八話
校外学習の内容は森の雫とかいう名前の小さなアミューズメントパークで遊ぶと言う程度の内容だ。
一応動物園みたいなコーナーや小さなジェットコースター、意外にも観覧車もあって軽い修学旅行の気分を味わえる。主な目的は憶測でしかないが仲良くなった友達や、仲良い友達をこの機会に作って結束力みたいなものを作るとかそういうのかもしれない。
そんな中、バスで移動した私達は班分けをしたのだが、12人という数はやはり他の班と比べても数が違うので二班合併は都合が悪い。
「阿澄さん達はどこを周りたいとかある?」
「あややん!あたし達はどこでもいいよ!」
「阿澄さんに話しかけてるんだから愛理は出しゃばらないの」
田中彩に対して飯塚愛理が元気に声を発するも阿部恵美に宥められる構図に早速疲れを覚えそうだが、私はある程度計画は練ってきたつもりだ。
「まずこの班は人数が多すぎる。二班を一つにはしたけどそれぞれ周りたいところはあるだろうからそれを二つに分けようと思う。どうだろうか?」
「それってこの中で班分けをまた行うってこと?」
「そうだが、途中で合流するつもりだ。動物コーナーなんかは大人数でも問題ないだろう。ただアトラクション系は苦手な人もいるだろうからそこを分けて行こうと思う」
「…さすが師匠」
なんか聞こえた気がするが、田中彩も特に反論がないようなので大丈夫そうだ。
話しを聞いていた横井修二が他の男子に確認を取りながら手を挙げて発言を求める。
「阿澄さん男子勢はどのアトラクションも参加したいって感じなんだけど」
「その時も考えてはある。動物コーナーに興味が無いっていう場合もあるだろうし、だから予め他の班に合流したい人がいたら参加していいか聞いておいた。先生にも遊びたいもので意見が違ったとき他の班と合流して孤立しないなら問題ない事は確認済みなので他クラスに混ざらなければ大丈夫だ。それと他の班がどう動くのかも予め聞いたので予定表を今からグループメッセージに送信しておく」
周りの反応をみると若干引かれてる気がするが気のせいだろう。
「そこまでしてるんならあすみん先にメッセ送れば良かったんじゃないの?」
「すまない予定が決まってない班もいて最終確認がバスの中で行ったから遅れてしまった」
「おおぉ…あすみんなんだかんだやる気すぎて怖い」
昨日まで頭を悩ませていたからな。クロと二人きりで周るにはどうしたらいいか血反吐を吐くほどの気分で我慢して、皆が納得しそうな周り方を徹底してきたつもりだ。
「それじゃあ早速班分けしちゃう?」
「そうだな。田中彩と私がリーダーで二班として分けておこう」
「あれ?私達とは巡らないの?」
それも駄犬のおかげで準備は出来ている。田中彩は絶叫系はあまり好まないと聞いている。
「私は絶叫系から周る予定だが、田中彩もそうしたいなら別のリーダーにするがどうする?」
「あ~、それなら私がリーダーで大人しめのアトラクションからにするね」
これで井口冴も田中彩にひっつけるし、私の周りに来ないから安全だ。次の問題は…絶叫系のアトラクションに男子が偏ってしまって。
私率いる飯塚愛理、男子六人と。田中彩率いるクロ、井口冴、阿部恵美。この圧倒的偏りだ。
これこそ私が耐えなければいけない一つの課題。クロも絶叫系が苦手。
「まさかここまで偏るとは…本当に大丈夫?阿澄さん」
「問題ない、何度も合流しては分散するから連絡だけはこまめに取ろう?」
「そうね、そうしないと迷子になっちゃうし」
そう言って行動を開始すると同時に、私は後ろに控えてる飯塚愛理と男子たちに声を掛ける。
「急いで絶叫系アトラクション半分は制覇しにいく、付いてこい」
「おー!」
「急いで?」
「半分?」
「「「え?」」」
何度も合流分散していたら時間がいくらあっても間に合わない、だからまずは人気系のものから他クラスに負けないように駆け足で向かう。
先に移動したはずの田中彩たちを追い越してダッシュで向かい、後ろから早速疲れてるのか息を漏らす男子がいるがそれは気にしない。遅れたら他の班に混ぜてもらえとしか思わない。
「あすみん…!全力疾走だけはやめて…!」
「あ、すまない」
気付けば男子三人は付いてきているが飯塚愛理も若干出遅れている。残り三人は息が荒れてるだけで準備があれば問題なさそうだ。
「阿澄さんって足速いんだな」
「横井修二も体育の時は活躍してると聞くが?」
「いやスポーツと足の速さは別物だと思うよ?」
