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第十八話:新しいスタートライン ~それぞれの道、共に歩む道~

あの雨上がりの朝、弥生さんと互いの想いを再確認し、未来への誓いを交わしてから、俺の世界は再び色を取り戻した。いや、以前よりもずっと鮮やかに、輝きを増したと言った方が正しいかもしれない。彼女という確かな光が、俺の進むべき道を明るく照らし出してくれているようだった。


結局、応募できなかった新人賞。その主催出版社から、思いがけず「話を聞きたい」という連絡をもらったことは、大きな驚きであり、そして、新たな希望となった。編集者の方と直接会い、自分の作品について、そして今後の可能性について話を聞くことができたのだ。もちろん、すぐにデビューが決まったわけではない。まだまだ実力不足であることも、改めて痛感させられた。


それでも、「君の作品には光るものがある」と言ってもらえたことは、自信を失いかけていた俺にとって、何よりの励みになった。そして、俺は決意を新たにしたのだ。もっと、良い物語を書きたい。もっと、多くの人に読んでもらえるような、心を動かす物語を。


弥生さんは、そんな俺の挑戦を、誰よりも喜んで、そして力強く応援してくれた。

「すごいじゃない、航くん! やっぱり、才能あるんだよ! きっと、大丈夫。航くんなら、絶対に夢を叶えられるよ」

彼女のその言葉だけで、俺はまた前を向くことができた。


執筆活動も、以前とは違う、新しい段階に入った気がした。ただ闇雲に書くのではなく、読者を意識し、物語の構成や表現を、より深く考えるようになった。もちろん、スランプに陥ることもあるけれど、以前のような絶望感はない。弥生さんという最高のミューズであり、最高の批評家が、いつも隣にいてくれるのだから。


そうだ。これで終わりじゃない。むしろ、ここからが本当のスタートなのだ。

俺は、コンテストの結果を真摯に受け止め、自分の弱点と向き合い、そして、新たな気持ちで再びキーボードに向かうことを決意した。


以前は、自分のリアルな感情を描くことに、どこか躊躇いがあった。自分の弱さや、彼女への独占欲のような醜い感情を、物語に投影することに抵抗があったのだ。

でも、今は違う。

喜びも、悲しみも、不安も、嫉妬も……その全てが、俺たち二人を形作る、かけがえのない要素なのだと分かったから。それを正直に描くことこそが、本当の意味で「リアルなラブコメ」を紡ぐことに繋がるのだと、信じられるようになったからだ。


弥生さんは、そんな俺の新しい挑戦を、また一番近くで応援してくれた。

「航が書きたいものを、航の言葉で書くのが一番だよ。私は、その物語を、世界で一番楽しみにしている読者だからね」

そう言って微笑む彼女の存在が、何よりの励みだった。


執筆は、以前よりもずっと、穏やかで、そして楽しいものになった。焦りやプレッシャーがないわけではないけれど、それ以上に、物語を紡ぐこと自体の喜びを感じられるようになっていた。

弥生さんとの関係も、安定していた。互いに忙しい日々の中でも、時間を見つけては会い、くだらない話で笑い合い、そして、夜には電話で互いを労い合う。そんな、穏やかで、満たされた日々。


時折、彼女の部屋で過ごす夜には、自然と体が触れ合い、唇を重ねることもあった。あの初めての夜のような、激しい情熱とは少し違う、もっと穏やかで、慈しむような、深い愛情に満ちたキス。彼女の柔らかな肌に触れ、甘い吐息を感じるたびに、俺はこの上ない幸福感に包まれる。

もちろん、まだ一線を越えることへの、ほんの少しの緊張感や、彼女を大切にしたいという想いから、それ以上を求めることはしなかったけれど。それでも、ただ寄り添って、互いの温もりを感じ合うだけで、俺たちの心は十分に満たされていたのだ。


(……幸せだ……)


彼女の寝顔を見つめながら、俺は何度もそう思った。

この幸せを守りたい。そして、もっと大きな幸せを、二人で築いていきたい。

そのためにも、俺は、作家として、そして一人の男として、もっともっと成長しなければならない。


新しい物語の第一稿が完成に近づいた頃、俺は、投稿サイトでの連載という形ではなく、別の方法でこの物語を発表できないかと考え始めていた。それは、まだ漠然としたアイデアだったけれど、俺の中で、新たな挑戦への意欲が、静かに燃え始めていたのだ。


