と判断された。
だから、出ていった」
ガルドが、何か言いかけて――止める。
「ここでは、違う」
カイルは、村を見渡す。
畑。
水路。
診療所。
人々の気配。
「俺のやり方は、ここに合っている」
それが、すべてだった。
「……戻るつもりは、ない」
明確な拒絶。
それでも、声は荒げない。
リーナが、静かに前へ出た。
「ここは、助け合う場所です。
でも――」
彼女は、三人を見る。
「居場所を奪った人を、迎え入れる余裕はありません」
その言葉は、優しく、そして残酷だった。
長い沈黙のあと、ガルドは深く頭を下げた。
「……そうか」
それ以上、何も言わなかった。
彼らは、来た道を戻っていく。
背中は、以前より小さく見えた。
その姿を見送りながら、カイルは思う。
(追い出したんじゃない)
(ただ……戻れない距離ができただけだ)
夜。
焚き火のそばで、リーナが言った。
「……冷たく、ありませんでした」
「そうか?」
「ええ。
ちゃんと、向き合っていました」
カイルは、火を見つめる。
「過去を否定しなかった。
でも、引きずらなかった」
リーナは、少しだけ笑った。
「それが、一番きついざまぁですね」
カイルも、小さく笑う。
もう、終わった。
彼らとの物語は。
追放された補助役のスローライフは、
次に――
“完全な逆転”を迎える。
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