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十四話

 待ち合わせ時間は昼時と言うことになって三十分前には到着したので夏の暑さって去年もこんなに暑かったかなと息を吸う度に暖かい空気が肺に入ってくる。


「あすみーん!なんか早くない?」

「今来たところだ」

「ほんとう?」

「本当だとも、むしろ愛理も早くないか?三十分前だが…」

「楽しみで中々寝れなくて!」


 その理論で行くなら寝坊して遅刻してくるんじゃないのか?ずっと起きていたのだろうか。

 目元を見ても隈らしきものは無いし何かメイクをしてる様子もない。


「そうか、よく分からないが、一旦涼んでからにしようか?」

「そうしよう!あそこの喫茶店にしようよ」

「構わないが」


 いつか映画を見た時に私が居座っていた喫茶店だ。

 決断が早いな。彼女なりに今日のプランを考えてきていたのかな。


 喫茶店の冷房に二人で涼しみを感じながら、メニュー表を見て季節限定などもあるがそれらを無視してアールグレイを頼むことにした。


「ご飯とかはどうする?あすみんが他に食べたいところなければここで済ませちゃう?」

「愛理はどうなんだ?お腹が空いてるならここでいいが」

「んー、そうだなぁ…ガッツリしたものが食べたい!」

「じゃあ水着を選んだあとに食事だな」


 そうして愛理が頼んだのは季節限定のパフェらしく、それを美味しそうに頬張っている。

 クロは体形を気にしてたみたいだが愛理はそんなことはなく好きな物を食べるようだ。というよりもパフェなんか食べて昼食でガッツリしたものと言われたら胃袋大丈夫なのだろうか。


「あすみんも一口食べる?」

「美味しいのか?」

「美味しいよ!?不味いと思ってる物を勧めたりしないよ!」

「それじゃあ頂こうかな」


 一口食べてみれば果物のエキスがホイップクリームに程よく付いていて一緒に口へと含んだブドウが冷えていて十分に美味しい。しかしボリューム的に愛理の体とパフェを見比べてよくそんなに食べれるものだと感心する。


「間接キスだ!」

「ぶふっ!…君は何を…」

「言ってみただけ!」


 冗談にしても反応に困るから変なことは言わないでほしい。

 甘くなった口の中を紅茶で流してすっきりとさせてから、愛理の食べっぷりを眺めているとパクパクと食べていく姿がどこか微笑ましく思う。


 食べ終わった後は十分に涼んだので、そのままモールの中へ入ってから水着が売ってる箇所を巡って愛理が気に入るものがないか探していく。


 本人としては可愛いものを選びたいそうだが、たまに際どい水着をちらちらと見ているからどう勧めていいのか分からないから眺めているだけだが、こういう時に何か言ってあげた方がいいのか悩む。


 ただ私も私で愛理には何が似合うかなと見ていると勝手なイメージで小柄な愛理にはフリルの付いた水着が似合う気がして声を掛けるか迷っていると、愛理の方が際どい水着と普通のビキニを両方持ってきて恥ずかしそうに赤面しながら私に問いかけてくる。


「あすみんは…どっちが好み?」

「少なくとも愛理にはもっと清楚な方が似合うと思うが?」

「そうかなぁ?高校生になったんならもう少し攻めろって聞いたんだけどなぁ」


 誰から聞いたんだ。


「こういうのは駄目なのか?」


 私がさっきまで見ていた水着を差し出して見せれば、愛理は悩ましい顔をしている。これは駄目かもしれない。


「家にある水着がこういうのだから新しいのにチャレンジしてみようかなって思ったんだよね」

「そうか、それはすまない」

「あすみんはあたしがそういう着たら嬉しいの?」

「嬉しいというか似合いそうだなと思っただけだな。というよりもさすがに露出するにしてもその紐にしか言えない奴はプールと違って海だときつく結んでおかないと脱げるかもしれないぞ」

