王命です
手慰み、数弾でございます。
自らハードルを高くしてしまっているのでしょうか?
前作のポイント数を見て、本気で恐怖におびえつつ、投稿しております。
少しでも楽しんでいただければ、幸いでございます。
もう、見過ごすことはできなかった。
だから、一番注目される場、卒業パーティーでの断罪に踏み切ったのだ。
国の第三王子である彼は、王位継承権はない。
だがこれは、小さな国の存続を、脅かしかねない所業だった。
隣国の王女が、この国のこの学園に留学してきたのは、三か月前だ。
その三か月の間で、王女は幾度も嫌がらせを受け、最近では命を脅かされ始めたのだ。
その嫌がらせをしていたのは、自分の兄であり王太子である第一王子の婚約者で、この国の公爵家の令嬢。
国を危機にさらすような行動をとる令嬢が、国母にふさわしいとは思えず、第三王子は行動に出ることにしたのだった。
卒業パーティーの最中、第三王子は側近たちを呼び寄せて意気投合し、声を張って周囲の注意を引いた。
「この場を借りて、ある犯罪行為を明るみにしたいと思う」
場が静寂に飲まれたのを見計らい、王子は厳かに公爵令嬢を呼ぶ。
目を瞬いた公爵令嬢は、傍にいた隣国の王女と顔を見合わせてから、静々と前へ進み出た。
静かに目上への礼を取る令嬢を見下ろし、王子は厳かに告げた。
「あなたが、隣国の王女である彼女にしていた所業、全て我々の目に止まっている。申し開きはあるか?」
「……ございません。全ては、王命を得た上での所作でございます」
戸惑った色が滲んだが、令嬢の言葉は肯定だった。
「そうか、では、王女への嫌がらせを超えた行為も、そなたの……ん? 王命?」
勝ちを確定して話を進めようとしたが、令嬢の言葉を反芻してつい言葉を切ってしまった。
そんな王子を見上げ、令嬢が首を傾げる。
「はい。留学した時期より三か月、王女様をお守りする旨を、王命として承っております」
心底不思議そうなその顔を見下ろし、王子は目を険しくした。
「つまりお主は、お守りする立場なのをいいことに、嫌がらせしていたというのかっ?」
「……?」
これが演技ならば、相当の悪女だ。
怒りを露わにした王子の目線の端で、隣国の王女も戸惑っているのに気づき、我に返った。
「? 王女?」
「嫌がらせとは、何のことでしょうか?」
王女本人からそう問われ、第三王子は言葉を失くした。
「こちらの国王陛下より、わたくしの身の安全を考慮してくださる旨を、伝えられております。その際に、王太子の婚約者であり公爵のご令嬢であるこの方が学友として選ばれ、短い間でしたが、とても充実した学園生活を送らせていただきました」
美しい笑顔で言い切られ、第三王子は混乱した。
「そんなはずはない。先日、あなたが階段より落ちるのを、我々は目撃しておりますっ」
続いて側近も、目撃した嫌がらせを告白していく。
「数週間前、頭から水を被せられた現場を、目撃いたしました」
「二月ほど前、ドレスを、その、引き裂かれた瞬間を、目撃いたしました」
目を見張った二人の女性は、顔を見合わせているだけだったが、その傍に控えた騎士が静かに声を出した。
「発言を、お許しいただけますでしょうか」
迫力のある図体の、強面な男の下手の申し出に、王子は狼狽えながらも頷いた。
騎士は、重々しく告げた。
「それは、我々近衛隊による所業でございます」
「は?」
言葉を失くす王子に、騎士は真剣に続けた。
「これは、我が国の王による命でございます。この国の第二王子以外の男性と、王女を接近させることはまかりならんと。その命を受け、我々王女の近衛隊は、姫に近づく男性を全て、全力をもって攻撃しておりました」
側近と王子は、その言葉に王女が何度も頷くのを見た。
「まさか全ての攻撃を、受け流されてしまうとは、思いもよりませんでしたわ」
微笑む王女の目は、笑っていない。
「流石は小さいとはいえ国の王子と、その側近候補の方々ですわね。ですが、よけ方が、少々杜撰すぎますわ。全ての攻撃が、わたくしの方に向かってまいりましたもの」
「あ、それは……」
「極めつけは、先日の階段の件ですわ。あれは、国を支える立場になる方としては、有り得ぬ所業でございました。足を取られてよろめいたのに慌てたのは仕方がないですが、まさか、わたくしを押して、体勢を整えてしまうとは。紳士としてもあるまじき行為でございますわ」
王女は、抵抗する間もなく、階段から転げ落ちた。
無傷でここにいる理由は、隣国の売りである治癒力のお陰であった。
「この事、こちらの国王陛下にも、報告済みです。はあ、この場でこのお話は控えるつもりでしたのに。あなた方の軽率さには、本当に呆れましたわ」
王女はそう言い捨て、公爵令嬢と共にその場を離れて行った。
何とも煮え切らない気持ちだったが、仕方がないと騎士は思う。
近衛隊長の自分ですらそうなのだから、部下たちは更にそんな気持ちだろう。
だが、こうでもしないと、王女の未来が暗くなる。
自国の国王に頭を下げられては、致し方がなかった。
自分たちが戻ってきたのは、今から五か月ほど前だ。
元々、王女の近衛隊として選抜されており、前の人生でも一緒に学園に通った。
その時にも王命を抱いていたが、今回とは少しだけ違った。
完全に、受け流せない攻撃で、王子を含む学園の生徒を、死に至らしめたのだ。
その責任を取って、騎士はこの国で刑を受け、死んだ。
そして時を戻ったのだ。
同じように近衛隊に選抜されたが、出された王命は少し違っていた。
「……お前たちが、かの国でやらかしたことが、王女の心を病ませてしまったのだ」
それは、国王の後悔にもなっていた。
だが、あれは当然の行為だったのだと、騎士は思っていた。
何故なら、王女は元々あの国の第二王子との縁談が進んでおり、それを承知しているはずの第三王子と側近の、過剰な接触のせいで、第二王子との接触が難しくなってしまっており、見過ごせない事態だったのだ。
それを訴えると、国王は少し考えてこの計画を口にしたのだった。
そして留学と共に、かの国の国王とも謁見し、その計画に色を付けた。
側室の子である第三王子の、度重なる愚行に手を焼いていた国王は、この件が終わった後、思い切った処罰をした。
同盟を結んだばかりの獣人の国に、第三王子とその側近だった令息たちを、引き渡した。
その代わりに、様々な物資を融通してもらえるようになったという。
これには、不完全燃焼だった騎士たちも、溜飲が下がった。
件の獣人の国には、オスしかいない。
本当に、気楽に読んでくださいませ。