そういうものか。とりあえず走って移動してるのは私達と他クラスがメインなので速さを調整しつつ飯塚愛理に合わせて移動すればアトラクションに座り、無感動で一つ制覇する。
「次行くか」
「もはやアトラクションが休憩まであるな…」
男子の一人吉井 哲也ーよしい てつやーがなんだかんだ余裕そうに付いてきているあたりこいつも運動は得意な方なのだろう。
というか飯塚愛理が選択した男子三人は大体運動できる感じだ。キツそうにしているのは田中彩のグループにいた眼鏡を付けている田辺健と、どこから拾ってきたのか星 明久―ほし あきひさ―くらいか。
まぁ問題はない、次に行こう。
移動は基本走っていくと目標まで問題なさそうな程度に混まないで進めている。
たださすがに楽しむと言うよりただ周っているだけだと気付いた飯塚愛理と同じ体育委員をしている多田 義光ーただ よしみつーが異論を述べたいとばかりに手を挙げてきた。
「ちょっと休憩しね?明久と健もバテてるし」
「そうか。だが安心してほしい。次のアトラクションはゆっくりと周れる予定だ」
「それならいいけど…次どこ?」
「お化け屋敷だな」
「あすみんってこの遠足に命でも賭けてんの?」
「ある意味賭けている」
予定が狂えばクロと周ることができないという状況なのだから私も疲れてはいるがなんとか頑張っているだけだ。
「ま、まぁお化け屋敷ゆっくり周ればいいのか?」
「そうだな、それなら大丈夫か」
「さすがにお化け屋敷で走ったりはしないよな?」
男子たちが笑顔になっているところ申し訳ないが私だけは走るつもりだ。点呼もしなければいけないからちゃんと待つ分ゆっくり周ればいい。釣られて走るやつは自己責任だ。
「いやでもあすみんのおかげで本当に一日で制覇できちゃうかも!」
一人喜んでる奴もいるが、案外体力あるのか?
お化け屋敷に入ると同時に私は走って、お化けを見つけたら「お疲れさまです」と労いながら進んでゴールまで着く。
よし、あとは休憩しながら来る男子と飯塚愛理と合流したら、一回目の合流地点にゆっくり向かって何事もなかったように集まれば一回目は完了だ。
横井修二、吉井哲也、多田義光、飯塚愛理、星明久、田辺健。点呼と確認をしてあとは歩く。
「阿澄さん…楽しんでる?」
「私は問題ない、横井修二は楽しんだ?」
「あーまぁ、ある意味新鮮味を感じてるな」
他の者もやりきった顔をしているから満足気だ。正直文句を言われても仕方ないとは思っていたし脱落者も出ると思ったが…これなら二回目も行けそうだな。
合流地点にしてる中心に私達が集まると皆ベンチに座って何が怖かったかわかんねとか言い合いながら楽しそうにしている。
それから少しして田中彩たちが合流したときに私以外が汗だくなのに少し驚いていた。
「えっと…なんか楽しそうだね?」
「順調に進んだ。そちらはどうだった?」
「楽しかったよ、色々と周れたしコーヒーカップって意外と酔うんだなって思ったくらいかな?」
「それなら良かった。それじゃあ次の班分けを―」
「「「「「「俺たち向こうの班行きます」」」」」」
男子が一斉に向こう側に行った。疲れたのか好みがそっちだったのかは分からないが。
「愛理は阿澄さんとまだ周るのね?」
「うん!あすみんすげーんだよ!この遠足に命賭けてるから!」
「そ、そうなの?それじゃあ私とはまだ別行動だね」
「恵美も楽しんでー!」
まぁ、田中彩に負担が行ったならそれはそれでいいか、井口冴が少し恨めしそうにこちらを見ていた気がするが仮にも師匠と呼んでいた人物に失礼だな。
「さぁ愛理、次の合流は昼食の時だ。それまでには残りを制覇するぞ」
「おー!あたしも命賭けるぜー?」
とは言っても人数が減ったからそこまで急がなくてもいいかなと思いつつ折角ここまで来たなら飯塚愛理を満足させる程度には頑張るかとルート通りに進んでいく。
ただ結構我慢してたのか移動で転びそうになった飯塚愛理を見てジュースを買ってきて休むことにした。
「あすみん…すまねぇ、あたしはここまでみたいだ…」
「いや問題ない想定済みだ。こうやって周りの人を見る時間も大切だろう」
「あすみーん!」
汗が染みついた服で私に引っ付かないでほしい、とはいえさすがに無茶ばかりさせすぎたか。あと少しだったんだがな。
「あすみんはさ、なんでこんなに頑張るの?」
「そんなに頑張っては無いが、むしろ頑張ってるのは愛理の方じゃないか?なんで私の方を選んだんだ?」
「そりゃあすみんと一緒に遠足周りたいってずっと思ってたからね!」
