四話
私には最近の日課がある。
日課とは言ってもただ学校帰りにコンビニに寄るだけなのだが。
「あのお客様…そろそろお帰りになられた方が…」
「もうそんな時間か、追加でコーヒーを買うから待っていてほしい」
「阿澄さん!私の勤務時間ずっと居座るのほぼ毎日だよ!?」
「それは仕方ないだろう。お互いの時間が上手く取れないなら私の方から出向くしかない」
「やってることストーカーだからね!?」
「嫌な思いをさせてしまったかな?」
「嫌ではないけど…むしろ心配だよ、勉強とか色々阿澄さんは忙しいだろうし」
「ではここで勉強もついでに済ませておこう」
「そういう問題じゃないけれど」とそう言って私が追加のコーヒーを買ってイートインスペースにて寛いでいると八木黒の勤務時間も終わりなのか、引き継ぎの作業をバイトの先輩らしき人と一緒にやってから裏のスタッフ入口に入っていく。
時間を見れば夜も遅いし、今日こそは送ろうと思ってコーヒーを早めに飲んでから、彼女に色んな物を飲ませてきた中で一番反応が良かったバナナミルクを買ってから外で待つ。
「阿澄さんお待たせ。ってまたバナナラテ?」
「飽きたかな?それなら違うものを買うが」
「買わなくていいよ!」
彼女が一服してバナナラテを飲み干すまで他愛ない話を互いにする。大抵はアニメの話しだったりするのだが、私のまだ見てないアニメだったら帰った後に徹夜して二倍速再生してからちゃんと履修するつもりだ。
そもそも私が彼女のバイト先にいるのも帰り道から推測して毎日学校帰りにコンビニを巡ってようやくバイト姿の彼女を見つけたからで。なんとか見つけてたはいいがどうしたものかと悩んだ末に堂々と入って寛ぐことにした。
学校では相変わらず朝の挨拶だけだが、それでも彼女の時間を独占できるこの時間が毎日の幸せではある。
「阿澄さんはさ遠足誰と班組むの?」
「遠足…あぁ、校外学習のことか。飯塚愛理が適当に人数を集めるとは思うが、八木黒は私と一緒に行きたいのかな?」
「それは…どうだろ?さすがに遠足なら何も起こらないから安全な気はするけど」
彼女の言う何かとは奢られたりすることだろう。あまり恩を売るような行為はしないように注意はしているつもりだが彼女からしたらそれは苦痛なのだろうから友達ならしてもおかしくない範囲に留めてはいる。
「それで?私と一緒に班を組みたいのかな?」
「それはまぁ組みたいとは思うよ…せっかく仲良くなったんだから」
「ぐふっ!」
「えええぇ、大丈夫!?」
「すまない、あまりのいじらしい可愛さに私の心が串刺しにされてしまったようだ」
「いつもそうやってからかう!」
実際かなりの威力だった。私としてはむしろ嫌われてしまっているのかなと思うくらいには強引に彼女へ付きまとっている自覚があるから予想外の一撃だ。
「しかしそれならそうと早く言ってくれたまえ。君と一緒に班を組もう」
「それって大丈夫なの?飯塚さんとか阿部さんとかは?」
「班は六人だろう?それとも君は私以外にも一緒に行きたい人がいるのかな?」
「それは彩ちゃんや冴ちゃんとは一緒に行けたらいいなって思ったりするよ」
「合計で五人か、あと一人空いているな」
「阿澄さんが勘違いしてるけど男女混同で三人三人の合計六人だよ?」
となると、私と八木黒とあと一人。男子は適当に呼びかければいいか。
「ふむ。しかしいいのかな?八木黒が私を選ぶと言うことは田中彩か井口冴どちらかを一人除いてしまうことになるが」
「うっ…それはそうだけど。できれば冴ちゃん誘いたいなって思うんだけど駄目かな…?」
「何故だ?」
「彩ちゃんは阿澄さんみたいに友達に困ってないけど冴ちゃんはあんまり他の人と絡んでないから」
同情か。とも思うが、実際校外学習が楽しいかどうかは一緒にいる班で変わってくるだろうし井口冴としてもそれが良いか。
「では井口冴を誘おう。男子はどうするか決めているのかな?」
「修二君に任せようとは思ってるよ」
それなら問題ないか。あいつも変な男を呼んでくるとは思わないし。というより横井修二は八木黒と一緒に組む約束でもしてたのか?さも平然と彼の名前が出てきたが。
「ぷはー」と彼女が話しが終わったタイミングでバナナラテを飲み干すとコンビニのゴミ捨て場に捨ててきて、ほんの少し名残惜しそうな表情をしてくれる。
最初の頃は『まだいたの!?』と迷惑そうな顔をしていたがそうじゃなくなったことを嬉しく思う。
「さて、今日こそは家まで送らせてもらおうかな」
「またそうやって…阿澄さんって家の方向反対なんだよね?」
「こう見えて格闘技を習ったことはあるから素人には負けないよ」
