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二話

 朝になれば、朝食の準備して食べた後は身だしなみを整えたりとして制服を着る。

 学校までの道のりは重い。結局八木黒と接点はないし、楽しみと呼べるものがそもそもない。


 教室まで来れば、クラスが8クラスあるこの高校の大きさを再確認して、いっそ八木黒の代わりになるような人を探すべきかとも思ったが、八木黒が教室に入ってきたのを見てから、代わりなんているわけないかと自分の心に嘘はつけないとばかりに好きだという気持ちを感じる。


 しかし思えば笑顔に釘付けになったりと八木黒の中身についてあまり知らないのに一目惚れしてしまった私は案外どうかしていたのかもしれない。

 異常と言えば異常だろうし一目惚れなんてそんなものと言えばそんなものかもしれない。


 八木黒が席に座る前に立ち上がって彼女の所まで行く。


「え」


 ほんの少し怯えた表情すら愛おしく思う私はどこか狂っている気がするが、それも些細な問題だ。


「おはよう」

「う、うんおはようございます?」


 不安と疑問を交えたその顔を見て、私が近づくにはまだ早すぎるようだと思って自分の席に戻る。


「阿澄さん、八木さんとなにかあったの?」

「一切合切、何もないが?」

「なんでちょっと不満げに言ってるの…」

「あすみんは優しいからなぁ、体調不良で四月はあまり来てなかったヤギッチが気になるんでしょ」

「なんでもかんでもあだ名付けなくていいからね愛理?」

「可愛いでしょ!」

「「可愛いか?」の?」


 思わず私と阿部恵美が突っ込みを入れてしまうが、やぎっちと呼んだ方が親しみやすいのだろうか?


「ヤギッチか…」

「阿澄さん真面目に考えなくていいからね。愛理のはいつものボケだから」

「ひどいな!?真面目だよ!」

「はいはい」


 しかし飯塚愛理の言い分は的を得てるかもしれない。私には愛想が無いし親しみやすさというのは案外必要なのかも。

 とはいえいきなり言われたら相手も困惑するだろう。実際私もこの愛理という存在に最初は困惑した。


***


 入学当初は特に新しい気分と言うのも感じずに教室に入れば少し視線が来るくらいだ。自分なりに見た目は普通よりは綺麗だと自負もしている。だからこういう眼差しは特になにも感じない。


 黒板に書かれた席に座ると先生の挨拶が来るまで暇を持て余していた時に屈託のない笑顔で飯塚愛理が近づいてきて。


「すっごい美人だね!あすみんって呼んでいい?あすみんはどこ中だったの?」

「えっと、君は?」

「あたし?あたしは飯塚愛理だよ!名前で呼んでいいから!」

「では愛理、私は南中に在学していたし、あすみんではなく阿澄だよ」

「そうなんだ!阿澄だからあすみんなんだよ!その方が可愛いしね!」


***


 それからは他のグループとも会話をやりとりしつつ、絡みにくそうな相手だけは避けて関わってきたが毎回の如く飯塚愛理が近くに来てみんなにあだ名を付けてから私と愛理、そして恵美が三人グループみたいな扱いをされ始めたりもした。


 私が声を掛ければ他のグループは受け入れてくれるが、飯塚愛理が毎回かき乱していくからあまり他のグループに関わらないようにはなってきたが。

 阿部恵美に関しては飯塚愛理と同じ中学で元から友達だったと聞くから小学校も同じで幼馴染と言う奴なんだろうと勝手に納得はした。とはいえこの破天荒な飯塚愛理に振り回されるのを良しとしてるあたりかなりのお人好しなんだろうとは思う。


「そういえば愛理が恵美のことをあだ名で呼んでるところ見たことが無い気がするが?」

「幼馴染だしねー。なんか今更必要?って気がするじゃん?」

「私としては変な呼び方されたら嫌だわ」

「ひどいよ~、ちゃんと可愛いのを考えてるのに」

「だとしても雑な呼び方だとは思うわ」


 既に親しいなら別に愛称がなくても良いと言う理屈だろう。それなら変に呼び方を変えるという作戦はあまりしたくない。できれば素のままで接したいから。

 この二人に関しても私がいきなりあだ名で呼び始めたらどう反応するか気になりはするがそれをする必要性はないだろう。


 その後は授業も行うし、昼食も二人と共にし、放課後も帰るだけになって、少しでも意識してほしいから八木黒が帰る前に何か言おうと思ったが、朝挨拶するだけでいいかと思って自分の帰路を進む。


 飯塚愛理と阿部恵美の二人は八木黒と同じ方面だから私は見送るだけだが、今日も何事も無く終わってしまった。



 あれから朝の挨拶だけをすることをして数日が経つ頃には少しは慣れてくれたのか「おはよう」と言うと「おはよう」と笑顔で返されるようになったので小さな一歩を前進したと感じて嬉しく思い満足する。


