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追放された補助役は、辺境でスローライフを始めました 〜役に立たないと言われた俺の仕事が、村と世界を支えていた件〜  作者: 山奥たける


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第11話 助かる場所を、ひとつにしない

 村の朝は、以前より忙しくなっていた。


 診療所代わりの家屋の前には、簡易的な順番札が置かれ、

 軽症者と重症者が自然と分かれて並んでいる。


 リーナは、落ち着いた動きで患者を診ていた。

 エルバと、もう一人の村人が、包帯や器具を手渡す。


「……流れは、悪くない」


 カイルは少し離れた場所から、それを見ていた。


 だが、問題は“この村”の中だけではない。


 昼前、例の下流の村の代表――あの男が、再び訪れた。


「考えてくれたか」


 責める調子ではない。

 だが、切実さは隠れていない。


「正直に言う。

 このままだと、うちは立ち行かなくなる」


 怪我人が流出し、

 人手が足りず、

 村としての機能が落ちている。


 それは、カイルも理解していた。


「……一つ、提案がある」


 彼は、地面に簡単な地図を描いた。


 この村。

 下流の村。

 さらに、その周囲の小さな集落。


「ここを、“拠点”にするのは、やめる」


 男は、目を見開いた。


「何?」


「助かる場所を、ひとつにしない」


 カイルは、淡々と説明する。


「軽い処置は、各村でできるようにする。

 ここは、重症と調整役に回る」


「……そんなことが、可能なのか」


「可能にする」


 それだけだった。


 その日の夕方、カイルはリーナ、エルバ、数人の代表者を集めた。


「応急処置の手順を、まとめる」


 紙はない。

 だから、板に刻む。


 止血。

 固定。

 搬送。


「高度な治癒は、リーナしかできない。

 だが、“悪化させない”ことは、誰でもできる」


 リーナは、静かに頷いた。


「治癒は、魔法だけじゃありません。

 時間を稼ぐことも、医療です」


 数日後。


 近隣の村から、人が集まり始めた。

 治してもらうためではない。


「教えてほしい」


「戻って、広めたい」


 それは、カイルが最も望んでいた形だった。


 簡易講習は、焚き火のそばで行われた。


「これは、命を救うための最低限だ」


 彼は、声を張らない。


「無理をしない。

 できないことを、やろうとしない」


 その言葉は、医療だけでなく、

 生き方そのものに向けられていた。


 一週間後。


 村を訪れる怪我人の数は、明らかに減った。

 代わりに、各村で“踏みとどまれる”人が増えた。


「……すごいな」


 下流の村の代表が、素直に言う。


「奪われると思っていた。

 だが……分けられた」


「独占すれば、必ず歪む」


 カイルは、静かに答えた。


「支え合えば、長く続く」


 その報告は、当然――領主の耳にも届く。


 数日後、ロベルトが再び村を訪れた。


「聞いているぞ」


 彼は、率直に言った。


「医療と生活の分散化。

 ……正直、予想外だ」


「村一つが栄えても、周りが壊れれば意味がない」


 ロベルトは、しばらく黙り込み、やがて笑った。


「国がやるべきことを、個人が先にやるとはな」


 その場で、彼は宣言した。


「正式に、この一帯を“共同開拓区域”として扱う。

 税と保護は、村単位ではなく、区域単位だ」


 それは、前例のない判断だった。


 だが、現実はすでに動いている。


 夜。


 焚き火の前で、リーナが言った。


「……大きくなりましたね」


「ああ」


「怖くないですか?」


 カイルは、少し考えてから答えた。


「怖い」


 正直だった。


「でも、逃げる理由にはならない」


 リーナは、小さく微笑んだ。


「やっぱり……補助役ですね」


 その言葉に、カイルは苦笑する。


 前に出ない。

 目立たない。

 だが、いなければ崩れる。


 追放された補助役のスローライフは、

 ついに――

 “点”から“線”へと、世界を支え始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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