「うん。阿澄さんなら強そうとは思うけど…まぁいっか、私の家に来ても何もないよ?」
「ん?家の中まで入れてくれるのかな?」
「それはしないけど…」
残念だ。とはいえ、これもまた少し前進だろう。帰り道も一緒にいられるという喜びに話題は私の興味がないアニメの話しだが彼女が楽しそうにしているから私も楽しい。
家までわりと近かったのか、すぐに辿り着いてしまい中々古くボロいアパートだ。
「何号室なのかな?」
「201号室だけど、やっぱりボロいとか思っちゃった?」
「趣深い建物だと思うよ。遮音性に問題がないか心配になるけれどそれくらいかな。君が住んでるならここは黄金城だろうね」
「馬鹿にしてない!?私がとかのレベルじゃないよね!」
そんなつもりは一切なかったが。言葉選びを間違えてしまったか?まぁでも言い終わった後に笑いながら「阿澄さんらしいからいっか」と言ってるので良いだろう。
「八木黒は―」
「その八木黒ってフルネームで言うのどうしてなの?あ、遮っちゃってごめんね。気になっちゃって」
「別に深い意味はない。ただ伝わりやすいと思ってるからそうしてるだけだよ」
「じゃあ飯塚さんや阿部さんみたいに名前で呼んでるのは?」
「本人の希望があったからそうしている」
「じゃあ私もそうしてほしいな。毎回色んな人のフルネーム言ってるから意味があるのかと思っちゃった」
意味に関しては8クラスもある学校で同じ苗字がいる可能性とかを考慮した末なのだけれど、たしかに二人きりのときとかその人しかいない時にまでフルネームで言うのは効率が悪い。
「クロ」
「えと、ありがとう?」
「どういたしまして。クロは改めて聞くのだけど、田中彩と井口冴と一緒じゃなくていいのかな?私の方が付き合いは浅いと思うのだが」
「その、確かに一緒に周りたいけど、阿澄さんとも仲良くなりたいと思っているのはあるし、それに好きって真っすぐ言ってくれた阿澄さんだから安心してる部分もあるんだ」
存外に効果はあったみたいだ。
個人的に八木黒はコミュニケーション能力が最初は無いと思っていたが、あると分かってからはそれ以外の方法でアプローチを仕掛けようと思ったが。それでも言うのと言わないので小さな差ではあるかもしれないが言って良かった。
「何度でも言おう、私はクロのことが好きだよ」
「何度も言わなくていいよ!さすがに恥ずかしいし」
そういう顔もするんだなと収穫を得た。照れた顔も素敵とは素晴らしい。
「とにかく、遠足は一緒に周ろうね!」
「もちろんだとも」
校外学習の内容はたしか、本当に遠足と呼べる程度の内容で近くのアミューズメントパークを周る内容だったはずだ。
それにどんな学習を見出せと言うのか理解に苦しむが、デートとでも思えば都合が良い。
今日八木黒…クロから聞いたアニメを二倍速で確認しながらアミューズメントパークをどう巡るのが良いか効率重視にすべきか、それとも班全員の意見を纏めるか、どちらにしても最適解になるようにルートを確立させておこう。
最近…寝不足な気がする。
朝になって肌の荒れを確認してから、基本的には徹夜をすることが多くなって土日に関してはクロには悪いがコンビニは結構な頻度で忙しそうだからイートインスペースに居座るのは迷惑行為にしかならないので行かずに、その土日に休息を取ると言う生活スタイルが続いている。
食事に関しては問題はないが…いや、カフェインも摂りすぎな気がする。勉強は授業で済むとしてもこの六月に入ってからの生活は基本的にはクロと一緒にいることに重きを置いている。
それが原因で体調不良になればクロにも心配をかけてしまうかもしれないしもう少し寝る時間を増やしておかねば。
学校に行けば飯塚愛理が校外学習についての話しを振ってくる。
「あすみん!遠足のメンバーなんだけどさー」
「すまないが私は校外学習の班は決めているんだ」
「え?そうなん?誰と行くの?」
「八木黒と井口冴だ」
「いつの間に…もうあたし達三人決まっていると思ってたから油断してたぁ、なんかこの前もヤギッチ達と話してたもんね」
「いつも三人でいるわけじゃないけれど愛理の言う通り阿澄さんは私達と一緒に周るのだと思ってたわごめんなさい」
別に謝られることはされてない。私も数に含まれていると勝手に思っていたところはあるし。
この二人には田中彩でも勧めておくかとも思ったが、飯塚愛理は人付き合いが良いし、クロの言い分だと田中彩も人付き合いが良いらしいから放っておいても問題ないか。
「あと一人探すのは大丈夫かな?」
「大丈夫だよん。あすみん優しい!それならあたし達と周ってくれたらいいのに~」
「私は優しくないからそれはできない」
「あとで誘ってって言っても遅いからね!」