「それは困る!」


 意外に波で緩んでしまうこともあるからそのことを言ったら際どい方はすぐに収めに行った。あくまで一例として言っただけだが、変な水着を買うよりはいいか。


 結局悩んだ末に背中をクロスストラップした水着を選んで終わった。無事買い物も済ませたし、あとは食事を済ますだけかと思っていたら愛理が赤面しながら。


「あの水着あすみん着てみない?」

「断る」

「ちぇっ!」


 何を言うかと思ったら何故私が着なければいけないんだ。しかしこういう時友達同士で試着し合って確認したりしたかったのかなと思えば可愛げのある方か。着ないが。


 食事と言ってもガッツリしたものとは何だろうかと悩んでいると、ふらふらとフードコートに歩いていく愛理に付いていけばステーキが売ってるところを選ぼうとしてるようだ。

 フードコートで食べるなら私も好きな物を選ぶと思い周りを見るが特に食べたいものも無かったから愛理と同じステーキを食べることにする。


「あすみんが肉を食べている!」

「私がまるで草食動物みたいな言い方はやめたまえ」

「なんかサンドイッチとか食べてるイメージなんだよね」

「ここに売ってる物は精々似た物はハンバーガーくらいしかないが」


 今日会ってから愛理はずっと笑顔が絶えることなく楽しそうにしている。二人で買い物となったときは少し不安もあったが大丈夫かもしれないな。


「あすみんは海楽しみ?」

「まぁそれなりには楽しみだな」


 雑談も交えながら食事が終わり、これからどうするかという所で愛理がゲームセンターに寄りたいと言い出して、一緒に行けば相変わらずのうるささに少し耳が痛いが、これもゲームに集中させるための商売戦術だったりするのか分からないが愛理は楽しそうにUFOキャッチャーの商品を見ていく。


「どれか取るのか?」

「取れそうな奴ないかなって探してるだけだよ?欲しい物は大体とれないからさ」

「そうなのか?どれが欲しいんだ?」

「んー?あの人形とか?」


 言われて見れば、猫のようなアザラシのような生き物に羽が生えている。不可思議な生き物を考えるものだ。飛ぶのか泳ぐのか絶妙なラインだと思う。


 私が試しに五百円入れて六回プレイにして何度も掴もうとするがするりと抜け落ちていく。


「あすみんいきなりお金入れたからびっくりしたけど簡単に取れないからやめとこ?」

「まぁ簡単に取れたら商売してる側も儲からないからな。どうせ確率機だ。何回もやればいずれ取れるさ」


 十三回目になって取れたのでそのまま愛理に手渡す。


「いいの?」

「私は使わないからな」

「ありがとう…めっちゃ大事にする!」


 この人形がそんなに好きなのか抱きしめて嬉しそうにしているので安い買い物をしたと思えば十分だろう。

 残り回数五回残っているが他に欲しい物もない為そのまま放置してゲームセンターを後にして愛理の荷物が多くなったことが少し気になるが。時間的にも今から帰れば遅くなることもないし頃合いだろうと思う。


「そろそろ帰るか?」

「もっと遊びたい~」

「とはいえ、他に遊ぶと言ってもな…」

「カラオケでも行く?」

「また別の日に行けばいいだろう。愛理の家はここから遠かったはずだが?」

「バスだから大丈夫だよ?でもそうだね別の日に行けばいいんだよね!」


 何に納得したのかは分からないが、バス停までは見送るかと思い付いていけば。愛理が真面目なトーンをした声でこちらを見上げてくる。


「あすみんはどうして人形を取ろうと思ったの?」

「欲しかったんじゃないのか?」

「欲しかったけど、あすみんは別に取らないって選択もあったよね?どうして取ろうと思ったのかなって」


 どうしてと聞かれても、取れると思ったからなんだが…。真面目に聞いているというのは分かる。だがそれ以上の言葉が見つからない。


「あすみんはあたし以外でも同じことをしたのかな?」

「人によるとは思うが、そんな簡単に同じことはしないな」

「でもヤギッチにはするんだよね?」


 何故そこでクロの名前が出てきたのか聞いてしまえば核心的なことを言わなければならない気がした。

 私にとってそれを言えば状況が色々変わってしまう。


 そしてそれ以上に愛理はこんなに踏み込んでくる発言をしてこなかったのに今は何故かしてくる。


「愛理は嬉しくなかっただろうか?」

「嬉しいよ?あすみんがあたしのために取ってくれようとしたことも嬉しかった。今日だって何一つ文句言わないで一緒で嬉しかった。海だって、プールの方があすみんにとっては楽なはずなのにわざわざ旅館まで手配してくれて嬉しかった。別にあたしプールでも良かったんだよ、でもまた我儘言っちゃった」

「我儘だとは思っていないよ、私が二択を聞いたのだから」

「ううん。そうなんだけどそうじゃなくて。あすみんはどうしてそんなにいつも真面目なのかわかんないんだよね」


 クロの話しから逸れたのはいいが、段々と分からなくなってきた。

 私がいつも真面目というのは普段の行いに関してなのだろうけど身に覚えがない。


「あすみんは何のためにみんなと一緒にいるの?」

「特に意味を求めて一緒にいるわけではないが、質問を返すようで申し訳ないが愛理は何か理由があって一緒にいるのか?」

「あたしは…あたしがしたいことをしてる。でもあすみんはしたいことをしてるって言うけど、あすみんは海に行きたかった?今日も買い物に付き合ったのはあすみん他にしたいことはなかった?」