「そういうものか」
「そういうもんさ、なんかあすみんは毎日つまらなそうにしてるからあたしでもっと楽しませてやるぜーって気合入るんだよね」
否定はできない、クロと一緒にいるとき以外はあまり楽しいとかは思ってないな。
「むしろあすみんはちゃんと楽しんでる?あたしは楽しいよ」
「ふむ。そうだな、計画通りに行くのも行かないのも、楽しいと思っているよ」
「ほんとう?」
「本当だとも、愛理が残っていなければ一人で周っていただろうしね」
「よかったー」
そのあまりにも楽しそうに笑うものだから釣られて笑ってしまう。何故そうまでして楽しませようとするのかは分からないが、少なくとも文句ひとつ言わずに付いてきてくれて嬉しいと思うよ。
「次どこいく?」
「そうだな。人気のないアトラクションを周る予定だったがどうせ二人なんだ。愛理が行きたいところはどこだ?」
「あたし?それなら観覧車乗りたい!」
「別に良いが、まぁ休憩もできるし一石二鳥か」
「あすみんと絶対乗りたいと思ってたんだよね!」
絶対と言い切るなら前もって言ってくれたら予定に組み込んだのだが、いや予定を勝手に作ったのは私だったから言い出せなかったのか。
飲み物を買ってから飯塚愛理と一緒に観覧車へ順番待ちしてから乗り込むと、少し蒸し暑さを感じてそれと同時に意外と広いんだなと思う。
「見て見てあすみん!人がゴミのようだっていうところだよ!」
「実際ゴミのように見えるな」
「あすみんが言うと本物の悪者だ!」
「そ、そんなに私は悪者っぽいだろうか?」
「口調が変なんだよあすみんは、でもみんなあすみんのそういうところじゃなくて外見ばかり見られて偏見とか持たれてたのかなーって」
「核心を突くことを言ってくれるな。そうだとは思うが」
「だからあたしだけはあすみんをちゃんと見ようって決めてたんだ!」
阿部恵美がいつか飯塚愛理は私を好いていると言ってたことを思い出す。普段から無邪気そうにしながらも、私の邪魔にはならない距離感で。ただそれでも周りの人と絡もうとすると邪魔して来ていたのは私が周りに無理に合わせようとしていたのを止めようとしてくれていただけなのかなと思うと、してやられたなと思う。
「愛理はそうして疲れないのか?」
「そりゃ疲れるよー、でもそれ以上に楽しいからいいんだよ」
「そうか。愛理が楽しいなら私も嬉しいよ」
「お?口説いてるのか?」
「口説いてほしいのか?気分が良いから少しは愛理の願いを聞いてやってもいいが」
「それならもっとあたしのこと見てほしいな」
先ほどまでの冗談めかした発言とは違って真剣な眼差しでこちらを見てくる視線を真っ向から受け止めるが真意は読み取れない。ただ本気でそう思っているのは伝わる。
もっと飯塚愛理のことを見てほしい。そう言ってるのに、私は深読みもシンプルにも考えてしまい言葉を詰まらせる。
「あたしの我儘だから聞かなくてもいいよー」
「愛理、私は…」
「あすみんは無理しなくていいんだよ、今まで色んな人の無理聞いてきたんだよね?」
確かに私は中学まではそうしてきた、自分が許せる範囲はそうしてきてはいた。今は違うと言いたい。ただ結局私はクロに関してもこのままの関係性でいいと思ってきている。
自分の意見よりも相手がそうなら仕方ないと諦めることを許容している。
「じゃああすみんが無理言ったっていいんじゃないかなってあたしは思うんだけどさ。難しいことあたしわかんないからさぁ、あすみんみたいに何でもできます!って感じでもなくて、すごい無力なんだあたしって」
「そんなことはない!私は愛理に救われていることもある。愛理はいつも私の気に障らないように配慮をしてくれていた。愛理にとって無意識かどうか定かではなかったが私には愛理がいてくれて良かったと思った時がある」
「それ、めっちゃ嬉しい!」
嬉しいと言いながら泣いて笑顔のその表情は、クロの笑顔とはかけ離れているが、美しいと感じた。
「あれ、涙が、おかしいなぁ」
「おかしくない、私は愛理がそう思ってくれて心底嬉しい。私が嘘を吐かないことくらい短い付き合いだが分かるだろう?」
「うん。分かる。だからほんとうに嬉しいんだぁ」
どこかで境界線を引いていた。私には好きな人とどうでもいい人しかいないのだと思っていた。それは家族も含めてそう思っていた。クロに出会ったときにその思いは強くなった。
でもそうではない、それだけじゃない気持ちがあるんだと愛理に気付かされた。気付かしてくれた。