負け惜しみ風な言い方を残して他の女子の所へ行く飯塚愛理を見送って、残った阿部恵美がこちらを見て不思議そうな顔をしている。
「阿澄さんって何考えてるか分からないけど愛理のこと少しは気にしてあげてね。あの子、貴方の事大好きみたいだから」
「そうか。気に留めておこう」
好印象は持たれているのだろうが、飯塚愛理の場合はなんというか子犬がじゃれてくるような感覚だ。不快と言うほど不快ではないし、かといって私が待てと言えばちゃんと言う通りにしてくれる。
主従関係なんて思うがそれは飯塚愛理に失礼だなと思った。
だとすれば阿部恵美はどうだろうか?彼女との接点は飯塚愛理の傍にいるから常に一緒にいるようなイメージでしかないが、仲が良いかと聞かれたときに友達だとは答えるが真意は分からない。
阿部恵美そのものが私に対してどういう印象なのかも分からないし考えるだけ無駄なのかも。
クロが教室に入ってきてから人が集まっていく中あそこでも校外学習の話題が出たのか田中彩の「じゃあ私は別の子と一緒に周るよ」という言葉を率先して話しているのが聞こえる。
ただその時に。
「彩ちゃんが別なら私も…」
そう小さい声ながらも井口冴の言葉が出てきて困惑して想像以上に暗い表情を見せるクロとただただ困惑する田中彩の反応を遠巻きに眺める。
私からすれば別に井口冴がいようといまいとどうでもいい。ただ、それを周りに人がいるときに口にすることの意味を彼女は分かってないのだろう。
八木黒とは一緒にいたくない。そういう風に聞こえる人もいるだろう。もしくは阿澄雪と一緒に居たくないとも捉えられるが。この場合彼女の言葉足らずが問題だ。
どういうつもりであろうと八木黒の目の前で、田中彩と一緒が良いと言えば八木黒に矢面が立つ。
実際クロもショックを受けたような顔をしている…これは私にとってどうするべきか悩ましい問題だが一番大切なのは私にとってクロだ。それならば多少目立つように行動したほうが良いか。
私はクロの所に歩き、後ろから阿部恵美が「ちょっと?」と焦ったような口ぶりをしていたが場を納めるには目立つしかない。
「井口冴は私と周りたくないのかな?」
「えっ」
あえて挑戦的に言えば、クロに不憫などの視線が向けられることもない。むしろ私に対して対立してる構図が周りに見えるだけだ。
実際この言い方をすればさっきまでショックを受けたようなクロも、私の敵対するような物言いに集中してくれている。
「そうじゃないけど…」
「ではなんなのかな?田中彩がいた方が君としては嬉しいのかもしれないが、私としても君と一緒に周れたらなと思うが、君にとって田中彩は昔馴染みだったかな?それならば仕方ない気はするがどうなのかな?」
「いや…ちが…」
「阿澄さん実はそうなんだよね!冴ちゃんとは付き合いが少しあったから、多分人見知りだから高校からの付き合いだと萎縮しちゃってるんだと思うよ冴ちゃんは」
私の言い方に田中彩は合わせてくれた。
元から知り合いだから。人見知りだから。それなりの理由があればクロに不憫だという目線は無いし、むしろ目立った私が勝手に班決めしたかのように見えるだろう。
井口冴は大人しい性格なのか、声は小さいが先ほど私に合わせようとしてこなかったから期待はできないが田中彩が上手く場を収めてくれるなら問題は無いか。
「だ、そうだ。クロ、他をあたろうか?」
「え?う、うん」
とはいえどうしたものかな。適当に女子を一人集めるのは良いがクロは本来、井口冴を誘いたかったわけだから物静かな女子を誘いでもするか?
私がわずかに悩んでいたら、田中彩が手をポンと叩いて。
「阿澄さんはさ、飯塚さんや阿部さんと班組んでないんだよね?」
「そうだが?」
「それじゃあ二班合同で巡らない?そうすればみんな分かれることないよね?」
確かに元々私、飯塚愛理、阿部恵美の三人と八木黒、田中彩、井口冴の三人で勝手に人交換をしていたのが原因だったわけだが。先ほど飯塚愛理に断ってきたばかりだと思い振り返れば。
「あすみんがどうしても戻ってきたいって言うなら仕方ないなぁ!」
案外気にしてない様子だ。というか私が戻るって構図になるのかこの場合。
「阿澄さんはどうなの?」
「二班合同か…校外学習の規則も破ってないし問題ないだろう。田中彩と男子たちがそれでいいなら私はそれでいいと思うよ」
この場は田中彩と飯塚愛理に助けられた形か。さっきは戻ってきたいと言っても駄目とか言っていたから無理かもとは思ったが、本当に犬みたいだなと思う。
クロの方を見れば安心したような不安混じりの顔をしていて少し心配だが。当初の目的には近づいた妥協案だからどうか楽しんでもらいたい。