「たしかに聞かれればどちらでもいいと言うような曖昧な答えになるが、私はそういう選択をして後悔はしてないよ。今日も愛理と一緒に買い物をして楽しいと思っている」

「なんて言えば伝わるんだろう。ごめんねあすみん。あたしあんまり上手く言葉にできなくて」

「謝ることじゃない」


 当初の目的で言えば井口冴のサポートを全力ですると決めたからだったが、それなら井口冴にどちらがいいか聞けば良かったし愛理に聞いたのはもしかしたら負担になっていたかもしれないな。

 愛理のことを…いや。


「愛理のことを知りたいと思ったから一緒にいるし、愛理が海とプールどちらが好きなのか知りたかったから聞いた。海を選んだのは可能な範囲だったからだ。買い物もそうだし、そのよく分からない人形も愛理が好きだというのだから思い出になるかと思って私があげたかった。ただ私は愛理のことを知りたいと言っても私もどう言葉にしていいか分からないんだ」


 クロのことに結びつきそうな言葉になってしまうとき私は大抵言葉を濁している。だけれど本質的に愛理の事を知りたいと思っている根底を言葉にしていなかったと気付いて出来る限りの言葉を尽くしたつもりだが。

 愛理はなんともいえない表情で「そっか」と呟く。


 私も私でちゃんと伝わったかは分からない。愛理に分かりやすくもう少し言葉を選ぶべきだっただろうか?それとも今ので少しは伝わっただろうか?


「あすみん…!あたしのこと意識してたんだね!」

「は?」


 いつもの元気な姿になったかと思えば急に満足そうな顔になっている。


「何言ってもあすみんは、それが当然というような態度してるから、これっていつものあすみんなのかな?それともあたしに対してのあすみんなのかな?ってうじうじ悩んじゃってたんだ」

「そ、そうなのか?愛理に対しての私とはなんだ?」

「それはあたしを意識してるかしてないかだよ!」


 つまり愛理のことを見てほしいと言う言葉をちゃんと実行してるか否かという話しだろうか?

 とはいえ毎度のことながら愛理が真剣な声色になるとこちらは緊張してしまう。次は何を言われてしまうのだろうかと身構えて、返事を急いでしなければと思ってしまう。


「あすみんはきっと今も難しいこと考えてるんだと思う。それでもあたしはもっとシンプルでいいんだと思うんだよ。だからあすみんは変わらないでね」

「人はそう変わろうと思っても変わらないものだよ」

「そういうとこだよあすみん!いきなり変わっちゃうことだってあるんだから」


 人の評価みたいな話しだろうか?世論がこういえば黒も白になるみたいな。

 いやシンプルでいいと言うならもっと違うものなのか?余計に分からなくなってくる。


「それでもあたしはあすみんがどう思っていても嬉しいものは嬉しいので今日は一日ありがとうねあすみん!」

「そうか。それなら良かったよ」

「うん!」


 バス停までの道のりがこんなに長く険しいとは思わなかった。相変わらず愛理は何を考えているのか分からないが私ももう少し愛理のことを主張して質問できるように心掛けたいとは思っているが、上手く実行には移せないものだな。


 バス停に着けば今日一日がどう楽しかっただのと他愛ない話をしてから愛理を見送って。私も帰路に着く。


 帰りの最中、コンビニに寄ってみるかと思って少し遠回りをしてコンビニへ着くが、どうやらクロはもう帰ったかいなかったので、家に帰る。


 今日一日だけで疲れてしまったが、結局最後の愛理は私に何を求めていたんだろうか?

 クロにも同じことをしたかと聞かれたと言うことは独占欲みたいなものか?しかし今までは愛理にそんな予兆は感じなかったし、私が普段通りにしていて構ってほしいみたいな動作は…。


 直近で言えば毎日通話を掛けたいと言い出した時か?

 思えばこれも独占欲の一種かもしれないが、本当に毎日通話を掛ける気なのかは分からないが愛理が人は変わると言ったように、愛理自身が何かしら心変わりしたから私はどうなんだと言いたかった?


 考えても分からない。


 というよりも、今日行ったところへクロと一緒に行くとなると愛理みたいに急に真面目な話しになったらどうしようかとシミュレーションして考え込んでしまう。


 とは言ってもクロは私が誘った側だ。どうにか楽しんでもらいたい。

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