第9話 助かる場所だと、知られてしまった
昼過ぎ、村の外れが騒がしくなった。
最初に気づいたのは、ミアだった。
「……誰か、来てる」
畑仕事をしていたカイルは顔を上げ、村道の先を見る。
土煙の向こう、二人の男が何かを担いで走ってくるのが見えた。
「お願いだ! ここに、治せる人がいるって……!」
担架代わりの板の上には、血に染まった若者が横たえられていた。
顔色は悪く、呼吸も浅い。
「リーナ!」
カイルの声に、すぐ返事が返る。
「見ます!」
彼女は迷わず駆け寄り、膝をついた。
服の上からでも、異常がわかる。
「……内臓損傷。肋骨も折れています」
担いできた男が焦った声を上げる。
「魔物にやられた! 近くの村じゃ、どうにもならなくて……!」
「ここに運んだ判断は、間違っていません」
リーナはきっぱり言った。
「でも……今すぐ処置が必要です。場所を借ります」
カイルはすでに動いていた。
「空き家を一つ、診療用にする。
エルバ、水を。
他の人は、火と布を」
誰も疑問を挟まない。
声が飛び、身体が動く。
それはもう、「即席の村」ではなかった。
簡易診療所に寝かされた若者は、痛みに呻いた。
「……助かる、のか」
「助けます」
リーナは短く答え、治癒触媒を準備する。
だが、単純な治癒魔法では足りない。
「カイルさん、肋骨の位置……」
「わかってる」
彼は土魔法を微調整し、
地面から“形のある支え”を作り出す。
外から押すのではない。
内側から、正しい位置を“思い出させる”ように。
「……今です」
リーナの治癒魔法が流れ込む。
汗が、彼女の額を伝った。
時間は、かかった。
だが――
「……呼吸、戻ってる」
誰かが、安堵の声を漏らす。
若者の顔色は、少しずつ戻っていた。
「今日は、ここで休ませてください。
無理に動かせば、また悪化します」
担いできた男たちは、何度も頭を下げた。
「ありがとう……本当に」
その言葉を、リーナは受け取った。
夕方。
村の焚き火のそばで、カイルとリーナは並んで座っていた。
「……正直、ぎりぎりだった」
リーナが、ぽつりと漏らす。
「設備も、人手も、足りない」
「それでも、助かった」
カイルは、火を見つめたまま言った。
「助かる“可能性”を、ここは持ってる」
その言葉に、リーナは小さく笑った。
「……噂、広がりますね」
「ああ」
良くも悪くも。
翌日、その“悪くも”が、すぐに現れた。
今度は別の村から、年配の女性が運び込まれた。
その翌日には、農具事故の男。
さらにその次の日――
「ここに来れば、助かるんだろ?」
人が、列を作り始めた。
村人たちに、不安が広がる。
「……対応しきれるのか」
カイルは、全員を集めた。
「ここは、医療を“断らない”場所にはしない」
ざわめきが起こる。
「できることと、できないことがある」
彼は、はっきり言った。
「無理をすれば、全員が潰れる。
だから――」
リーナが、静かに続ける。
「重症と軽症を分けます。
応急処置と、経過観察。
全部は無理でも、“何もできない”よりは、ずっといい」
その冷静さに、皆が頷いた。
ルールは、守るためにある。
その夜、焚き火のそばで、ミアが言った。
「……ここ、すごい」
「何がだ」
「助かる場所」
短い言葉だったが、胸に残った。
カイルは思う。
(知られてしまったな)
この村が、
戦わなくても、
誇らなくても、
“価値を持つ場所”だということを。
追放された補助役のスローライフは、
もう――
静かではいられなくなりつつあった。
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