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七話

 朝になればいつもの日々を繰り返す。ただそれだけだと思っていたしその後に教室へ行けばクロがいるから元気になれると思っていた。

 ただ校門まで歩けば、私が昨日井口冴に言った通りの髪型をして明るく見える彼女が私に向かって手を振っている。


「おはよう」

「おはようございます!師匠、私なんか変なところないですか?大丈夫ですか?」

「それを聞きたくてここにいたの?というか教室へ行けば同じクラスなんだから会えると思うけど」

「教室へ行ったら彩ちゃんが先にいたら不安で…!」


 その犬みたいな仕草を教室で田中彩に見せてやれば気を引けるだろうに何故私に…。

 呆れの方が勝っていた為、適当に褒めて教室へ行こうとすれば手を掴まれて本当に大丈夫か何度も聞かれてきてさすがに邪魔だ。


 そのやりとりをいつの間にか見ていたクロが呆然としているのを見て別にやましいことはしてないのだが冷や汗が出てしまった。


「おはよう冴ちゃん、阿澄さん」

「おはよう」

「師匠!本当に大丈夫ですか?」

「だから私は師匠じゃない」

「八方美人…」

「クロ?何か誤解を生んでいる気がする。私は井口冴に無理やり捕まっているだけで」


 この駄犬のせいで変な誤解が生まれないかと心配になってしまうが、そのやりとりを見てジトっとしてた目から笑っていつもの好きな笑顔になるクロがいる。


「二人ともいつの間に仲良しになってたんだろ。知らなかったな。冴ちゃんもなんだかおしゃれしてるね」

「師匠のおかげです…!」

「師匠じゃない、それと変に絡んでこないで。あと気安く振れないで」

「それなら阿澄先輩と敬称させてください」

「普通にして、迷惑かけないで…あと疲れさせないで…」


 なんとか振り解いたはいいが、クロが私たちのやりとりを無言の笑顔で見ていたのだけが気になる。素敵な笑顔に間違いはないが、誤解されてるのだけは本当にやめてほしい。


 教室まで行くとさすがに元の鞘に収まるように田中彩のところに行ったから一息吐いたところで。


「あすみんおはよう!なんか疲れてるー?」

「君のおかげで更に疲れてしまいそう」

「久しぶりに名前じゃなくて君って言われた!?本当に大丈夫?」

「愛理はこうしてみると良くできた子だと身に染みたよ」

「そうかなぁ?ありがとう!」


 犬は犬でも飯塚愛理はちゃんと私の意思を汲んでくれる。ただそのテンションには付いていけないからもう少し落ち着いてほしい。阿部恵美は苦笑いをするだけだし、たまにはそっちに矛先が向いてもいいんじゃないか?


 疲れと一緒に校門で時間を潰してしまったせいか、チャイムが鳴る。

 HRが始まる時に委員会の説明がされ始め、やりたい委員になるように言われるが特にやる気はないので興味が無かったので聞き流して体育委員とクラス委員だけは今日決めるらしくやりたい人もいなかったので適当な人が選ばれていく。


 体育委員は飯塚愛理が選ばれたようで、動くのが好きそうだけど体力が大丈夫か少し危ういから男子には頑張ってもらいたい。


 HRが終われば、珍しく自信無さげに飯塚愛理が私の所までやってくる。


「体育委員だってあすみん~恵美も二人とも手伝って~」

「阿澄さんは忙しいんじゃないの?放課後すぐに帰ることばかりだったでしょ最近」

「そうだが…まぁ暇なときは手伝おう」

「お~二人ともありがとう」


 暇になるかは分からないが、クロのバイトが休みの時があればその時は手伝うくらいはして問題はない。

 体育委員を今日選んだのは体育祭が七月にあるからだろう。どうせなら六月にやればいいのにとは思うがそうしたら新入生が大変だからかとも納得はするが暑いのは好きではない。

