第1話 役に立たないと言われた日
本作は、派手なバトルや即時の復讐よりも、
「評価されなかった人が、正しい場所で報われていく」
スローライフ寄りの物語です。
主人公は戦闘で無双するタイプではありません。
代わりに、生活・準備・調整といった“地味な仕事”で、
少しずつ周囲を支えていきます。
ざまぁ展開はありますが、怒鳴り合いや暴力ではなく、
「気づいた時には、立場が逆転している」タイプです。
ゆっくりした再生と、壊れない日常を楽しんでいただければ幸いです。
ダンジョンから戻った日の夕方、王都の空はどこか重たかった。
石畳に残る血痕を踏まないように、カイル・エルノアは荷車の後ろで装備を整えていた。剣の刃こぼれ、魔導具の消耗、仲間たちの魔力残量。頭の中でそれらを一つずつ整理し、次の補給計画を組み立てる。
いつも通りの仕事だった。
「……今回は、楽勝だったな」
前を歩くガルドがそう言った。パーティリーダーであり、剣士としても名の知れた男だ。
セシリアが小さく鼻を鳴らす。
「当たり前でしょ。私の火力があれば、あの程度」
カイルは何も言わなかった。ただ、彼女の魔力がほぼ空になっていることに気づき、内心で眉をひそめる。予定より二割多く消費している。無理をした証拠だ。
それでも倒れずに帰って来られたのは、誰のおかげか――そんな考えは、すぐに頭から追い出した。
診療所では、いつものように白衣の少女が迎えてくれた。
「おかえりなさい。……あ、カイルさん、少しこちらへ」
リーナ・フェルディス。ギルド併設の簡易診療所で働く治癒術師見習いだ。
彼女は軽傷者の列をさばきながら、さりげなくカイルの腕を取った。
「大きな傷はありませんけど……魔力疲労がかなり出ています。今日は、いつも以上に無理しましたね」
「そうかな。みんなが無事なら、それで」
カイルがそう答えると、リーナは一瞬だけ困ったように目を伏せた。
「……はい。でも、ちゃんと休んでください」
それ以上、彼女は何も言わなかった。ただ、その視線だけが、なぜか胸に残った。
診療が終わると、ギルド職員に呼ばれ、簡易会議室へ向かうことになった。
嫌な予感はあったが、理由は分からない。
部屋に入ると、全員が揃っていた。ガルド、セシリア、バルド。そして、事務的な顔をしたギルド職員。
「カイル」
ガルドが口を開く。
「今日で、お前にはパーティを抜けてもらう」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
「……理由を、聞いてもいいか?」
「戦力になっていない」
即答だった。
「火力がない。前にも立たない。討伐数にも名前が出ない。正直言って――お前は目立たなすぎる」
セシリアが腕を組んだまま、視線を逸らす。バルドは何か言いたそうだったが、結局黙ったままだ。
「若い冒険者を入れる。将来性があるやつだ。悪く思うな」
それは、追放の宣告だった。
カイルは、少しだけ考えた。反論する言葉は、いくらでもあった。
補給がどれだけ戦闘を支えていたか。
解析がどれほど被害を減らしていたか。
だが、それを説明したところで、彼らが理解しないことも分かっていた。
「……わかりました」
それだけ言って、頭を下げた。
会議は、五分とかからずに終わった。
外に出ると、雨が降り始めていた。
診療所の前で立ち尽くしていると、後ろから声がした。
「カイルさん」
リーナだった。
「……本当に、それでいいんですか?」
彼女は、追放の話を聞いていたのだろう。だが責める様子はなかった。
「必要とされない場所に、いる理由はないから」
カイルがそう答えると、リーナは唇を噛みしめた。
「でも……あなたがいなくなったら」
一瞬、言葉を探すように視線を泳がせてから、はっきりと言った。
「――あの人たち、きっと壊れます」
カイルは、何も言えなかった。
夜明け前、彼は王都の外門に立っていた。持ち物は最低限。
そこへ、息を切らせてリーナが駆け寄ってくる。
「これ、持っていってください」
薬草と保存食。それから、一枚の古い地図。
「ここ……使われていない村です。危険ですけど、住めないわけじゃない」
雨に濡れた地図を握りしめながら、カイルは彼女を見る。
「……どうして、そこまで」
リーナは、小さく微笑んだ。
「あなたは、ちゃんと誰かを支えてきました。
だから――生きてください。それだけで、いいですから」
言葉が、胸に染み込んだ。
やがて、彼は王都に背を向けて歩き出す。
空は白み始め、雨は止んでいた。
その日、カイル・エルノアは追放された。
そして――静かに、本当の人生が始まった。
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