始まりの星々
もし、人智を超越した能力を手に入れたら、皆んなはどうする?
世のため、人のため、誰かの助けになるようにその力を振るうだろうか。
それとも、自分の欲望に忠実になり、私利私欲の限りを尽くすためにその力を悪用するだろうか。
この物語はそんな、ある日突然特別な能力に目覚めてしまった人々を描いたお話である。
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「あの、すみません。」
「ゲッ、、、な、、何ですか?」
「書類に記載漏れがあったんで、書いてもらって良いですか?」
「あ、、はい、今書きます。」
今日はこの学校、誠清学園の文化祭『誠清祭』の前日ともあって、学園の生徒全員が出店などの仕上げ作業にせっせと取り組んでいた。
6月27日、夏まっしぐらの気候で誰もが汗をダラダラと流しながら、それでも一生懸命に作業に取り組んでいる。
そんな時に話しかけるのは気が引けたが、これも大事な仕事だから仕方が無い。
生徒会の一員として手を抜いた仕事なんて出来ない。
「か、書きました。」
「ありがとうございます。作業頑張ってください。」
「は、、はぁ、、、」
僕は書類を受け取り、それを生徒会室へと持ち帰りに行く。
「ふぅぅぅ、、殴られるのかと思ってヒヤヒヤしたわぁ、、」
「何であんな奴が生徒会なんかに、、」
「ねぇ?生徒会があいつに何か脅されてたりするんじゃない?」
皆んなが好き勝手言ってる。やるならもう少し聞こえない場所で話をして欲しいんだけど。
無心で歩いているとすぐに生徒会室に辿り着いた。
ガラガラ、、
「ただいま帰りました。」
「うぃぃぃ、、ご苦労、勇気君。暑い中ご苦労さん〜〜。」
「ちょっと人上先輩、だらしないですよ。勇気君、ご苦労様。冷たいお茶用意してあるから飲んでね。」
「ありがとうございます、皇先輩。」
生徒会室に入ると、暑さのせいで机の上に突っ伏している生徒会長、人上正義先輩と、書類のチェック作業をしながらお茶を淹れて準備してくれていた副会長、皇撫子先輩が出迎えてくれた。
人上先輩は3年で最上級生、皇先輩は2年で僕よりひとつ上の先輩である。
「勇気君、いつも言ってるけどそんな堅苦しくしなくて良いからね。普通に名前の方で呼んでもらって良いし。皇って名前、仰々し過ぎてあまり好きじゃ無いし。」
「か、考えておきます。」
「そうだぞー、勇気よ。畏まらなきゃいけないような奴はこの生徒会にはいないからなー。」
「人上先輩はもう少しシャキッとしてください。」
人上先輩は180cm近くの高身長で身体も鍛えられていて顔も整っていてカッコいい。バスケ部からの誘いも来ていたらしいがそれを断って3年間ずっと生徒会に入り続けている。
学業も優秀で学園の生徒から絶大な信頼を得ている。特に女子人気はとんでもなく高い。
だがそんな人上先輩は生徒会室の中ではダラけている事が多い。僕も初めは『コレが本当にあの人上先輩なのか?』と疑ってしまった。
だが仕事の手腕は本物でリーダーシップもあるから少しの欠点なんてすぐに打ち消されてしまう。
僕は密かに人上先輩に憧れている。人上先輩のように自分の実力で皆んなに認めてもらう、そんなカッコいい人間になりたい。
「勇気君はあんな人になっちゃダメよ。」
「ははは、、、気を付けます、、、」
一方の副会長、皇先輩も容姿端麗で成績優秀、運動神経も抜群。伸ばしている黒髪をいつもポニーテールに結んでいて、これが皇先輩のトレードマークになっている。
どの男子生徒も必ず一度は惚れると言われる美貌を兼ね備えた皇先輩は、隙あらば告白を受けているけど全員お断りしている。
かく言う僕も数多いる男子生徒と同じなのだが、告白はしていない。
「まったく、、、あのだらしなさが無ければ完璧なのにね、、、ほんと。」
ちら、と皇先輩の表情を見る。
嫌でも分かってしまう。彼女が彼に向ける顔は、特別なモノなのだと。
「ここが一番落ち着ける場所なんだから、好きにさせて欲しいねぇ。さ、我らが副会長のお小言がうるさいし、パパッと仕事終わらせちゃいますか。明日は生徒たちにとって大事なイベント、学園祭だからな!」
人上先輩の号令で僕たちは書類のチェック作業と学園祭の段取りを再確認していく。
誠清祭には外部からたくさんのお客さんが来る。何かトラブルが起こった時に率先して対処しなければいけないのは僕ら生徒会だ。
責任は重大、きちんと学園祭を成功させなくては。
「頑張りましょうね、勇気君。学園祭が成功すれば、勇気君への評価も少しは変わるはずよ。」
「ありがとうございます、皇先輩。でも、とりあえず今は先輩たちと一緒に2日間頑張り切る事だけ考えます。」
「勇気!期待しているからな!」
頼りになる2人の先輩と一緒、それだけで僕はすごく満ち足りた気分になっていた。
いつか2人に恩を返していきたい。
そのために、まずは明日の文化祭の成功と言う目標を達成するぞ!