 飯塚愛理が不満を垂れ流しながらくたびれているのを眺めて、今日から体育委員は会議とかあるらしい。


「来週には遠足だからがんばろうね」

「おー!遊ぶぞ!」


 一瞬で元気になるところを見ているとやはり扱いに慣れているなと阿部恵美の調教技術を井口冴に応用してみたいところだ。

 むしろなんで昨日の今日でここまで変化できるのか頭の中を覗いてやりたい。


 授業も順調に進んで昼休みになって、今日は一緒に食べるよね?という飯塚愛理の圧を感じて、今日私に予定はないんだが…。


「愛理は体育委員の会議があるんじゃないか?」

「え!?あれってお昼だっけ?」

「多田君はもういないみたいね」

「なんで誘ってくれないかなぁ一緒の委員なのに」


 それは同じ体育委員同士頑張ってほしい。

 走って飯塚愛理がどこかへ行くと、阿部恵美と二人きりになってしまう。思えばあまり二人になったことはなかったな。


「どうする?愛理が戻ってくるまで待つか?」

「んー、食べちゃっていいんじゃないかな?」

「そうか、ならば食べよう」


 クロ達も既に学食へ向かったようだし、今日は屋上へは行かなくて済みそうだ。何度も行ってるとどこかで生徒会長と出くわしそうで不安もあるし丁度いい。


 食べている途中で走って帰ってきた飯塚愛理が合流して一緒に食べながら独り言のように会議の内容を話してくれる。


「なんか実行委員決めるだけだったからすぐ終わった!」

「実行委員ってなにをするの?」


 平和な時間を謳歌しつつ食事を終えて、二人の会話に耳を傾けて昼休みも終わり、放課後まで変わり映えせずにスマホの通知が来ないことに安堵を覚えていたら。


 通知の内容をクロなら見たいが井口冴なら見たくないと思いつつ覗いたら井口冴からだったので溜息を我慢しながら内容を見れば『今日の出来栄えはどうでしたか?』すごくどうでもいい内容だった。


 『時間のかかることだから途中経過は報告しなくていい』とだけ返して、早々にクロのバイト先に向かう。


 今日もコーヒー一杯でクロの退勤まで過ごして、差し入れはどれにしようかなと悩んでいると、イチゴオレが売ってあった場所に新しくメロンラテが売ってあって、新作ならと思い買ってから外に出る。


「阿澄さんお待たせ!」

「待ってないから問題ない」

「いつも待たせてばかりだもんね」


 そういう話しではないが、働いてる姿を見ているだけで私は十分満足していると言う意味だ。伝わってはいないが。


「それにしてもびっくりしたよ、昨日の今日であんなに冴ちゃんと仲良くなってるなんて」


 思わず咳き込みそうになったがそれには深い事情しかない。とは言っても井口冴が勝手に勘違いして私が師匠扱いされてたくだりを説明するわけにもいかないしなんと言えばいいか。


「私が好きなのはクロだけだ」

「ぶふっ!い、いきなり、あ、でもいきなり言うのはいつものことか」


 メロンラテを吹いてしまった姿もいいなぁと思うのは私が段々と変態じみてきてないか自分で不安になってしまいながらクロが笑ってるならそれでもいいかとも思う。


「どうしてああなってたの?」

「相談を聞いたら勝手に師匠とか騒ぎ出しただけだ。何回もやめろと言ったが聞いてくれなかった」

「冴ちゃんて彩ちゃんにも最初そんな感じだったらしいよ?」

「そうなのか?田中彩だけにしてもらいたいものだ」

「慕われるのは良いことだよ。私には家来にしてやるとか言ってた時もあったかな」

「あの駄犬好き放題言ってくれるな」

「阿澄さんが言うと台詞に迫力あるね」


 わりと本気でそう思っていたからか、ただ冗談に思われたようで安心した。

 朝のことは誤解されてなさそうなので安心はしたが、井口冴が変な性格をしているということだけ分かって今回も可愛いだけで終わりそうだなと思っていたら。いつものように飲み干した容器を捨てて見送ったときにクロが私の手を繋いできた。


「どうしたのかな?」

「えっと、嫌じゃないのかなって」

「嫌ではないが?それがどうしたのかな?」

「なんでもないよ!またね!」


 なんだったのかは分からないが得をした。綺麗な手付きだったなと想像して、アイドルと手を繋ぎたがる群衆の気持ちを少しだが理解できた気がする。



 週末はバイトを覗けるわけでもないし、普段ならば寝るだけなんだが、家族から連絡が来て仕事を手伝ってほしいと言われたのでパソコンにデータが送られてきてそれの計算をすることになった。


 別に私に頼らなくてもいいだろうとは思うが、やれば給料のようにお小遣いが貰えるので早々に済ましておく。これもある意味バイトなのか?と思うが、なんか違う気もするし何とも言えない。私もバイトをするべきか?


 生活費は送られてくるし、お小遣いも貰えるし、それとは別に貰えると言った物だ。おかげさまで検定もいくつか取らされたりはしたが将来どうしたいかとかたまに聞かれるときは困る。


 別に親の後を継ぎたいとかは思わないし、今の生活に不満もない。働けと言われたら働くだろうが、多分先に大学を選ばれそうな気がする。

 高校は好きにしていいとは言われたから大学に関しては親の言われた大学に行かなければいけないだろう。


 まだ先のことながら他の人はどんな生活をしているのだろう?やはりバイトか?クロのようにしてみたい気持ちもあるがクロとシフトが被らないと多分やる気が一気に下がるだろう。