   *


航との関係が、嵐のような時期を乗り越え、穏やかで安定したものになってから、私の心も、ようやく落ち着きを取り戻していた。仕事の忙しさは相変わらずだったけれど、彼の存在が、何よりの支えになっていた。彼からの「お疲れ様」のメッセージ一つで、一日の疲れが吹き飛ぶのだから、恋の力というのは本当に偉大だ。


週末に彼と会える時間が、待ち遠しくてたまらない。彼の部屋で過ごすのも、私の部屋で過ごすのも、どちらも温かくて、幸せな時間だった。

特に、私の部屋で過ごす時は、彼がすっかりリラックスしてくれるようになったのが嬉しかった。ソファで隣に座り、私の肩に頭を預けてうたた寝したり、キッチンで私が料理をしている後ろから、そっと抱きしめてきたり……。そんな、甘えたような彼の仕草に、私の心臓は毎回ドキドキさせられっぱなしだ。年下の彼氏って、こんなにも可愛いものだったのね、なんて、今更ながらに実感していた。


もちろん、甘えてくるばかりではない。彼が、ふとした瞬間に見せる、真剣な眼差しや、私を気遣う優しい言葉、そして、時折、少しだけ強引に私をリードしようとする男らしい一面には、年上である私の方が、逆にドキッとさせられてしまうことも多かった。


あの夜、初めて結ばれた後も、彼は決して焦ることなく、私の気持ちを尊重し、大切にしてくれているのが伝わってきた。それが、すごく嬉しくて、そして、彼への信頼感をさらに深めてくれた。

だから、次に彼が私を求めてきた時には、もう何の迷いもなく、喜んでその腕の中に飛び込めるだろう。そんな予感がしていた。触れ合う唇の熱さ、絡み合う指の感触、そして、彼の腕の中で感じる、絶対的な安心感……。それらを思い出すだけで、体の奥が、きゅん、と甘く疼く。


(……私も、相当、航に夢中だな……)


自分の変化に、少しだけ苦笑してしまう。でも、悪い気はしない。むしろ、こんなにも誰かを愛おしいと思える自分が、少しだけ誇らしいとさえ思えた。


そんな、幸せな日々の中で、私は、一つの大きな決断を下さなければならなかった。

会社から提示された、新しいプロジェクトのリーダー就任と、将来的な海外異動の話。

以前は、航との関係への影響を恐れて、答えを出せずにいたけれど。彼との絆を再確認できた今、私は、もう迷ってはいなかった。


上司に、自分の意思を伝えた。

「プロジェクトリーダーの件、謹んでお受けいたします。全力を尽くします」

「ただし……海外異動につきましては、現時点では、お約束できません。私には、日本で大切にしたい人がいますので」


上司は、少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに理解を示してくれた。「そうか。分かった。君の気持ちを尊重しよう。まずは、このプロジェクトを成功させることに集中してくれ」と。


自分の夢も、彼との未来も、どちらかを選ぶのではなく、両方とも大切にしていく。それは、簡単なことではないかもしれない。でも、私は、そう決めたのだ。彼と一緒にいる未来のために、私は、私自身の足で、しっかりと立っていたい。そして、彼が夢を追うのを、隣で支え続けたい。


その決断を、航に伝えた時、彼は、少しだけ驚いた顔をした後、とても優しい笑顔で、「弥生さんらしいですね」と言ってくれた。

「俺も、弥生さんの夢、全力で応援します。……だから、俺のことも、ちゃんと頼ってくださいね? 一人で抱え込まないで」

その言葉が、どれだけ私の心を軽くしてくれたことか。


私たちは、それぞれの道を歩みながらも、しっかりと手を取り合って、未来へと進んでいく。

そんな、新しいスタートラインに立ったような、清々しい気持ちだった。


航の新しい小説も、もうすぐ完成だという。彼が、どんな物語を紡ぎ出したのか、読むのが今から楽しみで仕方がない。きっと、そこには、私たちの、これまでの軌跡と、そして未来への希望が、たくさん詰まっているはずだから。


穏やかな秋の午後。窓から差し込む柔らかな日差しの中で、私は、隣で執筆に集中する彼の横顔を、そっと見つめていた。

真剣な眼差し。キーボードを叩く指。時折、小さく漏れる、唸るような声。

その全てが、愛おしくてたまらない。


私たちのラブコメは、まだまだこれから。

きっと、たくさんの素敵なシーンが、待っているはずだ。

そんな確かな予感を胸に、私は、そっと彼の肩に寄り添い、静かに目を閉じた。

彼の温もりを感じながら、二人で紡いでいく、未来の物語に、思いを馳せる。

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