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「じゃ、お前たちも早く帰るんだぞ。夜道は危ないからな。俺はこれから用事あるから、、それじゃ!」
「お疲れ様でした、人上先輩。」
「お疲れ様でした。」
学園内の見回りを終え、僕たちは学園から出る準備をしていた。
「忙しい人ね。勇気君、駅まで一緒に行きましょうか。」
「は、はい!」
人上先輩が先に帰ってしまったため、必然皇先輩と2人きりになってしまう。
「勇気君は初めての文化祭かぁ。難しいかもしれないけど、出来れば勇気君には楽しんで欲しいな。」
「そんなに凄いんですか?ここの学園祭って。」
「うん、凄いよ。人もたくさん来るし、把握してるとは思うけどお店もたくさん出るし。ワイワイしてて楽しいの。」
「そう、、ですか。」
「そうだ!せっかくだし、仕事が落ち着いたら一緒にお店回ろっか!」
「い、いや!良いですよ!」
「えー?どうして?」
学園屈指の人気者な皇先輩と一緒に文化祭回るとか、更に僕への印象が悪くなりそう。
、、、特に男子から。
「僕なんかより、、、人上先輩誘ったらどうですか?」
「うぇぇっ!?!?ちょちょ、ちょっと!何でいきなり人上先輩の名前が出てくるのかなぁ?」
人上先輩に好意を抱いている事がバレてないと思ってるんだろうな、、、
自分で認めるのは少し悲しいけど、皇先輩と人上先輩はお似合いだと思う。僕なんかよりずっと。
皇先輩は僕の事を救ってくれた恩人だ。そして僕を受け入れてくれた人上先輩も。
だから僕は先輩たちの恋路を応援したい。
僕の気持ちなんか知った事では無い。
「、、、、、でも人上先輩、色々と忙しそうだし、、」
「何事もチャレンジですよ。」
「べ、別にチャレンジするとは言ってないけど、、考えておこうかな。」
僕に特別な顔を向けてくれる事は多分無いだろうし、向けてくれなくたっていい。
大切な人たちが幸せでいてくれる事。それが僕にとって一番の幸せだ。
「はぁ、すっかり暗くなっちゃったね、、って、、ん?」
「ん?どうかしたんですか?」
「勇気君!上見てごらん!」
「、、、上?」
皇先輩がしているように僕も夜空を見上げる。
すると。
「うわぁぁぁ、、、!!」
力強く青緑色に光り輝きながら、たくさんの星が流れていた。
「今日って流星群が見れるとか言ってたっけ?」
少し興奮気味に皇先輩が尋ねてくる。
「いや、そんなニュースは聞いてないですけど、、」
流星群によって夜空は明るく照らされ、幻想的な光景が続いていた。
「綺麗だね、、、」
「はい、すごく、、、」
僕と皇先輩は流星群が流れ終わるまでの間、ずっと夜空に見入っていた。
僕も気持ちが高まっていたんだろう。
明日から今までとは違う日々が始まるかもしれない、と胸に期待を膨らませていた。
そしてその予感は見事に的中し、この日を皮切りに僕らの日常は一変する事になるのだった。