 それ以外の接点はないが、それでもいい。少しずつで良いのだから。


 ただ、八木黒のグループではアニメや漫画好きが集まる集団と言うこともあって男女が混合している。その中でも男子が八木黒に話しかけている姿を見ると、どうしてその立ち位置が私ではないのだろうと醜い嫉妬が胸に抱く。


「あすみんもめげないねぇ」

「何が?」

「毎朝ヤギッチにだけ挨拶するよね?何かあるのかなぁと思ったけどそれ以上は何もしないし仲良くなりたいのかと思ったら行動するわけでもないから何の意味があるのかあたしには謎だよ」

「別に、挨拶くらいはするんじゃないか?」

「いやまぁそうだんだけどさ?」

「愛理が言いたいのは阿澄さんは挨拶された人には挨拶するけど八木さんだけは自分から挨拶に行ってることを気にしてるんじゃないの?」


 わりと目立ってしまっていたか。ただこうでもしないと喋る行為が一回も無く一日が終わってしまう。私にとっては大分苦痛だ。

 できれば私にとって妥協できるラインを選んでるつもりなのだがそれでもこの二人が気にしてると言うことは周りもそういうのを気にしなくはないだろう。自分のことばかりで八木黒に不快な思いもさせてしまっていたかもしれないと思うとそれは心苦しい。せめて頻度を下げるか?


 結局良い解決法が見つからないままHRが始まり、普段通りの生活になる。


 授業中に何度か八木黒の方を見るも、真面目に授業を受けているだけだ。

 これ以上を求めてはいるが、求めようとはしていない。それで私は妥協した。いや、妥協してることが私にとっておかしい事なのかもしれない。

 今まで私は手に入れたいものはほとんど手に入れてこれた。それは家の力もあったかもしれない。それは金の力でしかなかったかもしれない。とはいえ自分磨きもしっかりとし相手に対して不快な思いをさせないようにも努力をしてきたはずだ。


 今の自分は自信が無くなってしまった抜け殻みたいなものでしかないならそれは私ではない。私らしく生きるために私の欲求のために行動しなくてどうするのだろうか。


 とは言ってももちろん何か作戦があるわけではない…。


 昼食の後に飯塚愛理がいつも通り元気にはしゃいでるのを見ていると、なんと八木黒が私の方に近づいてきた。


「あの阿澄さん、少し時間貰ってもいいですか?」

「もちろんいいよ」

「え、うん。それならよかった」


 願ってもない。まさかだ。まさかすぎる彼女から私の方に来るなんて思いもしてなかった。今年の運気は全てここで使い果たしたと言っても過言ではない。


 呼ばれて廊下の方まで行けば、八木黒のグループである男女がいて、何のために呼んだのか分からずにいると。


「えと、みんなで遊びに出かけないかって話しが出てて阿澄さんもどうかなって思ったんだけれどどうかな?」

「みんなとは、ここのみんな?」

「そ、そう。やっぱり飯塚さんや阿部さんがいた方がいいかな?」


 何故あの二人の名前が出てきたか分からないが、そもそもここにいるのはいつものアニメ漫画好きグループのはずで私には挨拶の接点しかない。それは八木黒にも言えることではあるのだが。

 とはいえ八木黒がいるのなら断る理由にはならないしもちろんオッケーだ。


「問題ない。しかし遊びとは?」

「それは僕から説明しましゅ!」


 噛んだな。


「いたた…えっと阿澄さんが妖滅殺を見ていると聞いてみんなで映画を見に行かないかという話しでございます!」


 たしかに私が八木黒が見ているかもと言う話しで全部見たアニメだ。それの映画上映を二人で一緒に見るために記憶はしたが、いやこれはむしろチャンスと捉えるべきか?どうせこのままいけば二人どころか一緒に出かけることすらできなかったことを考えれば今は少しでも藁に縋りたいといった状況だ。


「嬉しい誘いだよ。そのために呼んでくれたんだね?八木黒は」

「え?私というか、その…」

「あ、誘おうと言ったのは俺っす!なんか八木ちゃんと阿澄さん仲良さそうに見えたんで」


 少し整理しよう。

 まず噛んだ奴が眼鏡の田辺 健ーたなべ けん-

 アニメとか見てなさそうなチャラい外見に見える、私を誘おうと思ったのが横井 修二ーよこい しゅうじー


 この二人とはそこまで接点がなかったが挨拶程度は交わしたくらい。それで八木黒を使って私を呼び出した…。理由は分からないがアニメ好き仲間が欲しかったのか?