 いまいちテンションが下がってしまったので気分転換にクロの様子でも見に行くかと着替えてからコンビニへ向かう。自宅からだと時間はかかるが、何もしないよりはいいだろう。


 コンビニへ着けばさすがに忙しそうにしているバイト達を眺めてクロを探したら裏方をしている様子が少しだが伺えた。

 差し入れでもしてあげたいがバイト中は禁止のはずだから、暑くなってきた空を眺めてぼんやりしていると、ゴミ出しに出てきたクロと出会ってしまった。


「阿澄さんなにしてるの?」

「ちょっと散歩してただけだよ」

「そうなの?えと、今日終わるの夕方だから」

「そうか、じゃあ少し涼んでから夕方に来るよ、十七時でいいかな?」

「十八時までだから…その、来るの?」

「せっかくここまで来たから行くよ」


 そう言って私がいると邪魔になるだろうから近くに喫茶店でもないか調べてから時間を潰すことにする。

 バイト終わりを待つつもりはなかったが、会ってしまったら気分が変わった。家に帰ってもどうせすることは無いと思うが、スマホの通知で朝は父から、今回は母から仕事の手伝いというメッセージが届いてデータはすでに送ったと書かれてあったのを見てうんざりする。

 父の方は計算するだけでいいのだが、母の仕事は少し面倒なのであまりやりたくはない…。とりあえず今は外出中なので家に帰ったらやるとは返信しておいてコーヒーを飲む。


 ゆっくり過ごしていると時間になりつつあるのを確認してからコンビニへ向かう。


 差し入れをついでに何かないか別のコンビニにも寄って、イチゴオレがあったので買ってから時間ぴったりには辿り着いてだらけて待っているとクロが私服で寄ってくる。

 前回見た私服はボーイッシュな感じだったが今回は涼しそうな恰好だ。シャツにジーンズと言った感じでこれもボーイッシュと言えばそうなのか?と言えなくもない。


「休日にくるの珍しいね」

「少し疲れてね、散歩していたらここまで歩いていた」

「阿澄さんて毎日暇なのかと思ってた」


 それは平日ほとんどクロのバイトに付いてきていた日課のせいでそう見えるのだろう。あと実際に暇ではある。クロの好きなアニメを二倍速で見る生活はまだ継続しているから。


「差し入れ」

「わ、イチゴオレ探してきてくれたんだ。ありがとうね」


 少し温くなってしまってるかもしれないが美味しいと言って飲んでいるので良しとしよう。


「クロの方は毎日忙しそうだね」

「そうでもないよ?日曜日なんかは寝転んで一日終わることも多いし」

「しかし土曜日も働いているように見えるが?」

「月初めにシフト入れてもらって月終わりにはシフトはほとんど入ってないよ。さすがに勉強とかしないといけないし遠足もあるしね!行事がないときに入ってるからそう見えてるだけ」


 私が来てからは毎日いるような気はしてたが、五月はそもそも体調不良で初旬いなかったからシフトを入れてもらってたみたいな感じかな?

 というと六月は下旬になれば暇になると言うことか。どこか誘うか、勉強でも手伝ってあげるという名目で一緒に入れる時間があればいいが…。まぁ都合よくはいかないか。


「土曜日に映画を見に行った日は本当は予定があった?」

「まだ見習いだからシフトの変更はすぐにオッケーもらったから大丈夫!」


 力こぶを作ろうとしてるが一切筋肉の付いて無さそうな腕を見て少し笑ってしまう。

 それを見て恥ずかしそうに腕を後ろに隠してしまうので勿体ないことをしてしまったとも思う。


「阿澄さんなんか本当に疲れてそうだね。私で良ければなにかしようか?」

「んー…。そうだね、それじゃあ一緒に食事でもどうかな?」

「あ、そうやってまた私の借金が増えていくんだね」

「クロと一緒だと食欲が出るんだが、無理なら仕方ない」

「もう!そうやって…高いところは駄目だよ?」


 近場で安いところはなにかあったかな?と調べつつ、さっき見た細い腕から肉でも食べさせてやりたいなと思って唐揚げ屋があったのでそこに行くことにした。


「唐揚げ好きなの?」

「あまり揚げ物は食べないかな」

「じゃあどうして?」

「お持ち帰りが出来るらしい、家族と一緒に食べるといい」

「…なんか全部見透かされてる気分だなぁ」


 何も見透かした覚えはないが、何かが良かったのか笑顔になっているようなので良しとしよう。ついでに私もタンパク質を摂って帰った後親の仕事を手伝う気力を養おうと思う。


「大盛にしてもいい?」

「ふふ、食べれるなら構わないが?」

「私結構食べるんだよ?」

「それなら見応えがあるから楽しみだよ」


 休みが楽しいと久しぶりに思えた気がした。

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