「まぁ、せっかくの誘いなんだ。私も喜んで参加するよ。それで八木黒、いつ集まればいい?」

「あ、私はその、一緒にはいなくてみんなで遊ぶ予定だったみたいだから私の代わりに阿澄さんどうかなって受けてもらえて良かった」

「そうか、それなら行くのを辞めるとしよう。すまないみんな」

「え」


 実につまらん。八木黒がいると思ったから喜んで損した。


「待って待って阿澄さん。俺八木ちゃんの分もチケット買うからさ、八木ちゃんも一人だけ来ないの寂しいでしょ?八木ちゃんと阿澄さん一緒に良かったら行かない?」

「私の分も?それは悪いよ」

「そうだな、八木黒の分は私が払おう。そして八木黒が一緒に行くなら私も行こう」

「え、ええええ」


 なんでこいつに私のポイント稼ぎを邪魔されなければならないのか不服でしかない。邪魔したいのか協力したいのかどっちなんだこいつは。


「八木ちゃんどう?なんなら食事も奢るから」

「私は別にそこまでしてもらわなくても」

「その通りだ。食事も私が奢るから問題ない、八木黒に関して君は何もしなくてもいいが映画には誘ってもらわないと困る」

「なんで阿澄さんまでそうなってるの!?私まだ行くなんて言ってないよ」

「行かないなら私は行く理由がない」

「えええええぇ…」


 何が悲しくて見知らぬ奴らと、ただでさえそんなに興味があったわけでもない映画を一緒に見なければならないのか。

 ただ八木黒がうんうん唸っている姿を見て可愛いと思いながら、隣で横井修二もなにがどうなってるのか困惑してる様子が見れる。


 他の女子たちもなんだか困った様子を見せているし、何がしたかったんだろうか。


「じゃあみんなで行きましょう?」


 八木黒と横井修二が悩んでいる間に割り込んだのは様子を見てた女子の一人。田中 彩ーたなか あやー


 クラス全員の名前を覚えてはいるが、田中彩は八木黒グループにおける中心人物なのか、その言葉に大体の人は納得している。

 リーダーシップが取れる人物がいるなら最初からその人が進行すればいいのに横井修二が変に出てきて話しがこじれるじゃないか。


「黒ちゃんが来れば阿澄さんも来るんでしょう?」

「その通りだよ田中彩」

「私の名前覚えてたんだ…凄いね」

「クラスメイトの名前くらいは全員覚えている。それで八木黒は来るの?」

「み、みんながそれでいいなら」


 はにかんだ笑いも可愛い。毎朝挨拶をしてきて良かった。すこしでも報われる行動をしてきた結果が実ったときに達成感は得られる。


「なになにー何してるのあすみんと…ヤギッチ以外にも多いな!なんだなんだ!?」


 私が中々戻ってこないから飯塚愛理が暇なのか顔を出してきて相変わらず騒がしい様子を見せる。

 予定が曖昧なままだと私が参加できないので聞いておこうと思うと田中彩くらいしか対応してくれなそうなので八木黒じゃないのが不本意ながら聞いておく


「それでいつ?」

「結構人気な映画だから今からチケット買うなら六人分空いてるかな?」


 六人というのはもう一人いる女子、井口 冴ーいぐち さえーのことだろう。

 勝手に騒いでる飯塚愛理に関してはアニメを見てないから呼んでも意味はないだろうし。


「あ、今週の土曜日昼は売れてるから無いけど午前のやつ丁度空いてるね。それで黒ちゃんの分は阿澄さんが買うの?」

「もちろんそうするつもりだよ」

「そ、そう。まぁそれでいいならあとでいいからチケット代くれる?」

「今ここで渡そう。金銭事はあとに回すと面倒になることが多い」

「そ、そう」


 普段から財布は持ち歩いてる。とは言っても学校と言う場所なだけあって一万円を千円札で十枚揃えているだけだが、学生にとっては大金だろう。

 釣りはいらんと断っておいて渡しておけばこのグループで印象も多少は良くなるだろうと反論を許さぐに渡しておく。

 ここまでしておけば八木黒も来ざるを得ないし私にとってはとても素晴らしい日になるに違いない。


「あの阿澄さん、本当に奢ってもらっていいのかな?」

「むしろちゃんと来てくれなかったら私はその日のうちに帰ることにするよ。だから楽しみにしている」

「そんなに!?う、うん行くよ」


 あぁ、楽しみだ。しかし浮かれてばかりもいられないか、ちゃんと身だしなみを整えておかないと。それと。


「もし風邪になったら無理せず休むといい。その時は私が見舞いに行こう」

「そうなったらみんなで映画楽しんで!?私のことはいいから」

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